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第一章 ユミハ 入学試験編
3 出会い(おっとり編)
しおりを挟む「あっ…… ありがとう……」
私は差し出された箱を受け取り、そっと蓋と内部包装を開けた。
中から、甘い花のような香りがふわりと漂い、鼻の奥に広がっていく。
思わず目を閉じて、ゆっくり息を吸う。
さっきまで、ドキドキうるさかった心臓が、少しだけ大人しくなった気がする。
「ありがとう。緊張が、ちょっと収まってきたみたい」
そう言ってもう一度お礼をすると、女の子はふいっと顔を背けた。
「べ、別に……困った時はお互い様なだけよ」
そっけない声と態度。
でも、横を向いたままの横顔は、さっきよりも赤い。
「まあ、でも…… 効果があったんなら、よかったんじゃない?」
(……本当は、優しい子なのかも?)
私は胸の中でそう思いながら、もう一度ハーブの香りを吸い込む。
甘い香りと一緒に、さっきまでのドキドキが、少しだけ遠くなった気がした。
(“友達”になれるかも……)
そんなことを考えた、その時。
「じゃ、じゃあ……私はこれで失礼するわ!」
女の子はそう言い残すと私たちに背を向け、呼び止める間もなく、駆け足で隣の車両へと移っていった。
「あ……」
伸ばしかけた手は、そのまま宙に止まる。
「友達になれそうだったのに……」
残念な気持ちがぽろっとこぼれて、私は小さく呟いてしまう。
すると、リズちゃんがその独り言に反応した。
「ユミハちゃん、さっきの女の子は、たぶん私たちと同じ受験者だと思うよ。だから、きっとまた会えるんじゃないかな」
「見た目の年齢と服装から見ても~、カレンもそう思うよぉ~」
カレンちゃんも、リズちゃんの推察にうなずく。
でも、少しだけ表情を曇らせると、顎に指を当てて続けた。
「さっきの子ねぇ……カレンと同じハーフアップでぇ、サイドを編み込んだ先がツインテールになってて~、黒い可愛らしいリボンで結んでたの。しかも、すっごく可愛かったでしょう~?」
そこまで言ってから、少しだけ肩を落とす。
「これはぁ……カレンにとって、強力な“ライバル”の登場かもしれないよぉ~」
……呟きというより、ほとんど愚痴だった。
「カレンさん、大丈夫ですよ! カレンさんは”ぶりっ子キャラ”で、あの子は”ツンデレキャラ”! 住み分けバッチリだよ!」
「本当にぃ~? それなら、いいけどぉ~♪」
リズちゃんのフォロー(?)に、カレンちゃんは満面の笑みを浮かべ機嫌をなおす。
「まあ、最近はどっちも人気ないキャラですけど……」
リズちゃんは最後に小さい声でぼそっと呟いたけど、私は聞かなかったことにした。
「リズちゃん。今日は外の風景を見ないの?」
「もうすぐ私も中学卒業だからね。そういう子供っぽいことは、そろそろ卒業なんだよ」
「そうなんだ~」
そう言ったリズちゃんは、ジト目のままだけど眉はキリッと上がっている。
……なのに、チラチラと窓の外に目を向けていて、景色を見たいのを我慢しているのが丸わかりだった。
そして、二十分後……
リズちゃんは、窓の外の景色を楽しんでいた。
そして、あっという間に時間が過ぎていき――
「聖冠城駅~~ 聖冠城駅~~ お降りの方はお忘れ物ないようにお願いします~」
アナウンスとともに、列車は目的地である“聖冠城駅”に到着した。
私たちは荷物を持って列車を降り、改札へ向かう。
聖徒戦士養成学校・極東校――
二百年前の聖人、<イアン・カブラギ>の名を冠した
<聖冠城特別区>に建てられた、聖徒戦士を育てるための学校。
初めて来た私の感想は「私達の村より広いね!」で、リズちゃんの感想は「私達の村が小さすぎるだけだと思うよ!」だった。
カレンちゃんの感想は「リズちゃんのは、感想じゃないよね!?」だった。
聖冠城駅は地上駅だけど、駅舎は二階建てになっている。
出口は全部で四つ。
北東と北西、南東と南西に分かれていて、それぞれけっこう離れているみたいだ。
二階にある改札へ続く階段を上がり、改札を抜けると、カレンちゃんは少し顔を赤らめ、小さな声でこう言ってきた。
「カレン、お花を摘みに行ってくるねぇ~」
反射的にツッコミを入れる。
「カレンちゃん! お花なんて摘んでいる時間はないよ? 摘むなら帰りに―――」
「ユミハちゃん、違うんだよ! この場合のお花を摘むは、本当にお花を摘むことじゃないんだよ! お手洗いのことなんだよ! カレンさんお得意の外では猫かぶりのお上品な言い回しなんだよ!」
「リズちゃん! そんな包み隠さず説明しないでぇ~! いろいろな意味で、恥ずかしいからぁ~」
カレンちゃんは顔を真っ赤にしながらそう叫び、そのままお手洗いへと駆け出していった。
(お手洗いに行くことを“お花を摘む”って言うんだ~。 また一つ、ためになったな~)
そう思っていると、私も行きたくなったので、リズちゃんを残してお手洗いへ向かう。
カレンちゃんと戻ってくると――
「あれ!? リズちゃんがいないよ?」
リズちゃんの姿はそこにはなかった。
「魔導スマホに連絡しているけど、出ないよぉ~」
カレンちゃんが魔導スマホで電話をかけるが、どうやら出ないようだ。
「先にバス停に行ったのかな?」
「そうかもぉ~。先に行ってみましょう~。一応メールで“バス停に先に行く”って送っておくねぇ~」
養成学校行きのバス停まで来たが、そこにもリズちゃんはいない。
(もしかして、事件か事故にあったのかも……?!)
最悪の想像が頭をよぎる。
でも、不吉すぎて口には出せなかった。
「二人とも、突然いなくなってごめんね」
背後から聞こえた声に、私たちは振り向く。
「リズちゃん! 勝手にいなくなったらぁ~ ダメでしょう~。心配――」
「心配したよ、リズちゃん! リズちゃんに、なにかあったんじゃな――」
「―― って、どなた様っ!?」
私とカレンちゃんの声がきれいにハモる。
淡い緑色のボブヘア。
ゆったりとしたロングワンピースを身に纏った女の子が、リズちゃんの隣に立っていた。
胸の前で両手を重ね、にこりと微笑むその姿は、空気まで柔らかくするような、おっとりとした存在感を放っている。
「改札でオロオロした後に、別方向の出口に行ったから、受験者だと思って追いかけたんだよ。そうしたら、出口付近でまたオロオロしていたんで、ほっとけなくて連れてきたんだよ」
「エルザ・O・ヒッテルです~~。よろしく、お願いします~~」
私たちが釣られて自己紹介を返すと、リズちゃんは続けた。
「ユミハちゃんとマリナさんを、足して二で割ったような感じなので、放っておけなくて」
(確かに、お母さんと同じおっとりした雰囲気だけど……。 私に似てる、のかな……?)
カレンちゃんは「ああ~」と納得した様子だったけれど、私はいまいちピンとこなかった。
「なにより、私(エリザベス)と名前が似ているので、なんだか他人とは思えなかったんだよ」
「きっと~~、主のお導きですね~~」
エルザちゃんは、胸の前で両手を重ねて、目を瞑るとすぐに感謝のお祈りに入る。
「……っ!?」
エルザちゃんの様子を見たカレンちゃんは、目を大きく見開き、何かに気付いたような表情になった。
そして、少し間を置いてから、わざとらしく首をかしげる。
「カレンもぉ~、方向音痴だからぁ~、 ここから先はぁ~、わかんないよぉ~~」
明らかに、今思いついたことを口にした感じだった。
「カレンさん! エルザちゃんを見て、方向音痴キャラが可愛いと思って、真似をしなくてもいいんですよ! 試験会場に行かなきゃいけないのに、 方向音痴なんて迷惑なだけです!」
(だっ、ダメだよ、リズちゃん! そのツッコミは、遠回しにエルザちゃんも傷つけちゃうよ!?)
私は内心で慌てながら、そっとエルザちゃんの反応をうかがう。
胸の前で手を組んだまま、エルザちゃんは――
にこにこと、心から嬉しそうに微笑んでいた。
(よかった……! おっとりしすぎて、悪口として受け取ってない……!)
むしろ「うふふ~~ 仲間ですね~~」とでも言いたげな表情だ。
その柔らかい空気に、場の緊張がふっと緩んだ、その時。
『まもなく、聖徒戦士養成学校行きのバスが到着します』
構内アナウンスが響き、遠くから、ゆっくりと近づいてくるエンジン音が聞こえてくる。
こうして私たちは、少し不思議で、少し優しい新しい仲間エルザちゃんと一緒に、聖徒戦士養成学校へと向かうことになった。
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