5 / 6
第一章 ユミハ 入学試験編
4 入試試験開始
しおりを挟む「受験者って、意外と少ないね」
試験会場である教室に着いたユミハの第一印象は、少し驚きを含んでいた。
教室内には受験生が二十人ほど座っていたが、空いている席もまだ十席ほど残っていたからだ。
「入学試験は、学力テストと身体能力測定の二つがあるのは知ってるよね? だから、試験を一日で終わらせるために、受験日をいくつかに分けて、受験生を少人数ずつ振り分けているみたいだよ」
リズは、ネットで調べたことをユミハに教えた。
「インターネットは~、操作を誤ると危ない所に繋がるから~、気をつけてね~~」
それは、機械に疎い母マリナがよく口にしていた言葉だった。
ユミハ自身もまた、機械の扱いは得意ではない。
(うっかり変なボタンを押して、怖い画像が出てきたらどうしよう……)
そんな不安が先に立ち、ユミハはネットで調べること自体を避けてしまう。
リズはそんな彼女を理解し、余計なことは言わず、必要な情報だけをそっと補ってくれていた。
学力テストはマークシート方式で、聖徒戦士として必要な基礎知識のほか、簡単な計算や読み書き、歴史といった一般常識も含まれている。
(わかる…! 私にも答えがわかるよ! ……あっ、ここわからない……)
成績が体育以外あまりよろしくないユミハであったが、勉強したおかげで合格することができた。
――もっとも、学力テストで不合格になる受験者は、例年一人から三人程度にすぎない。
難易度自体がそれほど高くないことに加え、受験者のほとんどは、養成学校に入ってでも聖徒戦士になりたいと強く願う者たちだ。
そのため、多くが必死に勉強を重ねて、この試験に臨んでいる。
昼食後――
ユミハたち合格者は動きやすい服装に着替え、身体能力測定のため、グランドに集合していた。
その中に、例の赤い髪のツンデレ少女の姿を見つけたユミハは、思わず手を振ってみる。
だが、相手はちらりとこちらを見ただけで、ぷいっと顔を背けてしまった。
そのためユミハは、少しショックを受けてしまう。
「まずは持久走だ! 距離は近接職8キロ、中距離職6キロ、後衛職4キロだ! 制限時間はそれぞれ50分、40分、30分! 受験番号順に順次十名ずつ開始する!」
筋肉質の試験官の説明が、静かなグランドに響く。
持久走では、エルザが何度もふらつき、限界ぎりぎりの様子だったが、ユミハたちの助けもあり、全員が制限時間内にゴールすることができた。
次の試験を待つ休憩時間。
ユミハたちが羽を休めていると、周囲の受験生たちの間で、次第にざわめきが大きくなっていった。
「なんだろう?」
不思議に思って周囲を見回すユミハの横で、リズはさりげなく聞き耳を立て、周囲の会話から情報を拾っている。
「どうやら、あの<六英雄>のお二人が来ているみたいだよ」
試験官たちが集まっている白いテントの近くで、その姿を見かけた者がいるらしい。
六英雄――
四十年前、魔物の大侵攻を食い止めた戦いで、中心となって戦った英雄たち。
その激戦で三人が戦死―― 殉教し、その後さらに一人が病に倒れ、現在存命しているのは二人だけとなっている。
「まさか、お二人が、こんな極東の試験にまで、わざわざ視察にいらっしゃるなんて……」
それだけでも異例の出来事だった。
校長自らが白いテントの前で深々と頭を下げ、二人を迎えている光景が、その特別さを物語っている。
一人は、教会運営―― いや、この世界の運営を実質的に担う【十二使徒】の一席を占める、<アガサ・F・サウスゲート>。
六十代ではあるが、かつて戦場で〈聖女〉と称えられたその面差しには、優しさと気品、そして今なお凛とした気配が宿っている。
慈愛と威厳、その双方を自然に併せ持つ存在だった。
もう一人は、<拳聖>の称号を持つ<ユルゲン・エルガー>。
七十を超える年齢でありながら、鍛え上げられた肉体はいささかも衰えを見せず、その技はむしろ磨かれ、いっそう冴えわたっている。
髪は白く短く刈り込まれ、鋭い眼光は若い頃から変わらない。
かつては【十二使徒】の一人であったが、“とある事件”をきっかけに自らその座を辞し、現在は聖徒戦士運営支援部の特別顧問を務めている。
「私たちが勝手に来ただけですから、そう畏まらなくても大丈夫ですよ」
そう言って、柔らかな笑みを浮かべるアガサに対し、
「ワシは、アガサがどうしても見てもらいたい受験者がおると言うからな。少しばかり、興味が湧いたんじゃよ」
エルガーはそう続けると、隣に立つアガサへと視線を向けた。
「それで、オマエさんのお眼鏡にかなった受験者とはどいつなんじゃ?」
「試験を見ていれば、わかりますよ。きっと、ユルゲンも驚くわよ」
だが、それ以上は教えてもらえなかった。
アガサは「うふふふ」と含み笑いを浮かべるばかりで、はぐらかすように答えを濁す。
それを見て、百戦錬磨の老戦士は軽く肩をすくめると、その鋭い眼差しを受験生たちへと向けた。
(……ほう)
視線が、赤い髪の少女を捉える。
(潜在能力はある……いや、相当に高い。だが――修練が足りとらん。才能に胡座をかいておるな……)
赤髪の少女を視界に入れた瞬間、その評価は定まった。
(現状のままなら、ワシの手にかかれば……五分……いや、十分もかからんな)
エルガーはそう結論づけると、興味を削がれたように視線を外し、次なる受験者へと目を向ける。
(……あの茶髪の坊主か。才能はさっきの嬢ちゃんと同程度……。そこそこ鍛えているようじゃが、まだまだ。十分もあれば片がつく)
しかし、それでも―― どちらも合格点には届かない。
エルガーはそう判断すると、次の受験者へと視線を移していった。
そして次に、エルガーが目を留めたのは、楽しげに会話を交わすユミハたちの姿だった。
(あの嬢ちゃん達も、なかなかに鍛えとるのう。……まとめて相手をしても、十五分もあれば――)
そう考えた、その瞬間。
拳聖と称された老達人の慧眼が、ふと違和感を捉え――そして、少女の本当の実力を見抜いた。
(――!?)
思わず、息を呑む。
(……ほう。なるほど……。アガサが気に入るわけじゃな。あの若さで、あれほどまでに鍛え上げておるとは……)
纏う雰囲気、呼吸、何気ない立ち姿。
そこから導き出される実力を、エルガーは無意識に測定し直していた
(……負ける気はせんが、これは骨が折れそうじゃわい。しかし、いったい何者じゃ? これほどの逸材なら、ワシの耳にも入っておるはずだが……)
老達人がその正体を探るべく思考を巡らせたところで、次の試験開始を告げる合図がグラウンドに鳴り響いた。
0
あなたにおすすめの小説
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。
そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。
だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。
凛人はその命令を、拒否する。
不死であっても無敵ではない。
戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。
それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。
女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。
これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる