この世界では、魔王よりも最恐救世主ちゃんの方が問題である!

土岡太郎

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第一章 ユミハ 入学試験編

1 気弱少女、試験に向かう

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 異世界【バシレイア】。
 神と魔法と科学が共存する世界。
 唯一神を信仰する【ハギオス教教会】が人類社会を導き、
 魔王率いる【魔のモノ】と戦う【聖徒戦士】たちが人々を守っていた。

 その【聖徒戦士】を目指す少女――
 主人公の一人、<ユミハ・H・ハスキン(15)>も、例外ではなかった。


 #####

(……試験、行きたくないな)

 鏡を見つめながら、私は「はぁ~」と息を吐く。
 今日だけで何度目のため息だろう。
 鏡の中の私は眉がハの字のままで、蒼い瞳もやけに薄く見える。

 いつもなら心地よい朝のそよ風も、白金色の髪をただ不安に揺らす。

 私は“先生”にもらった白い鳩の髪留めをそっとつけた。
 お気に入りのはずなのに、今はその鳩さんも沈んでいるように見える。

 今日は【聖徒戦士養成学校】の入試の日。
 けれど私は、ここへ来て急に怖くなっていた。

 三歳の頃から夢の中で聞いてきた“あの声”がなければ、きっと選ばなかった道だ。
 本当は―― いや、むしろできることなら聖徒戦士になんてなりたくない。

 なぜなら、聖徒戦士の戦場は魔界。
 つまり【魔のモノ】と命を賭けて戦う仕事だ。
 そんなの怖くて無理だ……

 それでも私が聖徒戦士を目指すことになったのは、幼い頃から夢の中で暖かな光に、『ユミハよ。聖徒戦士になり、世界と人々を救うのだ』

 ――そう、何度も囁かれ続けてきたから。

 でも、今にして思えばあれは“導かれた”というより、“誘導された”のかもしれない。

 その後、十歳の時に神様から与えられる【ギフト】が原因で、これ幸いと母親と同じ司祭になろうと考えなおした。私の夢を叶えるには、この方法でも大丈夫だとこの時は思っていたからだ。

 でも、突如“信託を受けてやってきた”という男性に諭され、私は男性を先生と仰ぎ【聖徒戦士】になるための指導を受けてきた。ちなみに鳩さんの髪飾りは、その“先生”からもらったものだ。

 でも、今にして思えばあれも“諭された”というより、“誘導された”気がする……。

 そして、その成果を試す日が、とうとうやって来たのである。

(先生は今の私なら大丈夫だと言っていたけど……)

 鍛錬のおかげで、それなりに自信がついたのは確か。
 でも、それ以上に不安のほうが大きく―― そのため私の足は、なかなか玄関へと向かない。

(でも、主(神様)が私に聖徒戦士になれって言っているし……)

 “聖徒戦士になれ”
 この神託こそ、私がどうしても聖徒戦士になることから逃げられずに悩み続けている、いちばん大きな理由だった。

 しかし――!
 ここで悩める私の体に、電流のようなものが走る!!

(そうだ! お腹が痛いことにしよう……! お腹が痛いなら、さすがに休んでも仕方ないよね……?)

 病欠―― いや、仮病。

 それが、私が思いついた“試験から逃げるための最終手段”だった。

 ――が、その瞬間。

 私の自宅である司祭館に、けたたましいチャイムが鳴り響いた!!
 それはまるで、私の企みを見透かした“主の雷”のようだった。

「ひゃうぅ!!」

 後ろめたさで胸がきゅっとなる私は、あまりに絶妙すぎるタイミングに涙目になりながら変な声を上げてしまう。

 ……だが、その正体にすぐ気づいた。

 なぜなら――

 私が出てこないせいで、ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!と、容赦なくチャイムが連打されたからだ。

 この小さな村で、司祭館のチャイムをこんな鳴らし方をする無作法な子は一人しかいない。

 親友のリズちゃんだ。

 チャイムの連打が一旦止む、私が出くるか様子見に入ったようだ。
 その間に私は二階の自室から、静けさを取り戻した司祭館を玄関へ向かって駆け下りた。

 ドアを開けると、リュックを背負った小柄な少女が立っていた。
 <エリザベス・ピケット(15)>。みんなからは“リズ”と呼ばれている。

「おはよう、ユミハちゃん。早く出かけよう」

 彼女は私より少し背が低く、淡い青色の髪はパッツンと切り揃えられている。
 外に広がらない直線的なボブを揺らしながら見上げると、ジト目気味の琥珀色の瞳で私を見つめ、無言のまま出発を催促してきた。

(来た!!)

 私は例の秘策を決行する。

「お、おはよう…… リズちゃん。あのね、今日はね…… その…… 朝からお腹が痛くて…… それで……」

 腹部を押さえて“お腹痛い痛いアピール”をしながら、私は歯切れ悪くリズちゃんに言い訳する。

(うまくいったかな?)

 しかし、私のお腹痛いアピールを、リズちゃんはジト目気味の視線で黙って見つめ返してくる。その無言の圧に、私は思わず唾を飲み込む。

 胸が不安でぎゅっと縮まる中、私は親友の次の反応を固まったまま待ち続ける。

 永遠にも感じられる沈黙の時間――。

 ……しかし、その静寂はわずか五秒で破られた。

 リズちゃんが突然、背をぐっと伸ばし、腕を上げ――
 またチャイムを鳴らし始めたのだ。

「いいから、早く行こう! カレンさんが待ってる!!」

 再びピンポンを連打しながら、容赦ない催促を続けてくる。
 その音は、私の仮病に対する抗議と圧力そのものであった。
 つまり――。

(仮病がバレてる~~!!)

 リズちゃんとは四年の付き合い。
 お互いの考え方も性格も、だいたい分かっている。
 だからこそ、彼女には“怖気づいた私の仮病”なんて、即バレだったのだ。

 そして私は知っている。
 こういう時のリズちゃんは、絶対に引かないこと。
 そして―― 私がズルをしようとしたことを、あえて口に出して責めたりしない優しさも。

「わかったから、チャイムを連打するのをやめてよ~。 すぐに荷物をとってくるから~」

 慌てて自室に引き返し荷物をつかむと、私は踵を返して玄関へと急いだ。
 リズちゃんが待っている場所へ。

「リズちゃん、お待たせ」
「バス停に急ごう。カレンさんが待っている」
「うん!」

 玄関の扉に鍵をかけると、私達は駆け足で家を飛び出しバス停へ向かった。
 この村では、リズちゃんの家、私の家、バス停、そしてカレンちゃんの家の順に並んでいる。
 そのため、カレンちゃんとはいつも通りバス停で合流することになっていた。

 聖徒戦士は体力勝負。そのため普段から鍛錬しているので、私とリズちゃんが走ればバス停までは五分もかからない。

 バス停に近づくと、カレンちゃんがすでに私たちを待っていた。
 その隣には男の人の姿――いや、もう少し近づいてみると誰だかわかった。

 二歳年上の<榎森宙弥(えのもりちゅうや)(17)>、宙(ちゅう)ちゃんだ。

 遠くて会話の内容までは聞こえなかったけれど、どうやら何か話しているらしい。

「カレンちゃん、宙ちゃん、おはよう~~」
「カレンさん、宙弥さん、おはようございます」

 私たちが声をかけると、まず宙ちゃんが挨拶を返してくれた。

「おはよう、ユミハちゃん、リズちゃん」

 続いてカレンちゃんも、ぱぁっと笑顔でこちらを向く。

「ユミハちゃん、リズちゃん、おはようぅ~~!」

 その明るい声につられて、私も自然と笑顔になる。

 カレンちゃん――本名は<井原花蓮(いはら かれん)(15)>。

 おしゃれが大好きな女の子で、淡いピンク色の髪を肩にかかるくらいまで伸ばし、横の髪だけを細く三つ編みにして後ろでまとめている。三つ編みハーフアップボブというらしい。

 私はおしゃれに疎いのでよくわからないが、服装も可愛いということだけはわかる。

「僕のギフトなんて、大したものじゃなかったのに…… それでも受かったんだ。みんななら絶対大丈夫だよ。頑張って!」

 宙ちゃんは苦笑しながら励ましてくれるが、私はその笑顔に少し引っかかりを覚える……

「宙弥君、そう自分を卑下するのは良くないわ――よぉ?」

 そんな宙ちゃんにカレンちゃんが、私の胸の中のもやっとした気持ちをそのまま言葉にしてくれた。

「きみってぇ、ギフトで人生を決める人が多い中でぇ、その恩恵がなくても聖徒戦士を目指してぇ…… 努力で合格と卒業まで掴んだんだもん、カレンはすっごく偉いと思うよぉ?」

 宙ちゃんは頑張って聖徒戦士になれたんだから、卑屈にならずに自信を持ってほしいと思ったのだ。

「そうだよ、宙弥さん!私だったら、別の職業を目指しているよ! 何を目指したかわかんないけどっ!」

(リズちゃんの言う通りだよ! 私も五年前にそれで諦めようと考えたんだもん……)

 私も五年前のギフト授与で外れギフトを与えられ、諦めて司祭になろうと考えた。
 怖かったのもあるけど……

 それでも、私がもう一度聖徒戦士を目指そうと思った理由の一つは……

「宙ちゃんが、ハズレギフトでも聖徒戦士になるために、毎日毎日鍛錬を頑張っている姿を見たから…… 私も頑張ろうって思ったんだよ!」

 今まで言えなかった感謝の気持ちを、思わずそのまま口に出していた。

「みんな、ありがとう……」

 宙ちゃんは少し照れくさそうに微笑むと、頭を掻きながら言葉を続ける。

「それにしても、みんなを励ますつもりが、逆に励まされるなんて……」

 その言葉に、まずカレンちゃんがすかさず入る。

「確かに、そこは年上としてもっと配慮のある会話ができるべき―― だと思うよぉ?」

 容赦がない。
 そして続くリズちゃん。

「それは、宙弥さんがヲタクで、会話慣れしてないから仕方ないんだよね!」

 トドメの一撃だった。

「あっ…… はい。なんか…… ごめん……」

 カレンちゃんの遠慮ゼロの指摘と、リズちゃんのフォローになってないフォローが重なって、宙ちゃんのメンタルはみるみる削られていくのだった。

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