この世界では、魔王よりも最恐救世主ちゃんの方が問題である!

土岡太郎

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第一章 ユミハ 入学試験編

4 入試試験開始

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「受験者って、意外と少ないね」

 試験会場である教室に着いたユミハの第一印象は、少し驚きを含んでいた。
 教室内には受験生が二十人ほど座っていたが、空いている席もまだ十席ほど残っていたからだ。

「入学試験は、学力テストと身体能力測定の二つがあるのは知ってるよね? だから、試験を一日で終わらせるために、受験日をいくつかに分けて、受験生を少人数ずつ振り分けているみたいだよ」

 リズは、ネットで調べたことをユミハに教えた。

「インターネットは~、操作を誤ると危ない所に繋がるから~、気をつけてね~~」

 それは、機械に疎い母マリナがよく口にしていた言葉だった。
 ユミハ自身もまた、機械の扱いは得意ではない。

(うっかり変なボタンを押して、怖い画像が出てきたらどうしよう……)

 そんな不安が先に立ち、ユミハはネットで調べること自体を避けてしまう。
 リズはそんな彼女を理解し、余計なことは言わず、必要な情報だけをそっと補ってくれていた。

 学力テストはマークシート方式で、聖徒戦士として必要な基礎知識のほか、簡単な計算や読み書き、歴史といった一般常識も含まれている。

(わかる…! 私にも答えがわかるよ! ……あっ、ここわからない……)

 成績が体育以外あまりよろしくないユミハであったが、勉強したおかげで合格することができた。

 ――もっとも、学力テストで不合格になる受験者は、例年一人から三人程度にすぎない。
 難易度自体がそれほど高くないことに加え、受験者のほとんどは、養成学校に入ってでも聖徒戦士になりたいと強く願う者たちだ。
 そのため、多くが必死に勉強を重ねて、この試験に臨んでいる。

 昼食後――
 ユミハたち合格者は動きやすい服装に着替え、身体能力測定のため、グランドに集合していた。

 その中に、例の赤い髪のツンデレ少女の姿を見つけたユミハは、思わず手を振ってみる。
 だが、相手はちらりとこちらを見ただけで、ぷいっと顔を背けてしまった。
 そのためユミハは、少しショックを受けてしまう。

「まずは持久走だ! 距離は近接職8キロ、中距離職6キロ、後衛職4キロだ! 制限時間はそれぞれ50分、40分、30分! 受験番号順に順次十名ずつ開始する!」

 筋肉質の試験官の説明が、静かなグランドに響く。

 持久走では、エルザが何度もふらつき、限界ぎりぎりの様子だったが、ユミハたちの助けもあり、全員が制限時間内にゴールすることができた。

 次の試験を待つ休憩時間。
 ユミハたちが羽を休めていると、周囲の受験生たちの間で、次第にざわめきが大きくなっていった。

「なんだろう?」

 不思議に思って周囲を見回すユミハの横で、リズはさりげなく聞き耳を立て、周囲の会話から情報を拾っている。

「どうやら、あの<六英雄>のお二人が来ているみたいだよ」

 試験官たちが集まっている白いテントの近くで、その姿を見かけた者がいるらしい。

 六英雄――
 四十年前、魔物の大侵攻を食い止めた戦いで、中心となって戦った英雄たち。
 その激戦で三人が戦死―― 殉教し、その後さらに一人が病に倒れ、現在存命しているのは二人だけとなっている。

「まさか、お二人が、こんな極東の試験にまで、わざわざ視察にいらっしゃるなんて……」

 それだけでも異例の出来事だった。
 校長自らが白いテントの前で深々と頭を下げ、二人を迎えている光景が、その特別さを物語っている。

 一人は、教会運営―― いや、この世界の運営を実質的に担う【十二使徒】の一席を占める、<アガサ・F・サウスゲート>。

 六十代ではあるが、かつて戦場で〈聖女〉と称えられたその面差しには、優しさと気品、そして今なお凛とした気配が宿っている。

 慈愛と威厳、その双方を自然に併せ持つ存在だった。

 もう一人は、<拳聖>の称号を持つ<ユルゲン・エルガー>。

 七十を超える年齢でありながら、鍛え上げられた肉体はいささかも衰えを見せず、その技はむしろ磨かれ、いっそう冴えわたっている。
 髪は白く短く刈り込まれ、鋭い眼光は若い頃から変わらない。

 かつては【十二使徒】の一人であったが、“とある事件”をきっかけに自らその座を辞し、現在は聖徒戦士運営支援部の特別顧問を務めている。

「私たちが勝手に来ただけですから、そう畏まらなくても大丈夫ですよ」

 そう言って、柔らかな笑みを浮かべるアガサに対し、

「ワシは、アガサがどうしても見てもらいたい受験者がおると言うからな。少しばかり、興味が湧いたんじゃよ」

 エルガーはそう続けると、隣に立つアガサへと視線を向けた。

「それで、オマエさんのお眼鏡にかなった受験者とはどいつなんじゃ?」
「試験を見ていれば、わかりますよ。きっと、ユルゲンも驚くわよ」

 だが、それ以上は教えてもらえなかった。
 アガサは「うふふふ」と含み笑いを浮かべるばかりで、はぐらかすように答えを濁す。

 それを見て、百戦錬磨の老戦士は軽く肩をすくめると、その鋭い眼差しを受験生たちへと向けた。

(……ほう)

 視線が、赤い髪の少女を捉える。

(潜在能力はある……いや、相当に高い。だが――修練が足りとらん。才能に胡座をかいておるな……)

 赤髪の少女を視界に入れた瞬間、その評価は定まった。

(現状のままなら、ワシの手にかかれば……五分……いや、十分もかからんな)

 エルガーはそう結論づけると、興味を削がれたように視線を外し、次なる受験者へと目を向ける。

(……あの茶髪の坊主か。才能はさっきの嬢ちゃんと同程度……。そこそこ鍛えているようじゃが、まだまだ。十分もあれば片がつく)

 しかし、それでも―― どちらも合格点には届かない。
 エルガーはそう判断すると、次の受験者へと視線を移していった。

 そして次に、エルガーが目を留めたのは、楽しげに会話を交わすユミハたちの姿だった。

(あの嬢ちゃん達も、なかなかに鍛えとるのう。……まとめて相手をしても、十五分もあれば――)

 そう考えた、その瞬間。

 拳聖と称された老達人の慧眼が、ふと違和感を捉え――そして、少女の本当の実力を見抜いた。

(――!?)

 思わず、息を呑む。

(……ほう。なるほど……。アガサが気に入るわけじゃな。あの若さで、あれほどまでに鍛え上げておるとは……)

 纏う雰囲気、呼吸、何気ない立ち姿。
 そこから導き出される実力を、エルガーは無意識に測定し直していた

(……負ける気はせんが、これは骨が折れそうじゃわい。しかし、いったい何者じゃ? これほどの逸材なら、ワシの耳にも入っておるはずだが……)

 老達人がその正体を探るべく思考を巡らせたところで、次の試験開始を告げる合図がグラウンドに鳴り響いた。
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