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第4章 第一次対大同盟戦

ベシンゲンの戦い 04

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 ガリアルム艦隊に向けて行軍中のプリャエフ艦隊は、接敵まで30万キロに達し時、天頂と天底に配置していた偵察艦より通信が入る。

 それは、レーダーに映りにくい艦による奇襲で攻撃を受けているというもので、暫くして通信は途絶する。

 それは撃沈を意味しており、彼らは一瞬にして目を失ったことになる。

「閣下、どういたしますか? 危険なので、撤退するべきではありませんか?」

 偵察艦を失い索敵機能が落ちたことにより、当然参謀は艦隊の安全を考えて撤退を進言する。

 だが、レズェエフの失態による自分への責任問題を回避するためには、危険でも一戦交えて戦果を上げねばならい。

「当初の予定通り、このまま前進して敵と戦う!」

 そのため彼には撤退という考えは無く、敵の戦艦部隊が合流する前に会戦しなければならないために、時間を掛けて慎重に行軍するという選択肢も捨てるしか無かった。

 その頃、ガリアルム艦隊にはヨハンセン艦隊が合流を果たしていた。

 最新型であるガリアルム艦隊の戦艦は、プリャエフ艦隊が保有する戦艦よりも船速は速く彼らが予想するよりも速く合流したのであった。

 フランの経済面の改革や無駄な支出を抑える政策で、軍事力に多くの予算を回せるようになって、新型艦を多数揃えることが出来るようになったことが、ここでも友軍を優位に導くことになる。

「閣下の予測通り、先に合流できましたね」
「とはいえ、時間的余裕はさほどないから、急いで陣形を敷くことにしよう」
「私の出番ですわね」

 シャーリィはヨハンセンの指示の下、コンソールから各艦に陣形変更のための効率のいい移動の指示を出し始める。

 そして、プリャエフ艦隊が24万キロに到達したとほぼ同じ頃に、陣形を完成させ前進を開始する。

 その陣容は、左翼にウィル分艦隊2000隻、中央にヨハンセン本隊3000隻、右翼にロイク分艦隊1000隻であり、プリャエフ艦隊が情報として得ている6000隻である。

「それでは、最後の仕上げを始めようか。全艦、全速前進」

 ヨハンセンは戦術モニターを見ながら、艦隊に前進の命令を下す。

 偵察艦を失っているプリャエフ艦隊は、戦艦が合流していることに気づかずに前進を続けており、23万キロで艦に備え付けられている光学望遠で知った時には既に遅く、前進して距離を詰めてきているヨハンセン艦隊と開戦するしかなかった。

 戦艦が合流している事を、オペレーターから報告で受けたプリャエフ大将に

「どうやら、敵は我々の予想よりも速く合流を果たしていたようで… レズェエフ少将より報告された数と同じだったために、接近するまで気付く事が出来ませんでした…」

 参謀のコリヤダ少将はこの状況を推察するが、そのようなことは説明されなくてもプリャエフには解っていた。

「そのような事は、貴様に言われなくても解っている!!」

 そして、彼はそこまで言って、コリヤダ少将の発言を聞いて重大な事を思い出す。

「確かレズェエフの報告では、敵艦隊の総数は8000隻だったな! では、後の2000隻はどこだ!?」

 彼がそう発言した瞬間、

「天底方向から、高エネルギー体接近!!」

 オペレーターが慌てた感じで報告したその時、天底方向から多数のビームが飛来して、前方に配置している艦を下からその高熱の牙で襲いかかった。

 それは、約2000隻を率いたロイクの艦隊による強襲で、更に偵察艦を攻撃した数隻の艦はステルス性能を利用して、後方から忍び寄り敵の補給艦に攻撃して数隻撃沈させると反撃を受ける前に天底にいる本隊の元に合流する。

 ロイクは、敵に存在を知られているため迅速に天底方向に移動して、敵が戦艦の合流に気付く距離である23万キロで攻撃を仕掛け、結果的にヨハンセン艦隊よりも早く攻撃を開始することになった。

「流石はロイク中将だな。絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けたな」

 ヨハンセンは戦術モニターを見ながら、ロイクに賛辞の言葉を発すると両翼の部隊に攻撃命令を下す。

「両翼の艦隊に、攻撃するように指示をだせ」

 両翼は船速の速い艦中央に足の遅い戦艦で構成されているため、ロイク艦隊を援護するために全速前進して来たヨハンセン艦隊は、奇しくも鶴翼に近い陣形になっており、先に敵艦隊と20万キロまで接敵した両翼が攻撃を開始することになった。

 この状況は、ヨハンセン艦隊には危険な状況であり、両翼と中央部隊には約2万キロの間隙が空いており、そこに敵の機動部隊が突撃してきてどちらかの背後を取れば、戦況はどうなるかわからない。

 だが、幸運なことにプリャエフ大将とコリヤダ少将には、それに気づいて実行するだけの才能はなかった。

「味方が攻撃を行われている、敵の両翼前面に攻撃を集中させよ」

 ロイクは両翼の前面に攻撃を集中させることで、味方の攻撃と連携して敵艦のEシールドに効率よく負荷を与えて、次々と撃沈させていく。

 プリャエフ大将とコリヤダ少将が、対応に手を拱いている内にヨハンセンの中央部隊が敵艦隊まで21万キロに迫り

「撃て」

 ヨハンセンは淡々とした口調で攻撃命令を下す。

 司令官の命令を受けた戦艦から一斉にビームが放たれ、プリャエフ艦隊は20万キロまで、一方的にビームを受けて破壊されていく。

「どうやら、敵は新型艦のようで、我々よりも射程距離が長いようで…」

「ついでに言うなら、新型艦だからこちらの予想よりも速く合流できたこともな!! 貴様はさっきから、解りきったことばかり言いおって! 具体的な対策は言えないのか!!」

 そもそも自分が手柄欲しさに危険を承知で会戦を強行したことを棚にあげ、プリャエフ大将は先程からの状況報告ばかりで、参謀としての対応策を提言してこないコリヤダ少将に苛立ち怒りを吐き捨てる。


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