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第4章 第一次対大同盟戦

協同作戦 03

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 宇宙暦1799年5月27日―

【ドナウリア領ネイデルラント】ブラッセル星系惑星ブラッセル宙域に、【エゲレスティア連合王国】の侵攻艦隊が駐留していた。

 エゲレスティア艦隊は、3日前にこの惑星ブラッセル宙域において、ネイデルラント守備艦隊と会戦を行い見事に撃退して、ここで損傷した艦の修理と補給を行いながら、進行計画を練っていた。

 ネイデルラント方面総司令官ジョニー・ジャイルズ大将は、本国からのガリアルムへの正式な援軍に迎えとの命令を受けて、部下の提督の一人ホレス・エリソン中将を旗艦【ヴィクトリー】に呼び寄せていた。

「本国からの命令が来た。内容はバーデ=ヴィルテンベルク星系惑星フロイデンスタットに、駐留しているガリアルム艦隊の援軍に向かえとのことだ」

「一ヶ月前に話が来ていた例の援軍要請の話ですか?」

「そうだ。報告によるとガリアルム艦隊8000隻は、5月25日に惑星ベシンゲンに置いて、オソロシーヤ帝国先遣艦隊1万隻と会戦、見事に勝利して敵艦隊を2000隻まで撃滅することに成功したそうだ」

「ほう、ガリアルム艦隊の司令官は、余程有能なようですね」

 エリソン中将が上官の報告を聞いて、そう感想を述べるとジャイルズ大将は報告を続ける。

「貴官にも既に伝わっていると思うが、本日27日時点においてオソロシーヤ帝国の後続艦隊12000隻は先遣艦隊撃滅後も進行中、諜報部の情報によると目標はガリアルム艦隊か我々だそうだ」

「それで、我々に援軍に迎えというわけですか。小官も援軍に向かうべきだと思います。オソロシーヤ帝国の艦隊は、ガリアルムとの共同作戦で撃破するべきです」

 ジャイルズ大将の報告を聞いたエリソン中将は、援軍に賛成するとその理由の説明を続ける。

「同盟国を救援するのは当然ですが、艦隊を撃破できればそれを待っている防衛艦隊の士気が下がります。そうなれば、少なくとも現状よりは攻略は楽になるでしょう」

 エリソン中将の推察が自分のモノと同じだったので、ジャイルズ大将は頷くと自分の作戦の話を始める。

「貴官の言う通りだ。そこで、君の艦隊には敵防衛艦隊を幾分か引っ張っていってもらう。後で攻略する時に少しでも我が艦隊が楽をするために」

「防衛艦隊にワザと援軍の情報を流すと?」

「そうだ。そうすれば、敵防衛艦隊は命綱であるオソロシーヤ艦隊に、許せる限りの援軍を送るはずだ。防衛艦隊の総数はおよそ8000隻だから、援軍に送るのはおそらく3000隻といったところだろう」

 ロイクやヨハンセンが懸念していたことを、ジャイルズ大将は作戦として行うことを考えていたのであった。

(相変わらず、喰えない人だ…。だが、悪くはない)

 エリソン中将が迫りくる戦いに、軍人として戦意を高揚しているとジャイルズ大将は、彼に正式に命令を与える。

「改めて貴官に命じる。エリソン中将、本国からの命令により、貴官には麾下の艦隊8000隻を率いて、バーデ=ヴィルテンベルク星系惑星フロイデンスタットに駐留しているガリアルム艦隊の援軍に向かって貰う」

「はっ」

 エリソン中将は援軍の命令を受けた後に、敬礼すると自分の旗艦【ヴァンガード】に意気揚々戻っていった。

 宇宙暦1799年5月28日―

 艦隊の出撃準備を済ませたエリソン艦隊は、惑星ブラッセルを出撃して惑星フロイデンスタットに向けて進軍を開始する。

 その情報を得た防衛艦隊は、エゲレスティアが故意に流したモノだと知らずに、オソロシーヤ艦隊にその情報を送ってから、ジャイルズ大将の予測通り3000隻を別航路で援軍に向かわせる。

 その頃、ガリアルム艦隊は今回の遠征作戦の橋頭堡である惑星フロイデンスタットまで、後退を開始していた。

 これは補給を考えた時にフロイデンスタットのほうが、ベシンゲンよりもガリアルム国境に近く安全だからである。

 宇宙暦1799年5月29日―

 そのフロイデンスタットへの航路で、ヨハンセンはエゲレスティア艦隊8000隻が援軍として惑星ブラッセルから、フロイデンスタットに向かっているという情報を得る。

「援軍が来てくれるか… これで、とりあえずは何とかなりそうだ」

 援軍の情報を得たヨハンセンは、少し気が楽になった。
 だが、翌日に防衛艦隊からも援軍が向かっているという情報が入る。

「やれやれ、やはり来たか…。 楽な戦いとは無いものだね」

 予想していたとはいえ、ヨハンセンは思わずそう呟いてしまう。

「まあ、援軍の司令官が名将と噂されるホレス・エリソン中将だから、大丈夫だろう」

 艦隊の士気を上げようと、そう態とらしく呟いて見せたヨハンセンであったが、そのようなことをしなくても、彼の部下達は名将である司令官に絶対的信頼を置いているため、高い士気を維持している。

 惑星ブラッセルを進発したエリソン艦隊は、しばらく南下すると惑星ルクセブルクを更に南下して、ラインを越えガリアルム領に入るとストラーブールへの航路を急ぐ。

 宇宙暦1799年6月16日―

 惑星ストラーブールに到着したエリソン艦隊は、ガリアルムによって用意されていた補給物資で補給を終えると、ラインを越えてフロイデンスタットに向かけて進軍を再開させる。

 宇宙暦1799年6月20日―

 フロイデンスタットで損傷した艦を修理中のガリアルム艦隊に、本国から思わぬ報告が齎される。

「閣下、大変です! これを!」

 副官のクリスが、慌てた様子で通信文をヨハンセンに手渡す。
 彼は彼女のその様子に、只事では無いこと感じると通信文に目を通す。

 そこには―

 <6月20日 惑星マレンにおいて、フランソワーズ殿下麾下の艦隊がドナウリア艦隊と交戦。劣勢に陥って後退。以後追加情報なし>

 ヨハンセンはその通信文を見ると、険しい表情でこの情報への対応を考え始める。



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