女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎

文字の大きさ
171 / 386
第5章 冒険者の少女、異世界の為に頑張る。

132話 トロール本拠点侵攻作戦

しおりを挟む




「みなさん、おひさしぶりです。シオン様の最大の心友・知友にして、運命のパートナー、あとこの国の王女アリシア・アースライトです。今回もミレーヌ様の執務室に待機しています。わたくしのティーカップは既に一つ壊れています。シオン様に何か不吉なことがあるのではないかと、とても不安です。ちなみに前回のトロール戦でも一つ壊れてしまいました。その時はシオン様が吐血なさったそうなので、今回もそうならないかと心配です……」

「アリシア様、誰に向かって言っているんですか? あと、長い!」

 ミレーヌは久しぶりの登場で、爪痕を残そうとしている若手芸人のようなアリシアの長い述懐に対してツッコミを入れた。

「それにしても、わたくし今回の危険な侵攻作戦へのミリアちゃんの参加を、ミレーヌ様は反対すると思っていました」

「アリシア様。私は公人として、他の者達を死地に送っているのに危険だからと言って、身内の参加を止めるわけにはいかないのです」

 アリシアのその質問に対して、ミレーヌは複雑な表情で答える。

(ミリアちゃん、無事に帰ってきて……)
(シオン様、どうかご無事で……)

 二人は大切な人の無事を心の中で祈った。
 トロール本拠点はトロール達が住むため拠点の壁は高く8メートルぐらいあり、そのため内部の様子を窺い知ることはできない。

 拠点の周りは平地になっており、そこに防御柵がいくつも設置されている。
 平地の左右には、森が広がっており伏兵にはもってこいだが、巨体のトロールが潜んでいれば解るであろう。

「念の為に偵察を出しておくか……」

 ユーウェインは左右の森に偵察を出し、敵のいないことを確認する。
 戦闘態勢を整えるとユーウェインは、投石機に本拠点への攻撃の指示を出す。

「攻撃開始!」

 ユーウェインの攻撃命令を受けた2台の投石機は、本拠点に向けて投石を開始する。
 投石機によって放物線を描いて飛ばされた大きな石は、本拠点の壁にぶつかり少しずつ破壊していく。

 すると、本拠点の大きな門が開き中からトロールが、迎撃のために出撃してきた。

「数は!?」

 ユーウェインはリディアにトロールの数を確認させると、彼女はイーグルアイで数を確認する。

「数は22です。城壁に掲げられている旗の数2本と同じです」
「2は副官だな……」

 そして、最後に門から四天王のデナリが出てきた。

「コウゲキカイシ!」

 デナリの攻撃命令ともに、トロール20体はゆっくりと進撃を始める。

「遂に戦いが始まる!」

 そう言って刀を抜いて、二刀流で構えると声をかける紫音。

「みんな! 無理せず、一生懸命戦おう!」
「言われなくても、わかっているわよ!」

 ソフィーも同じく二刀流で構えながら返事する。

「行くッスよ、ミー!」
「ホ――!」

 リズも弓を構えながら、ミーに声をかけた。

「ケットさん、暗示はもういいからね」
「ナー」

 ミリアは勇気を振り絞って、恐怖に耐えるために杖を両手で強く握ってそう答える。

 そうこうしているうちに、周りの冒険者達が迎撃のフォーメーションを取りながらすばやく前進し始めた。

「よーし、みんな私達も行くよ!」

 その中で紫音もPTメンバーにそう声を掛けて、前に出ようとする。

「お嬢ちゃん達は、おとなしく後ろで待機していな!」

 すると、大手クランのメンバーにそう言われて、邪魔者扱いされてしまう。

「なんですって!?」

 ソフィーが反射的に言い返すが、前を見てみると大手クランメンバーによって前線は混雑気味になっていて、確かに紫音達が戦えるスペースはなかった。

 大手クラン2つと小さなクラン3つ合計200人によって、前線はすっかり冒険者で一杯になっている。

「これなら無理して、私達が前に出て戦う必要ないね」

 それを見た紫音はそう言って、これ幸いとあっさり投石機付近で、待機する事を選択した。

「そうッスね。無理して前線で危ない目に合う必要はないッス」
「私も……、そう思います……」

 サボり魔リズと怖がりミリアが、ヘタレリーダーに賛同する。

「アンタ達ね! そんな気構えでどうするのよ!」
「じゃあ、ツンデレお姉さんだけで戦ってくればいいッス!」

 リズは一人やる気のソフィーにそう言い放つ。
 そして、紫音も続けてこう言った。

「そうだよ、ソフィーちゃんだけで前線を走り回って、その自慢の胸を揺らしてくればいいよ。地平線胸の私は胸と一緒で、ここに微動だに動かずに待機しているよ」

 どうやら、紫音はさっきのソフィーの言葉を根に持っているようだ。
 そして、動けずにいたのは騎士団も同じであった。

「どうしますか、隊長?」

「この状況では、下手に前線に加わっても混乱をきたすだけだ。少しここで警戒態勢を維持したまま待機する」

 リディアの問いにユーウェインはそう答え、騎士団に警戒態勢のまま待機を命じる。

 大手クランが前線を占拠したのには理由があり、トロールとの戦果で本拠点にあるであろう財宝の分配量を決定する事を、あの大会議室での話し合いの後に彼らも密談して取り決めていたのであった。

 トロール達はまず前衛として10体をゆっくり前進させ、残り10体は後方で待機しており、前進したトロール達は本拠点から100メートル進んだ所で、設置している防御柵の後ろに待機する。

 だが、トロール達が防御に使っている防御柵は、彼らの巨体を守るには少し小さく上半身は丸出しになっていた。

「やっぱり、獣人は頭が弱いな!」

 冒険者達はその上半身に矢を射掛け、遠距離から魔法を撃ち込みダメージを与えていく。
 戦場の位置関係は、冒険者の前衛が本拠点から120メートルの位置、後衛が170メートルの位置、紫音達とユーウェインが投石機と共に300メートルの位置に、そして、エレナ達重傷者の回復役が350メートルの位置になっていた。

「前線の大手クランと我々の間に、空白ができてしまいました。連携を取るためにも、我々も少し前進したほうがいいのではありませんか?」

 エドガーがユーウェインに進言する。
 その頃、ミーのレーダーが上空から何かが迫って来ていることに反応して「ホ――!ホ――!」とうるさく鳴き始めた。

「ミー、うるさいッス!」

 後方で待機していたリズはすっかり気が緩んでいたため、即座にミーの報告を理解できずに反応が遅れてしまった。

「どうしたの、リズちゃん?」

 紫音はリズとミーの会話が気になり、彼女に質問する。

「ミーが前方の上空から、何か迫ってきているって言っているッス。」
「上空から?」

 紫音とリズ、そして、横で話を聞いていたソフィーが前方の空を見上げた。

「そうだな……。騎士団、前進す――」

 彼がエドガーの進言を聞いて、騎士団に前進命令を出そうとした時、大きな影が前衛のいる地面を走ったと思った瞬間、何か巨大なモノが上空から冒険者達の後衛が展開していた場所に落下する。

 そして、激しい地面の揺れと大量の土煙を生み出し、落下地点にいた後衛部隊は大損害をこうむった。

「そんな……」
「なんだと……!?」

 その揺れに何とか耐えた紫音とユーウェインが、砂煙の晴れかけてきた前方の落下地点を見ると、そこには四天王キリマンジャロが立っていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...