この世界では、魔王よりも最恐救世主ちゃんの方が問題である!

土岡太郎

文字の大きさ
3 / 6
第一章 ユミハ 入学試験編

2 出会い(ツンデレ編)

しおりを挟む


「宙ちゃんは日課のランニングの途中?」

「うん。その途中でカレンちゃんを見かけて、今日が試験の日だと思い出したから、みんなを応援しようと思ったんだよ。……逆に励まされたけどね」

 宙ちゃんが最後に小さく何かを呟いたけれど、聞き取れなかった。聞き返そうとした、その時――

「あっ、バスが来たよぉ~」

 カレンちゃんの言葉で、私の意識はすっかり魔導バス一色になってしまう。

 魔導バス――
 私が知っていることは、みんなの生活を支える“働く車”だということくらいだ。
 あと、通学などに大変お世話になってます。

「じゃあ、僕は鍛錬に戻るよ。せっかく所属が決まった“聖徒戦士修道会”をクビにならないように、鍛えないといけないからね。じゃあ、みんな、試験頑張って!!」

「はい!」

 宙ちゃんの応援に、私たちは元気よく返事をする。
 そう言って、宙ちゃんは軽く腕を振り、再び日課のランニングへ戻っていった。

「カレンさん!」

 バスの最後部座席に三人並んで座ると、リズちゃんが真剣なジト目でカレンちゃんを見つめ、疑問を投げかけた。

「宙弥さんの言っていた”聖徒戦士修道会”って、なんでしたっけ? 授業で教わった気がするけど、覚えてないんだよね。頭の中でブンドドしていて、聞いてなかったかもですけど!」

「リズちゃん!? 授業はちゃんと聞かなきゃ駄目だよぉ!?」

 カレンちゃんは間髪入れずにツッコミを入れる。

「ユ、ユミハちゃんはぁ、ちゃんと聞いていたよね?」

「うん! 聖徒戦士が「みんなでがんばろう!」って集まった会社みたいなものだよね?」

「う~ん。概ね間違ってはいないけどぉ…… まあ、いいかなぁ~」

 その後、カレンちゃんは私たちに“聖徒戦士修道会”について、補足説明をしてくれる。

「二人も知っての通り、聖徒戦士はと~っても危険な仕事なんだよねぇ。だから、“一人よりも大勢で活動したほうが安全だよねぇ~”っていう考え方が始まりなの。教会も、できるだけ所属することを勧めてるんだよぉ」

「たしかに、一人よりもみんなでいるほうが安心だもんね! 今日の試験も、リズちゃんとカレンちゃんが一緒だから、私もすごく心強いよ!」

「“二つの頭は一つより賢い”ってやつだね~」

「三人いれば“戦車タンク”も動かせるしね!」

「う~ん。それはちょっと違うんじゃないかなぁ~。――って、リズちゃん、“戦車タンク”ってなに!?」

 リズちゃんの謎ワードに、カレンちゃんはツッコミを入れる。
 今日は大忙しなカレンちゃん。

「えっ!? カレンさん、戦車を知らないんですか!?」

 リズちゃんが、驚愕した表情で声を上げる。
 ちなみに私も知らない。

「カ、カレンはぁ、機械に詳しくないから~。教えて欲しいなぁ~」

 カレンちゃんは、軽く握った両拳を顎に添え、上目遣いでお願いする。
 するとリズちゃんは、ジト目を少しだけ見開き、瞳を輝かせながら説明を始めた。

「戦車とは、正式名称・魔導戦車! 今乗ってる魔導バスよりも強力な魔導エンジンで疾走し、強固な装甲で攻撃を防ぎ、強大な砲で敵を粉砕し、無限軌道で難地形を走破する……」

 リズちゃんは早口で淀みなく、誇らしげに“魔導戦車”の基本スペックを語り出す。

「銃弾が飛び交い、血と硝煙が立ち込め、暴力と狂気が渦巻く……命が紙切れよりも価値のない、そんな地獄のような戦場に現れた鋼鉄の死神! それが――」

「リズちゃん……もしかしてだけどぉ、それって、リズちゃんの好きなアニメの話だったりするぅ?」

 テンションMAXの説明に割り込んで、カレンちゃんがそう問いかける。

「そうです! 今、自分がハマっているアニメ『機甲師団 センチュリオンズ』に出てくる兵器なんですよ! 名作なんで、カレンさんも一度観てみるべきです!!」

 熱弁するリズちゃんに対し、カレンちゃんは呆れつつも、どこか納得したような顔を見せた。

「カレンはいいかなぁ~。アニメは見ないっていうより、見たことないし~。ごめんね~」

「カレンさん、アニメとか漫画、好きじゃないんですね……」

 少し間を置いて、リズちゃんはしょんぼりと肩を落とした。

「ユミハちゃんは見て―― あっ。お子様のユミハちゃんには、このアニメはまだ理解できないと思うから、もっと成長してからだね!」

「たぶんそうだろうけど、なんか酷い!」

 リズちゃんの言葉に、私は少し傷つく。
 でも、たぶん事実だから反論できないのが、余計に悲しい。
「今の魔導エンジンの効率が倍以上になるか、魔導電気の蓄電能力がもっと進歩しない限りは、夢の兵器と言わざるを得ないんですよね」

 リズちゃんは、少し残念そうにそう続けた。

 しかし、すぐにその表情は明るいものになり、ポケットから魔導スマホを取り出すと、嬉しそうに話し始める。

「でも、魔導電話だって数十年でこの魔導スマホまで進化したし、インターネットの技術もここ数年で一気に進んで、個人で動画配信までできるようになったんだよね!」

「確かに、昔は掃除や洗濯は重労働だったのに、魔導電化製品の発達で、随分楽になったって……ママが言ってたよぉ~」

「だから、魔導戦車も数十年後には、実用化されるかもしれないよね?」

 リズちゃんは、未来に思いを馳せる。

 そうしているうちに、車内に目的地――
「戸部来村駅」のアナウンスが流れた。

「荷物はちゃんと持った? 忘れ物はしないようにね?」

 私よりずっとしっかり者のカレンちゃんは、いつも私たちに気を配ってくれる。

(カレンちゃんって、やっぱりお姉さんみたい)

 そんなところがあるから、同い年なのに、どうしても年上に見えてしまう。
 リズちゃんがカレンちゃんを、いまだに「さん」付けで呼んでしまうのも、仕方がない気がした。

 魔導鉄道――
 私に理解できたのは、”線路の上を走り、一度にたくさんの人や物を運んでくれる便利な乗り物“ってことだけだ。

 駅のホームには、すでに目的の魔導列車が停車しており、私たちはそれに乗り込む。
 ここは支線の終点駅で、周囲は田舎。しかも早朝ということもあって、乗客は私たち以外にはいなかった。

 私たちが席に座ると、しばらくして列車は警笛を鳴らし、ゆっくりと走り出した。

「えーとぉ、秋ヶ原駅に着いたら三番線ホームに移動してぇ、快速に乗り換えて……“聖冠城駅せいかぶらぎえき”で降りるっと」

 機械が苦手なカレンちゃんは、メモ帳を片手に、これからのルートを一つひとつ確認している。
 でも、そのおかげで、私たちは迷うことなく乗り換えをこなすことができた。

 快速列車の車内には、私たち以外にも受験生らしい姿がちらほら見える。
 とはいえ、通勤時間帯はすでに過ぎており、車内は少しだけ閑散としていた。

「あとは目的の駅で降りるだけだね。これなら、無事に試験会場に着けそう」
「そうだねぇ~」

 空いている長椅子に腰を下ろすと、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
 ――でも、緊張が完全に消えたわけじゃない。

(むしろ、試験が近づいてきたと思うと、緊張が増してきたよぉ~!)

 緊張のあまり、太ももの上に置いた拳や腕にも、自然と力が入ってしまう。
 心臓の鼓動が早まり、それに釣られるように、不安もどんどん膨らんでいく。

「緊張してるの、ユミハちゃん? そういう時はね、掌にまるを書いて飲み込むといいって聞いたよ」

 リズちゃんが、少し得意げに続ける。

「“丸は〈まるくおさまる〉から、それを体の中に取り込むことで、悪い結果を追い出して、物事がうまくいくんだって。だから、緊張しなくていいよ!” っていうおまじないらしいよ!」

「なんかぁ~、やたら連鎖的なおまじないだねぇ~」

 カレンちゃんは、明らかに“信用していない”という顔で、リズちゃんを見る。
 ……私も、同じことを思った。

「ちなみにね、ハートマークを飲むと“恋愛成就”なんだって!」
「えっ!? ほんと!?」

 そう言うやいなや、カレンちゃんは掌に素早くハートマークを書き、迷いなくそれを飲み込んだ。

(まあ、今は何でも試したいからやってみよう!)

 私は、隣で猛烈な勢いでハートマークを飲み込むカレンちゃんを横目に、自分の掌に丸を書いて、そっと飲み込むことにした。

 何度も飲み込んでみたけれど、緊張が消える気配はなかった……。

(ううぅ~ どうしよう~)

 私は緊張のあまり、キュロットの裾をぎゅっと握り締める。
 体は強張り、視線は床から離れなかった。

 すると――

「そんなに緊張しているなら、これを使うといいわよ」

 不意に頭上から声を掛けられ、私は思わず顔を上げる。

 そこには、ややツリ目気味の知らない女の子が立っていた。
 エメラルドのような瞳が、まっすぐ私を見つめている。

(だれ……?)

 私が戸惑っていると女の子は右手に持った小さな箱を、私のほうへ差し出しながら言葉を続ける。

「新兵が緊張緩和に使う、教会特製のリラックスアロマよ。そんな“変なおまじない”より、ずっと役に立つわ」

 そう言い終えると、女の子は少しだけ顔を赤くして、口をきゅっと閉じる。
 そして、空いている左手で肩にかかる赤い髪をさらりとかき上げた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。 凛人はその命令を、拒否する。 不死であっても無敵ではない。 戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。 それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...