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第4章 第一次対大同盟戦

大同盟の足音 01

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『カンポ・フォルミドの和約』締結から約1年半後―

 ガリアルム艦隊は約2万隻まで、戦力を増強することに成功していた。

 それは、フランがサルデニア王国侵攻前から推し進めていた軍備増強計画の賜物で、その一環として彼女は各星系にある軍艦建造の為の造船所を整備、新設して量産体制を高めていた。

 そのおかげで、僅か1年半でこれほどの戦闘艦を増産することに成功し、更に建造は今も続いている。

 艦数増加に伴い新たなる艦隊が新設され、その一つに先の戦いで准将に昇進したジョフリー・ワトー(通称軍曹)が艦隊司令官として選ばれ、その任官を祝う会をロイクの官舎で、行おうということになった。

「俺の任官を祝おうと言っても、アンタもエドガーも一階級昇進しているし、めでたいのは俺だけじゃないだろう?」

「エドガーが、軍曹が艦隊司令になったのは、特別だから祝おうと言ったんだよ。まあ、3人ともおめでとう会と言うべきところだな」

 エドガー・マクスウェルはロイクの士官学校時代の後輩で、サルデニア侵攻からロイク艦隊の分艦隊を任されるようになり、前回の戦役後に代将に昇進している。

 口調はややぶっきらぼうではあるが、心根は仲間思いで熱い男である。

「で、そのエドガーは、どうしたんだ?」

「ああ、言い出した本人だから、飲み物とか買い足しに行くって言って、一時間前に出ていったけど、まだ帰ってこないな。イケメンだから、逆ナンされてるのかもなー。いいなー、イケメンはよー!」

 ワトーの質問に対して、ロイクはこの場にいない後輩に対して嫉妬を込め、最後吐き捨てるようにそう言った。

(相変わらずだな、この人も…)

 ワトーはそう思いながら、モテる後輩相手に悪態をつきながら、オレンジジュースを飲むロイクを横目にビールを飲み始める。

 ロイクは酒が飲めないので、家にはアルコール類はなく、自分が飲まないので今回の祝う会のために事前に購入していたアルコール飲料の量も少なく見積もってしまう。

 そこで、急遽エドガーが買いに行くことになったのであった。

 そのエドガーがデパートで買い物を終えて、車で街中を走っていると紅茶専門店の前で、二人の男に言い寄られて困っている少女の姿が目に入る。

 彼は路肩に車を停めるとその少女に向かって歩き出し、近づくとその小柄な少女は白い派手なゴスロリ服を身に纏っており、購入した紅茶が入った買い物袋を大事そうに胸の前の辺りで抱えているのが見えた。

「私はアナタ達とはお茶は飲まないと、何度も言っていますわ!」
「そう言わずに、一緒にお茶飲みに行こうぜ? 好きなんだろう?」

 ナンパしている男は、シャーリィの買い物袋を見ながらそう言うと、彼女の背後からエドガーが近づいてきて、彼はシャーリィの前に立って男達と彼女の間に割って入る。

「俺の妹に何か用か?」

 そして、ぶっきらぼうな感じで男達にそう話しかけるが、その目は威圧的で男達はエドガーに一瞬怯む。

 何故ならば、威圧的な眼光だけではなく彼の身長は180センチ近くで、軍人であるため体は鍛えられて俗に言う細マッチョであり、髪は金髪で一本結びにしており、どう見ても、只者ではない雰囲気を漂わせている。

 もちろん、見た目だけでなく軍人なので軍隊格闘術を高いレベルで修練しており、男二人ぐらいなら容易に制圧するだけの力は持っている。

 彼を見た男達は、捨て台詞を吐きながら、そそくさとその場を去っていき、居なくなったのを確認したエドガーは、振り返るとシャーリィに忠告する。

「そんな派手な格好をしているから、目立ってあんな奴らに絡まれるんだ。今度からは気をつけな」

「服装は自由だと思いますわ。あのような迷惑な男達が悪いのですわ」

 シャーリィは、自分より大きなエドガーを見上げながら、怯むこと無くそう言い返すと、彼は少し驚いたような表情をしてから、少し笑みを浮かべて

「それもそうだな…。とはいえ、今度からは気をつけることだな、お嬢ちゃん」

 そう言うと、シャーリィと別れ路肩に停めている車まで歩いていこうとしたが、振り返ると彼女にこう声をかける。

「家まで送ろうか?」

 彼がこのようなことを言ったのは、この中学生くらいの少女がまた絡まれるかもと考えたからである。

 シャーリィはその申し出に少し驚いた後に、笑みを浮かべながらこのような返事をする。

「では、申し訳ありませんが、ガリアルム軍本営まで送って頂けませんかしら? エドガー・マクスウェル代将」

「どうして、俺の名を… そうか… アンタが白ロリ様か」

 エドガーがシャーリィを特定できたのは、まだ有名な指揮官ではない自分を知っているということから、彼女が軍関係者であると推測した。

 そして、そこで白いゴスロリを着ている女性士官がいた事を思い出したのであった。
 彼がシャーリィの姿を知らなかったのは、仕方がないことであった。

 その訳は、王族に連なる彼女の安全確保のため、その姿を収めた写真は世間には出回っておらず、エドガーだけではなく一般の国民もその姿を知っている者は少ない。

 シャーリィが彼を知っていたのは、彼女が上級士官の名と顔を記憶しているという単純な理由である。

「了解…です、シャルロット・ドレルアン殿下」

 エドガーは少しぎこちない敬語でそう答えた後、路肩に停めている車まで共に歩き助手席に置いてあった買い物袋を後部座席に移動させ、シャーリィを空いた助手席に座らせる。

 彼のほうが階級も年齢も上ではあるが、身分ではシャーリィの方が上であるために、敬語を使っておくことにした。

 そうしなければ、ロイクやワトー、艦隊に迷惑を掛けるかもしれないからである。

「では、よろしくおねがいしますわ」

 シャーリィは、助手席に座ると買い物袋を膝においてシートベルトを締めて、そう言って発車を促す。

「では、行く― 行きますよ」
 エドガーはシャーリィに声をかけると、車を発車させる。

 ガリアルム軍本営に向かう車内では、会話もなく暫く沈黙が続いていたが、気まずく感じたのかシャーリィがこのようなことを話し出す。

「いい天気だと思って、散歩がてら一人で紅茶を買いに出掛けたのが間違いでしたわ。執事の言う通りいつもどおり車にしておけば、あのような目に会わなかったのですわ」

「そうなんですか…」

 エドガーがシャーリィの会話に素っ気ない返事をすると、彼女は会話を続ける気のない彼に少し不満を感じて小声でこう呟く。

「できれば、もう少し会話を弾ませて欲しいですわ…」

「すんませんね、女と話す事があまりないもんで…、慣れて無くて」
 小声が聞こえていたのか、エドガーはまた素っ気ない感じでそう返す。

 シャーリィは聞かれていたことよりも、女性に持てそうな彼の意外な発言に驚いて、
「あら、以外ですわ。オモテになりそうなのに」
 と、思わず言葉を発してしまう。

「そんなことは― ないです」

 また素っ気無い感じでエドガーは返事を帰してきたが、シャーリィは少し機嫌の良い顔になっていた。




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