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第4章 第一次対大同盟戦

協同作戦 04

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「閣下、如何なさいますか? 援軍に向かいますか?」

 本国からのフラン艦隊後退の通信を受け、その対応策を講じるヨハンセンにクリスが、今後の行動方針というより救援に向かうかを尋ねてくる。

「いや、この情報だけでは、殿下の艦隊が一時撤退しているだけか、敗走しているだけかは解らない。よって、今は動くわけには行かない。私の推察では、一時後退しただけだと思う。それにあの明敏な殿下の事だから、今頃は見事な反撃をしているはずだよ」

「確かに、フラン様が、負けるわけありませんわね!」

 二人の会話を聞いていたシャーリィが、ヨハンセンが大丈夫と太鼓判を押したので、安心したのか嬉しそうにそう言葉を発する。

 ヨハンセンはシャーリィを安心させるために頷くが、正直なところフラン艦隊が無事かどうかの自信はない。

 戦いは優秀な司令官がいるほうが、必ず勝つとは限らない事は彼が学んできた歴史が証明しており、彼がそう言ったのもみんなを安心させて、士気を下げないためである。

 一度戦闘が始まれば、戦況を逐次本国に送るのは難しく苦戦しているなら尚更で、そのため戦況の続報が送られないのであろう。

(まあ、もう少し待てば続報が来るだろう。何よりエゲレスティア艦隊が援軍としてこちらに来ている以上、我が国の都合だけで動くわけには行かない)

 ヨハンセンの考え通り、こちらが援軍要請しておいて、こちらの事情でそれを破棄してしまえば禍根を残す可能性がある。

 翌日の6月21日―

 本国からヨハンセンの予測通り通信が入り、それは彼の推測通りのモノであった。

 <6月20日 惑星マレン宙域において、フランソワーズ殿下麾下の艦隊が、ドナウリア艦隊を撃破。フランソワーズ殿下は健在。ただし、ロドリーグ中将は名誉の負傷>

 その通信を聞いた一同は、安堵の表情を浮かべる。

「フラン様がご無事でよかったですわ。ルイさんのことは心配ですが…」

 シャーリィは、フランが無事なことへの喜びとルイの負傷への心配とで、複雑そうな表情でいる。

「そうですね。彼は若いが優秀な司令官なので、無事に復帰して欲しいですね」

 ヨハンセンは、教え子とも言うべきルイの安否を心配しながら快気を願う。
 その頃、ロイクもゲンズブールより、本国からの報告を受けていた。

「そうか… ルイ― ロドリーグ中将が… 」

(そうなると、ゴスロリ姫が心配だな。取り乱して、まともな指揮ができていないのではないか? まあ、ヴェルノンがいるから、大丈夫だと思うが…)

「向こうはかなり被害が出ているようですな… 大丈夫でしょうか?」

「まあ、殿下やロドリーグ中将のことは心配だが、今我々が考えなければならないのは、次の戦いのことにしようではないか」

 ロイクは少しドヤ顔でこう言った後にこう考える。

(よし、後でルイ君の全快を祈って、巨乳モノでも見るか!)

 こうして、ガリアルム艦隊は憂いが無くなり、エゲレスティア艦隊との協同戦に意識を集中することが出来るようになった。

 宇宙暦1799年6月24日―

 ガリアルム艦隊が駐留する惑星フロイデンスタット宙域に、エリソン中将率いるエゲレスティアの援軍が到着する。

 ヨハンセンは出迎えの挨拶の為に副官のクリスを引き連れて、連絡艇に乗ってエリソンの旗艦『ヴァンガード』に向かう。

 格納庫に到着した連絡艇から、ヨハンセンとクリスが降りてくるとそこにはエリソン中将が自ら出迎えに来ていた。

 ヨハンセン達は彼に近づき敬礼して、エリソンの答礼を受けてから自己紹介をおこなう。

「ガルアルム軍ライン方面艦隊総司令官のユーリ・ヨハンセン中将です」
「副官のクリスティナ・フローリ大尉です」

「エゲレスティア艦隊司令官ホレス・エリソン中将です」

 ヨハンセンは、自己紹介を済ませると握手を交わそうと左手を差し出すと、エリソンは少し驚いた後に左手を差し出し握手をする。

 エリソンが驚いたのは、彼の右手は過去の戦いで義手になっていて、握手は生身の左手でおこなっており、その事をヨハンセンが知っていて左手を差し出してきたからである。

 これはヨハンセンが、事前に失礼がないようにと彼の事を調査していた成果であり、エリソンは名将として有名な人物なので、情報が得やすかったのもあるが、目の前の冴えない男が少なくとも事前準備の出来る人物であることを示すことができた。

 握手をしながら、エリソンは整然と並ぶガリアルム艦隊を見て称賛の言葉を述べてくる。

「しかし、貴官の艦隊は会戦をおこない敵地で1ヶ月も過ごしているのに、規律が保たれ士気も高く兵士達の状態は良好ですな」

「その理由は、貴国の勇敢な兵士達と共に戦える喜びと誉れからでしょう」

 その称賛に対して、ヨハンセンは讚美の言葉で返すと

「貴国の兵士達と戦えるのは、我軍の兵士達にとっても光栄なことです」

 エリソンも賛辞の言葉で返す。

 一同は握手を交わした後、場所を会議室に移してこれからの作戦行動を話し合うが二人の意見は同じで、”こちらから侵攻する”であった。

 そして、その理由も同じで”こちらから仕掛けて、主導権を握る”というものである。

 二人はお互いの指揮と意思の統一、作戦目的の認識を確認すると最後に握手して、会議室を後にすると作戦に備えて補給を開始する。

 エリソン中将は補給の指示をしていると、参謀のウィレム・パッカー准将が感想を述べてくる。

「ヨハンセン中将は、何というか… 軍人には見えませんでしたね」

 彼はヨハンセンの総司令官は元より、軍人にも見えないその冴えない風貌を見て、不安を感じて司令官にそう遠回しに”あの司令官との協同戦は大丈夫ですか?”と尋ねる。

 すると、司令官は自信満々にこう答える。

「彼は優秀な司令官だよ。先程の作戦会議での会話でわかる。それに、ガリアルムの整然と並ぶ艦隊と見事に統率された兵士達を見れば一目瞭然だ。それに、ベシンゲンの戦いの戦果が何よりの証だろう」

「確かにそうですね…」

 パッカー准将はまだ半信半疑であったが、彼のその評価は後にひっくり返ることになる。


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