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第一章 ユミハ 入学試験編
2 出会い(ツンデレ編)
しおりを挟む「宙ちゃんは日課のランニングの途中?」
「うん。その途中でカレンちゃんを見かけて、今日が試験の日だと思い出したから、みんなを応援しようと思ったんだよ。……逆に励まされたけどね」
宙ちゃんが最後に小さく何かを呟いたけれど、聞き取れなかった。聞き返そうとした、その時――
「あっ、バスが来たよぉ~」
カレンちゃんの言葉で、私の意識はすっかり魔導バス一色になってしまう。
魔導バス――
私が知っていることは、みんなの生活を支える“働く車”だということくらいだ。
あと、通学などに大変お世話になってます。
「じゃあ、僕は鍛錬に戻るよ。せっかく所属が決まった“聖徒戦士修道会”をクビにならないように、鍛えないといけないからね。じゃあ、みんな、試験頑張って!!」
「はい!」
宙ちゃんの応援に、私たちは元気よく返事をする。
そう言って、宙ちゃんは軽く腕を振り、再び日課のランニングへ戻っていった。
「カレンさん!」
バスの最後部座席に三人並んで座ると、リズちゃんが真剣なジト目でカレンちゃんを見つめ、疑問を投げかけた。
「宙弥さんの言っていた”聖徒戦士修道会”って、なんでしたっけ? 授業で教わった気がするけど、覚えてないんだよね。頭の中でブンドドしていて、聞いてなかったかもですけど!」
「リズちゃん!? 授業はちゃんと聞かなきゃ駄目だよぉ!?」
カレンちゃんは間髪入れずにツッコミを入れる。
「ユ、ユミハちゃんはぁ、ちゃんと聞いていたよね?」
「うん! 聖徒戦士が「みんなでがんばろう!」って集まった会社みたいなものだよね?」
「う~ん。概ね間違ってはいないけどぉ…… まあ、いいかなぁ~」
その後、カレンちゃんは私たちに“聖徒戦士修道会”について、補足説明をしてくれる。
「二人も知っての通り、聖徒戦士はと~っても危険な仕事なんだよねぇ。だから、“一人よりも大勢で活動したほうが安全だよねぇ~”っていう考え方が始まりなの。教会も、できるだけ所属することを勧めてるんだよぉ」
「たしかに、一人よりもみんなでいるほうが安心だもんね! 今日の試験も、リズちゃんとカレンちゃんが一緒だから、私もすごく心強いよ!」
「“二つの頭は一つより賢い”ってやつだね~」
「三人いれば“戦車”も動かせるしね!」
「う~ん。それはちょっと違うんじゃないかなぁ~。――って、リズちゃん、“戦車”ってなに!?」
リズちゃんの謎ワードに、カレンちゃんはツッコミを入れる。
今日は大忙しなカレンちゃん。
「えっ!? カレンさん、戦車を知らないんですか!?」
リズちゃんが、驚愕した表情で声を上げる。
ちなみに私も知らない。
「カ、カレンはぁ、機械に詳しくないから~。教えて欲しいなぁ~」
カレンちゃんは、軽く握った両拳を顎に添え、上目遣いでお願いする。
するとリズちゃんは、ジト目を少しだけ見開き、瞳を輝かせながら説明を始めた。
「戦車とは、正式名称・魔導戦車! 今乗ってる魔導バスよりも強力な魔導エンジンで疾走し、強固な装甲で攻撃を防ぎ、強大な砲で敵を粉砕し、無限軌道で難地形を走破する……」
リズちゃんは早口で淀みなく、誇らしげに“魔導戦車”の基本スペックを語り出す。
「銃弾が飛び交い、血と硝煙が立ち込め、暴力と狂気が渦巻く……命が紙切れよりも価値のない、そんな地獄のような戦場に現れた鋼鉄の死神! それが――」
「リズちゃん……もしかしてだけどぉ、それって、リズちゃんの好きなアニメの話だったりするぅ?」
テンションMAXの説明に割り込んで、カレンちゃんがそう問いかける。
「そうです! 今、自分がハマっているアニメ『機甲師団 センチュリオンズ』に出てくる兵器なんですよ! 名作なんで、カレンさんも一度観てみるべきです!!」
熱弁するリズちゃんに対し、カレンちゃんは呆れつつも、どこか納得したような顔を見せた。
「カレンはいいかなぁ~。アニメは見ないっていうより、見たことないし~。ごめんね~」
「カレンさん、アニメとか漫画、好きじゃないんですね……」
少し間を置いて、リズちゃんはしょんぼりと肩を落とした。
「ユミハちゃんは見て―― あっ。お子様のユミハちゃんには、このアニメはまだ理解できないと思うから、もっと成長してからだね!」
「たぶんそうだろうけど、なんか酷い!」
リズちゃんの言葉に、私は少し傷つく。
でも、たぶん事実だから反論できないのが、余計に悲しい。
「今の魔導エンジンの効率が倍以上になるか、魔導電気の蓄電能力がもっと進歩しない限りは、夢の兵器と言わざるを得ないんですよね」
リズちゃんは、少し残念そうにそう続けた。
しかし、すぐにその表情は明るいものになり、ポケットから魔導スマホを取り出すと、嬉しそうに話し始める。
「でも、魔導電話だって数十年でこの魔導スマホまで進化したし、インターネットの技術もここ数年で一気に進んで、個人で動画配信までできるようになったんだよね!」
「確かに、昔は掃除や洗濯は重労働だったのに、魔導電化製品の発達で、随分楽になったって……ママが言ってたよぉ~」
「だから、魔導戦車も数十年後には、実用化されるかもしれないよね?」
リズちゃんは、未来に思いを馳せる。
そうしているうちに、車内に目的地――
「戸部来村駅」のアナウンスが流れた。
「荷物はちゃんと持った? 忘れ物はしないようにね?」
私よりずっとしっかり者のカレンちゃんは、いつも私たちに気を配ってくれる。
(カレンちゃんって、やっぱりお姉さんみたい)
そんなところがあるから、同い年なのに、どうしても年上に見えてしまう。
リズちゃんがカレンちゃんを、いまだに「さん」付けで呼んでしまうのも、仕方がない気がした。
魔導鉄道――
私に理解できたのは、”線路の上を走り、一度にたくさんの人や物を運んでくれる便利な乗り物“ってことだけだ。
駅のホームには、すでに目的の魔導列車が停車しており、私たちはそれに乗り込む。
ここは支線の終点駅で、周囲は田舎。しかも早朝ということもあって、乗客は私たち以外にはいなかった。
私たちが席に座ると、しばらくして列車は警笛を鳴らし、ゆっくりと走り出した。
「えーとぉ、秋ヶ原駅に着いたら三番線ホームに移動してぇ、快速に乗り換えて……“聖冠城駅”で降りるっと」
機械が苦手なカレンちゃんは、メモ帳を片手に、これからのルートを一つひとつ確認している。
でも、そのおかげで、私たちは迷うことなく乗り換えをこなすことができた。
快速列車の車内には、私たち以外にも受験生らしい姿がちらほら見える。
とはいえ、通勤時間帯はすでに過ぎており、車内は少しだけ閑散としていた。
「あとは目的の駅で降りるだけだね。これなら、無事に試験会場に着けそう」
「そうだねぇ~」
空いている長椅子に腰を下ろすと、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
――でも、緊張が完全に消えたわけじゃない。
(むしろ、試験が近づいてきたと思うと、緊張が増してきたよぉ~!)
緊張のあまり、太ももの上に置いた拳や腕にも、自然と力が入ってしまう。
心臓の鼓動が早まり、それに釣られるように、不安もどんどん膨らんでいく。
「緊張してるの、ユミハちゃん? そういう時はね、掌に◯を書いて飲み込むといいって聞いたよ」
リズちゃんが、少し得意げに続ける。
「“丸は〈まるくおさまる〉から、それを体の中に取り込むことで、悪い結果を追い出して、物事がうまくいくんだって。だから、緊張しなくていいよ!” っていうおまじないらしいよ!」
「なんかぁ~、やたら連鎖的なおまじないだねぇ~」
カレンちゃんは、明らかに“信用していない”という顔で、リズちゃんを見る。
……私も、同じことを思った。
「ちなみにね、ハートマークを飲むと“恋愛成就”なんだって!」
「えっ!? ほんと!?」
そう言うやいなや、カレンちゃんは掌に素早くハートマークを書き、迷いなくそれを飲み込んだ。
(まあ、今は何でも試したいからやってみよう!)
私は、隣で猛烈な勢いでハートマークを飲み込むカレンちゃんを横目に、自分の掌に丸を書いて、そっと飲み込むことにした。
何度も飲み込んでみたけれど、緊張が消える気配はなかった……。
(ううぅ~ どうしよう~)
私は緊張のあまり、キュロットの裾をぎゅっと握り締める。
体は強張り、視線は床から離れなかった。
すると――
「そんなに緊張しているなら、これを使うといいわよ」
不意に頭上から声を掛けられ、私は思わず顔を上げる。
そこには、ややツリ目気味の知らない女の子が立っていた。
エメラルドのような瞳が、まっすぐ私を見つめている。
(だれ……?)
私が戸惑っていると女の子は右手に持った小さな箱を、私のほうへ差し出しながら言葉を続ける。
「新兵が緊張緩和に使う、教会特製のリラックスアロマよ。そんな“変なおまじない”より、ずっと役に立つわ」
そう言い終えると、女の子は少しだけ顔を赤くして、口をきゅっと閉じる。
そして、空いている左手で肩にかかる赤い髪をさらりとかき上げた。
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