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13.春川と冬月の昼休み
しおりを挟む「あの、春川くん。」
「何?」
「誘った僕がゆうのもなんだけど、良かったの?」
教室を少し離れたところで、そっと訊ねてみる。あの3人が一緒にお昼を過ごさないのは初めてではないだろうか。
「ん?うーん。」
春川くんは、少し考えて答えた。
「僕が冬月くんたちとお話したいって思ったからいーんだよ。」
「でも、春川くんいつもあの二人と一緒だから、本当に良かったのかなって。」
僕は思わず疑問に思っていたことを口に出してしまっていた。すると、春川くんは
「冬月くんが僕に教えてくれたんでしょ。僕には僕の世界があるんだって。」
「それはそうなんだけど。」
「最近、あの二人難しい話ばっかりしててさ。僕はバカだから、正直ついていけないなって。だから、冬月くんが誘ってくれて、僕すごく嬉しかったんだ。」
ニコッと太陽のような笑顔を見せる。要は、二人は大人になる為の少しややこしい話をしていて、それが難しかった春川くんにはつまらなかったのかもしれない。
そして、趣味が語れる友を見つけ、ただそちらを選んだだけなのだ。委員長は春川くんを僕らサイドだって言うけど、本当にそうだろうか。春川くんはこんなにも眩しくて、まるで、自分の仄暗い所が浮き彫りにされるようだった。
「ごめん。春川くん実は…」
「お、春川、冬月。こっちだぞ。」
「席空けて待ってたよ。」
ちょうど食堂に着いたところで、先に委員長達に発見されてしまっていた。
「えと...あ、はーい。」
春川くんは呼ばれるままに委員長たちの元へ足早に向かった。僕は、僕達は見当違いなことをしている。委員長たちの暴走を止めないと。春川くんが傷つかないように僕がなんとかなしないと。僕も慌てて春川くんの後を追って委員長たちの席に行った。
「ヒーローってすごいよね。大切な人の為ならなんでも出来る。」
「そう。どんな強い相手にも屈しない」
「負けても、必ずリベンジするんだ。」
「困ってる人の所に必ず現れて救ってくれる。」
「法律じゃ裁かれない悪も成敗する」
「あー。やっぱりヒーローっていいよね」
4人でテーブルを囲みながら、ヒーロー談義に火がつく。
「冬月がさ、ヒーローには憧れるって言うんだけど、ヒーローになりたいのとは違うって言うんだよ。春川はどう思う?お前はヒーローになりたいよな?地位も名誉も女も金も、この手に全て手に出来るんだぜ?いいだろ。」
「僕?子供の頃はなりたいって思ってたけど、今は違うかなぁ。」
「どう変わったんだ?」
「僕は平凡だし、僕よりもヒーローに相応しい人はたくさんいるんだもん。僕はヒーローにはなれないって分かっちゃったからかな?」
「うわー。春川夢無さすぎるよー。2次元ではなんでも出来るんだから、春川だって望めばヒーローになれるって。」
「そうかなー。」
「そうに決まってる。諦めるなよ。諦めたらそこで試合は終了だって昔の誰かが言ってたんだから。」
「それって某漫画のキャラのセリフでは?」
「いいんだよ別にそんなの。存在してる人でもしてない人でも。その言葉をどう受け取るかが大事なんだから。」
「それも一理ありますね。」
「でも、平凡なヒーローなんて、つまらないでしょ。だから僕は弁えてるんだよ。僕はヒーローに向いてないって。」
「はー、もういいよ。冬月は?お前はなんでヒーローにはなりたくないんだ?」
「え、僕?僕は、助けて欲しいからかな。」
「まさかお前、ヒロイン役にでもなりたいのか。そっち系?」
「いや、そういう事じゃなくて。現実問題、嫌なこといーっぱいあるでしょ。だから、そーゆーの、全部ヒーローが片付けてくれないかなぁって。だから、ヒーローは僕の心の支えなんだ。」
「お前もよくわかんねぇこと言うんだな。ヒーローに憧れる!ヒーローになりたい!これがセオリーってやつじゃないのかよ。」
「委員長。みんなが皆同じことを望んでたら、例えばみんながヒーローになることが幸せだと考えてたら。なれなかった人は皆不幸だって言いたいの?それは違うよね。」
「あぁ、確かにそれは違うな。」
「だったら、僕達のヒーローへの考え方も間違っちゃいないよね。」
「そうだな。あ、あの、春川さ。困ったことってないか?」
「ん?ないよ。いや、期末テストは悩みかな。」
「そうか、まぁそれは俺らも一緒だよ」
春川と話していて、虐められているのでは?と勘ぐったことは間違いだったと気付いた。春川は思ってたより単純でもないのかもしれないと委員長は思った。
「実はさ。俺ら、春川があの二人に虐められてるんじゃないかって心配事してたんだ。」
そう言うと、春川は目を丸くして言った。
「そう!虐められてるよー!夏木くんは違うけどね!秋瀬だよ!あいつにはいつも虐められてる。今日の現国の授業中だって、あいつが僕の頭に消しゴムをぶつけてきて、あんなことに...」
思い出しただけでも腹が立つやら恥ずかしいやらで、顔が赤くなる。
「消しゴムを?なんでいきなり。」
「や、それは。僕が授業中にラクガキをしてたら、秋瀬に見つかった...から?」
「それはお前が悪い」
「春川くん。それは自業自得です。」
「委員長、副委員長まで、僕の味方はどこにもいないのかー。」
そう言って冬月の方を向く春川
「春川くん、それはイジメじゃなくて、注意だね。」
冬月にもそう言われ、帰す言葉もなくなった春川。
「あー、僕を救ってくれるヒーローは一体どこに。」
「ヒーローは正義の名のもとに、動くから。悪いことしてるやつのとこには救いは無いぞ」
「そうですよ。春川くんはヒーローとはなんたるかをもう少し勉強する必要があります」
冬月は苦笑いで春川を見た。
委員長が時計を見ると、お昼休み終了まであと10分。そろそろ教室に戻ろうと立ち上がり、4人で教室に向かった。
───
帰る途中、担任が前から歩いてきた。片耳にイヤホンをして誰かと話しているようだった。僕の姿を確認すると、すぐに話しかけてきた。
「お、春川ー。休み時間は少しでも寝れたか?」
ニヤニヤと笑っている。
「寝てませんから!」
「いいんだよ。寝ても。俺の授業がそれだけつまらないってことだろ。先生も頑張らないとな。」
担任はハーとわざとらしくため息を着く。
「違いますよ!本当です。僕寝てたわけじゃなくて秋瀬が......」
と言い掛けて、寝てたわけじゃないけど、ラクガキをしていたので、どっちにしろ同じかと思い、言い訳を辞めた。
「ん、秋瀬がどうかしたのか?」
「もう、いいです。」
その場を離れようとすると、担任は僕の肩を掴み、顔を覗き込んできた。
「秋瀬となんかあったのか?先生に話してみてもいいんだぞ。」
目の奥が怖い。胸がザワザワとする。肩に置かれた腕に寒気が走る。この感覚を、僕は知っている。急に喉元からさっき食べたお昼ご飯が上がってきそうになる。
─キモチワルイ
その空気を察したのか、冬月が話しかける。
「先生!もうすぐ授業が始まるんで、僕達失礼します」
そう言って春川の腕をぐいっと引くと、教室まで引っ張って行った。大人の大きな男に威圧されるのはあんなに怖いことなのか。
笑っていない目で肩を掴まれた時のことを思い出してゾッとした。僕はまだ子供なのだ。大人に適うわけがないのだ。力も権力も地位も、平凡な僕にはない。
教室に着いてもまだ恐怖は治まらなかった。青い顔のまま教室に入ってきた僕を見つけると、すぐに秋瀬が駆けてきた。
「どうしたんだ春川!」
声を掛けても返事をしない春川に、秋瀬は一緒に帰ってきた3人に今にもとび掛かる勢いだった。
「秋瀬くん実は...」
意を決して冬月が秋瀬に話し掛け、先程起きたことを完結に伝える。すぐに冷静になった秋瀬は、冬月に、ありがとうと言い、春川を教室の外に連れ出した。その様子を見ていた夏木も慌てて2人を追いかけて行った。
冬月は、あの3人と担任は何かあるのかもしれないと勘づいたが、巻き込まれたくないので、そのまま席に着いた。
すぐに5限目の授業になり、先生が入ってきた。委員長が気を利かして、春川が倒れたので、心配して秋瀬と夏木がついていったことを説明し、授業が始まった。
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