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第3章 北ロマリア戦役
マントバ要塞攻略戦 01
しおりを挟む「殿下、クレール・ヴェルノンです。お話したいことがあります、よろしいでしょうか?」
クレールはフランの部屋の扉前で、伺いを立てると部屋の中から入室を許可する声が聞こえてくる。
彼女が部屋の中に入るとフランはまた料理を作っていた。
「またシチューですか?」
クレールの質問にフランは、したり顔でこう答える。
「クレール、私を見くびるなよ。いつまでも、同じ料理を作るわけ無いだろう。シチューは、流石に私もルイも飽きたからな…」
「では、今度は何を調理しているのですか?」
「今度はカレーだ!!」
フランはドヤ顔でそう言って、鍋に市販のカレールウを入れる。
「ルウを変えただけじゃないですか…」
クレールが冷静にそう突っ込む。
「カレーは、料理初心者が作っても美味しんだぞ!」
すると、フランは子供みたいな反論をしてきた。
「まあ、小学生でも作れますからね」
「なんだとー!」
この世界では各惑星で香辛料が用意に手に入るために、カレーはお手軽料理として各国で食されており、小学生の家庭科の授業で作られている。
艦内食でも週に一回は振る舞われる程人気食である。
フランはクレールの嫌味を軽く流すと味見をしながらこう呟く。
「これから、上手く作れるようになればいいのだ」
彼女が軽く受け流すことが出来たのは、ルイがきっと美味しいと言って食べてくれるはずであり、それを想うとクレールの誹謗など些細な事に思えたからである。
クレールはカレーにはさほど興味を示さず、会話を広げることもなく話を本題に切り替える。
「殿下、マントバ要塞攻略を誰にお命じになるか、お決めになりましたか?」
彼女はどうせ言い合いになると思ったので、最初だけは落ち着いた冷静な声を心がけてフランに尋ねる。
フランは暫く黙ってカレーの鍋をかき混ぜていたが、クレールと目を合わせるのが嫌なのか鍋を見つめながらこう答える。
「ああ…、それなら…アングレーム(ロイク)艦隊に任せようと思っている…」
(やっぱり、ロドリーグ様は手元に置いておくのね)
クレールは表情を変えること無くそう考えながら、頭の中で舌戦のゴングを鳴らして、フランに詰問を開始する。
「明敏な殿下なら、お分かりの筈です。攻略任務は今回の戦いに実質参加せずに、無傷で済んだロドリーグ様の分艦隊にお任せになるべきです。心配なのはわかりますが、直ぐに動けるのはあの方の部隊だけです」
「クレール。先程も言ったが、あまり私を見くびらないで貰おう。私がルイの事が心配だとかそのような私心で、今回の任務を『童の者』に決めたと思っているのか?」
「思っています。ですが、一応言い訳を聞いておきましょう。どうぞお話ください、恋愛脳ゴスロリ殿下」
「なっ!? まっ、まあいい…、とくと聞くがいい鉄仮面参謀。私が『童の者』を選んだのは、要塞砲の存在だ」
フランの言い訳はこうである、マントバ要塞には防衛用のために大型の要塞砲が六つ配置され、上下左右前後方向をカバーして接近してくる敵艦隊を数百隻単位で消滅させる。
もちろん要塞砲の射程距離は艦の主砲より長いために、普通に近付けば艦隊の方が一方的に一撃目を撃たれて、大きな被害を受けてしまう。
「そこで、あの者の艦隊のステルス性能で要塞側が気付く前に近づいて、要塞砲充填時間内に要塞を占拠する。これしかない!」
「無理です。彼の艦隊はレーダーに映らないだけで、視覚的には見えています。光学望遠で発見されて、近づく前に一発受けて半壊になります」
クレールの自分の策に対する指摘に対して、フランはこのような考えの浅い答えを述べる。
「その時は、その時だろう…。それにあの者なら、なんとかするだろう…たぶん…」
フランの言い訳を聞いたクレールは、目の前の恋愛脳お花畑姫に聞こえるように大きくため息をつくとこう言い放つ。
「まあ、それらしい言い訳ではありましたね、お花畑宰相。言い訳乙と言っておきます」
「にゃんだとー!」
怒るフランにクレールは、次の会話内容で攻めることにする。
「幼馴染が心配な殿下のお気持ちはわかります。ですが、よくお考えください。今の状況はロドリーグ様にもよくありません。彼が代将に昇進したのは、フラン様に気に入られているからだと、影で言われていることはご存知ですか?」
「なに~!! ルイにそんな事を言っている奴がいるのか!? 誰が言っているか言え! 強制労働送りにしてやる!」
フランが珍しく怒りの感情を露わにしていると、クレールは冷静な口調で目の前で大切な人を貶されて、怒っている年齢相応の少女を諭すように話しかける。
「同じく急速に昇進したヨハンセン少将やロイ― アングレーム少将の地位に、不平を鳴らす者が少ないのは、両提督が反乱鎮圧戦とサルデニア王国侵攻作戦で、その地位に相応しい才覚を示したからです」
クレールの説明を聞いたフランは、すっかり冷静さを取り戻して彼女にこう問い質す。
「つまり、貴官が言いたいのは、ルイにも地位に合う功績を上げさせろということか?」
「その通りです。そうすれば殿下は元より彼自身も、何も恥じること無く高い地位に就くことが出来ます」
「だが……。それで、ルイにもしものことがあったら……」
フランは敢えて最悪な事になった時のその不吉な言葉は言わなかった。
鋭敏な彼女は、当然クレールの考えていたことは、最初に考えついていた。
ルイを高い地位につけるためには、功績を上げさせるのが一番早く、誰にも文句を言わせないためにも、今回の駐留艦隊のいない要塞砲さえ対処できれば、攻略は成功したも同然のこの任務が、彼の一人だけでこなす任務としてはうってつけであることもわかっていた。
だが、戦いである以上もしものことが起きないとは限らない。
その事を考えると、どうしてもルイに任せることが出来なかった。
フランは暫くぶつぶつと独り言を言いながら、鍋をかき混ぜた後に決心をして、クレールに自分の決断を聞かせる。
「やはり、『童の者』に…」
フランが結局日和ったので、クレールは最後の手段に出る。
「そうですね。貴族のお坊ちゃまのロドリーグ様の才能では、今回の任務は荷が重いかもしれませんね。別の者に任せた方がいいかもしれませんね」
「にゃにおー! 私のルイなら、あんな要塞攻略ぐらい簡単にできるわー! 馬鹿にするなー!」
それは、特に罪のないルイを貶して、フランを挑発する作戦であり、彼女は予想以上に簡単にその作戦に乗ってきた。
作戦に乗せられたフランは、自分の愛するルイの能力を馬鹿にしたクレールに、思わずそう啖呵を切ってしまう。
「では、大元帥閣下のご裁断が下されたとして、そのように取り計らいます。では、失礼いたします」
クレールはそう言って敬礼すると、フランが発言を撤回する前に部屋から早々に出ていってしまった。
「あ…」
フランは自分がクレールに乗せられて、とんでもないことを言ってしまったことに気づき、カレー鍋をかき混ぜていたお玉を持ったまま自室に取り残されていた。
次回より、遂に主人公活躍開始!?
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