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15.冬月と三人組
しおりを挟むなかなか帰ってこない春川くんが心配になり、お腹が痛くなったという理由で僕は教室から出てきた。僕はストレス性胃腸炎持ちなので、いつものことかとすんなり教室から出ることが出来た。
保健室に向かって歩いていると、三人組が前から歩いてきた。真ん中で、春川くんが歩いている。どうやら歩けるくらいには回復したらしい。僕は慌てて駆け寄った。
「は、春川くん大丈夫?」
「うん、心配かけてごめんね。ちょっと貧血気味で、しんどくなっちゃったみたい。」
「そっか。良かったー」
少し血色が戻ってきている。担任に声を掛けられてから、春川くんは様子がおかしくなった。担任と春川くんの間には、あの時絶対異常な何かが流れてた。巻き込まれ型不運の続く僕の危機察知能力は、こんな時役に立つ。気づいた時にはちょっと遅かったけど。
「冬月。」
「は、はいっ」
目付きの怖い春川の隣の席の秋瀬くんにいきなり話しかけられ、僕は思わず声が裏返る。恐る恐るそちらを見ると、少し顔を赤くしてそっぽを向きながら、頭を掻いていた。
「お前が春川救ってくれたんだってな。ありがとう。」
すると、それを聞いていた春川くんが、ちっちっちっと人差し指を左右に動かし、
「秋瀬はダメだなぁ。お礼言う時はちゃんと相手の方に体に向けて、お辞儀するんだよ。」
と、お礼のダメ出しをしていた。いや、こんなキラキラ人間が、底辺の僕にお礼を言ってくれてる、寧ろ僕なんかに声をかけてくれることが奇跡だから、そんな折角のご好意に、ダメ出しなんて(汗)僕は、あぅあぅ言いながら、2人を眺めた。
「ちっ。うっせーな。そもそも、お前が助けてもらったんだから、お前がやれよな。」
「あ、そっか。じゃぁ僕がお手本見せるから、秋瀬もやるんだよ。はい、姿勢を良くして...」
「冬月」「冬月くん」
「春川を」「僕を」
「「助けてくれて、ありがとう」」
その二人を見て、合わせるように夏木くんまで、綺麗なお辞儀をして見せた。
なにこれなにこれ、僕に今何が起こってるの。春川くんとそのお友達のキラキラ2人組が、何故か僕に深々とお辞儀をしている。どういう状況???
僕は半ばパニックになりながら、心臓をバクバクさせていた。
「はい、上手に出来ました。」
振り返って二人に拍手を送る春川くん。秋瀬くんに、調子にのんなと頭にデコピンされていた。うわ、痛そう。そして、それとは別に、じっとこちらを見ている視線を感じた。
「冬月くん、どっかで会うた事ない?」
そう聞かれ、僕の心臓は更にドキドキが高鳴る。夏木くんの整った顔が僕をまっすぐ見てる。キラキラ過ぎて、死ぬ...
「夏木お前、それナンパかよ。」
「夏木くん何言ってんの。クラスメイトだから、毎日教室で会ってるでしょ。僕達もうすぐ入学して3ヶ月になるんだよ?」
「え、ナンパ?知らんてなんやそれ。そりゃクラスメイトやけど、そうやなくて、別のどっかで...」
夏木くんは顔を赤くして、モゴモゴと言葉を濁らせた。どこかで会ったかと言われ、こんなキラキラさん。僕の人生で今までお目にかかったことなんて無いはずだ。でも、かすかに、僕を呼ぶ誰かの記憶が、夏木くんと重なる。
思い出そうとすると頭痛がしたので、考えることをやめた。本当に体調が悪くなってきたので、このまま保健室に行くことにした。
「あの、僕頭痛いのでこのまま保健室行ってきます。」
それを聞いて春川くんが僕が着いていく!と言ったけど、春川くんが来るということは、後ろの二人も着いてきそうなので、それだと余計にしんどくなりそうで。謹んで辞退させてもらった。
それにしても、キラキラの二人をバックにして、僕に手を差し伸べた春川くんは、天使のように見えたなぁ。そう思いながら、僕は一人、保健室に向かった。
───
冬月を見送り、俺は前を歩く秋瀬と春川の話を聞いていた。
「6限目は数学かー。憂鬱の極み。」
「お前が真面目に授業聞かないから、余計分からなくなるんだろ。」
「だって数字見てるとなんか眠くなってくるんだよねー」
「苦手だって思うから、脳が逃げてんだよ」
「なんだって!脳が悪いのか。じゃぁこうやって頭を押さえてたらいいのか!よし、脳逃げんな!秋瀬もほら、逃げないように手伝ってよ。」
両手で頭を押さえている春川を、呆れ顔で見ている秋瀬。
「いや、お前ほんとバカ過ぎ。お前の脳が不憫だわ。」
「えー!脳が悪いんでしょ!捕まえとかないと!」
前でギャーギャーといつものように騒いでいる。
さっきの保健室での出来事は、なんだったんだろうか。俺の白昼夢だったとでも言うのか。頬をつねるとじんわり痛い。今は現実のようだった。
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