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賢者と飛竜と密猟者(1)
しおりを挟むそれは駆除を終えた帰り道の事だった。
突如として森の鳥達が一斉に飛び立ち、小動物が怯えるように一方から駆け抜けていった。
明らかな、異常事態だ。
「ノル、俺とリューエさんから離れるなよ」
「師匠?」
「リューエさん」
「うん。ティトはそのまま周囲を警戒してて、僕は索敵に入るよ……」
言って紋様を起動して周辺の様子を視る。
鳥や多くの野生動物だけでなく、小型の魔獣すら何かに怯えて一目散に逃げている。何かイレギュラーがいるとしか思えない。
動物たちが逃げた方向をさかのぼって索敵していく。その先に視えたのは。
狂ったように咆哮を上げて飛び回る、大きな翼。
「あー。これは飛竜だね。比較的小型の雌、この辺じゃ山岳地帯でしか見ない種類のやつだ」
今いるここは平坦な森、飛竜が縄張りにするようなエリアじゃない。
「リューエさん、それってもしかして」
「うん、状況から言ってほぼ間違いなく卵の密猟だね。飛竜もかなり気が立ってる」
言うのとほぼ同時に、僕達の上空を黒い影が通り過ぎる。
飛竜は鼻が利くから卵の臭いのない僕達を襲う事はないはずだけど、念の為に身を屈めてやり過ごした。
でもどうやらこの周辺を旋回しているらしく、中々飛び去ってくれそうにはない。
「ノル、ひとまずこれをやり過ごしたら森から出るよ。走れそう?」
「大丈夫。飛竜って強いのか?」
「一般的にはね。飛んでるからリーチの無い剣士職には鬼門だし、攻撃力も高いから。攻撃さえ当てられればノルでも倒せるとは思うけど、今回無理に狙う事はないよ」
あの飛竜はあくまで密猟者と卵を追って飛んでいるはずだ。このままやり過ごして安全に帰るべきだろう。
……卵、無事だといいけど。
もう一度、索敵範囲を変えて辺りを調べてみると、然程離れていない場所に人間が複数固まっているのが見えた。
多分、こいつらが密猟者だな。
コツン、ともうひとつ紋様を起動して、視界に彼等の詳細を映す。
密猟者は4人、大して強くもない装備に連携もいまいちな動き。多分誰かに雇われただけのにわかパーティだ。
ボロ布でできたナップサックからはみ出した飛竜の卵が、森の木漏れ日を浴びてキラキラと光っていた。
いや、それは駄目だろう。
「ああもう何やってるんだあいつら!」
馬鹿なの?
いや馬鹿だな、馬鹿なんだな。飛竜の卵を密猟なんかする時点で馬鹿以外の何者でもないけどさ!
飛竜の鼻が利くのは有名な話だし、密猟するならせめて卵を臭い消しで包んでおくべきだろう。
それすらせずに、剥き出しの卵を抱えて森を抜けようとしているだなんて、無知だし迷惑この上ない。
あれでは飛竜を自分の元へ誘導しているようなものだ。
「う、嫌だぁ……あんな馬鹿に関わりたくないぃ……」
思わず声に出して頭を抱えてしまう。
あんな奴らの尻拭いをするのは嫌だけど、見てしまったからには放置できる問題でもなかった。
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