1 / 3
原爆の日1
しおりを挟む
昭和20年、1945年8月9日、同月6日の広島のウラン235型核爆弾「リトル・ボーイ」に続き、長崎にプルトニウム239型核爆弾、「ファット・マン」が落とされた。
長崎だけでも死者7万4千人、負傷者7万5千人とも言われる無差別大量殺人だった。
毎年長崎市松山町にある浦上川では、犠牲者を追悼する「万灯流し」が行われ、魂のともし火のような沢山の灯篭が、犠牲者の無念の残り火のように流されていく。
父親はアッツ島で死に、長崎の実家にいた母親と弟たちは原爆で死に絶えた。アッツ島での玉砕を、当時ではとても誇り高いような言い方を軍部などに押さえられたメディアはしていたが、今では父の死を「名誉の死」とは言わなくなった。
当時の長崎の状況は、細かくは思い出すことができない。
今でも思い出そうとすると、酷くめまいがして、断片的な地獄だけが思い出される。
私は原爆の落ちた日、福岡に滞在していた。学徒すらもかりだされていた中、十九になったばかりの若造が兵役から逃れられたのは、毎日食べていたかぼちゃのおかげだった。
軍隊にとられる時には身体検査がある。その時にかぼちゃを肌に塗って、内臓疾患を訴え、運よく兵役を逃れた。その他にも、当時は病弱で若干肺炎も患っていたせいで、酷く咳き込み、疫病が蔓延しては困るとの軍の判断だった。
当時は友や家族や親族、村の人たちを裏切ったという後ろめたい気持ちがあったが、お国のため、天皇のためよりも、ただただ一心に「死にたくない」という臆病で卑怯な思いからだった。両親も先生も肩を落としていた。
精密検査をするまでの余裕はあちらにはなく、もはや大日本帝国は正常な理性や能力を失って戦争状態を続けていた。「玉砕」という言葉の中に、戦争にかりだされたら誰も生きて帰れないことは国民の誰もが感じていた。傍目にはいかにも病気である私が軍隊に入ることはなかったが、私の友人も数多くこの戦争で死んだ。
大日本帝国の全面降伏を知った時、大きな喪失感と、今まで生きてきた、今まで犠牲にしてきたものの虚しさと悲しみとを感じ、放心した。逃げたくせに、死ねばよかったとさえ感じた。それからしばらくは、この国と友のために何もできなかった自分を日々恨んだ。戦争に行くことを嫌がったのに、死者を目の前にすると何一つ言葉を発せられない自分がいた。時折、自分が犠牲にならずに大事な友を犠牲に捧げてしまったと後悔することが今でもある。しかしそのたびに「生きなければならない」と自分を奮い立たせてきた。
当時は原爆がいかなるものかもわからなかった。皆、ただの空襲ではないことがわかっていた。放射能の影響まで知る由もなかった。原爆を落としたアメリカでさえも、その影響を知らず、多くの調査員が降伏後現地に訪れたという。
助けに行った多くの人間は、放射能による二次災害で被爆し、中には死んだり、長い後遺症に苦しむ人間を多く作った。投下地点から離れた者でも、放射能の影響を強く受けた。
長崎だけでも死者7万4千人、負傷者7万5千人とも言われる無差別大量殺人だった。
毎年長崎市松山町にある浦上川では、犠牲者を追悼する「万灯流し」が行われ、魂のともし火のような沢山の灯篭が、犠牲者の無念の残り火のように流されていく。
父親はアッツ島で死に、長崎の実家にいた母親と弟たちは原爆で死に絶えた。アッツ島での玉砕を、当時ではとても誇り高いような言い方を軍部などに押さえられたメディアはしていたが、今では父の死を「名誉の死」とは言わなくなった。
当時の長崎の状況は、細かくは思い出すことができない。
今でも思い出そうとすると、酷くめまいがして、断片的な地獄だけが思い出される。
私は原爆の落ちた日、福岡に滞在していた。学徒すらもかりだされていた中、十九になったばかりの若造が兵役から逃れられたのは、毎日食べていたかぼちゃのおかげだった。
軍隊にとられる時には身体検査がある。その時にかぼちゃを肌に塗って、内臓疾患を訴え、運よく兵役を逃れた。その他にも、当時は病弱で若干肺炎も患っていたせいで、酷く咳き込み、疫病が蔓延しては困るとの軍の判断だった。
当時は友や家族や親族、村の人たちを裏切ったという後ろめたい気持ちがあったが、お国のため、天皇のためよりも、ただただ一心に「死にたくない」という臆病で卑怯な思いからだった。両親も先生も肩を落としていた。
精密検査をするまでの余裕はあちらにはなく、もはや大日本帝国は正常な理性や能力を失って戦争状態を続けていた。「玉砕」という言葉の中に、戦争にかりだされたら誰も生きて帰れないことは国民の誰もが感じていた。傍目にはいかにも病気である私が軍隊に入ることはなかったが、私の友人も数多くこの戦争で死んだ。
大日本帝国の全面降伏を知った時、大きな喪失感と、今まで生きてきた、今まで犠牲にしてきたものの虚しさと悲しみとを感じ、放心した。逃げたくせに、死ねばよかったとさえ感じた。それからしばらくは、この国と友のために何もできなかった自分を日々恨んだ。戦争に行くことを嫌がったのに、死者を目の前にすると何一つ言葉を発せられない自分がいた。時折、自分が犠牲にならずに大事な友を犠牲に捧げてしまったと後悔することが今でもある。しかしそのたびに「生きなければならない」と自分を奮い立たせてきた。
当時は原爆がいかなるものかもわからなかった。皆、ただの空襲ではないことがわかっていた。放射能の影響まで知る由もなかった。原爆を落としたアメリカでさえも、その影響を知らず、多くの調査員が降伏後現地に訪れたという。
助けに行った多くの人間は、放射能による二次災害で被爆し、中には死んだり、長い後遺症に苦しむ人間を多く作った。投下地点から離れた者でも、放射能の影響を強く受けた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる