イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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第一章 砂漠編

1 脱走☆★

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 細い月が、雲間から見え隠れしている。

 月が雲に隠れた闇の一瞬、口を塞がれた。
 ジャラッ。
 両手をいましめている鎖が鳴る。そのまま抱え上げられ、寝床から連れ去られる。
 寝床、といっても、それは地面の上に大きな襤褸布を敷いただけの場所だ。奴隷たちは荷車の車輪に手鎖を繋がれたまま、布の上に並んで眠る。
 その鎖のひとつが外され、女奴隷がひとり攫われた。
 否。正確には攫われた訳ではない。掠奪者らは用が済んだら元通りに女を寝床に戻しておくつもりだった。
 キャラバンから少し離れた砂丘の陰で、彼らは女を組み敷いた。中の一人が腰に佩いたつるぎを砂に深々と突き刺し、女の手鎖をそこにぎっちりと巻きつけた。
 もう一人が女の両足首を押さえている。女は身体をまっすぐに伸ばされて、砂の上に横たえられた。
 掠奪者は三人。いずれもこの隊の兵士である。
「おい、騒ぐなよ」
 軽く息を切らしながら、兵士の一人が言った。しかし元より女は声など出せなかった。
 奴隷同士が会話をできないよう、奴隷は鉄でできた小さな棒状の轡を噛まされている。食事のときだけは外すのを許されたが、それ以外は眠るときさえもそれを噛まされたままだった。
 女の腹に乗った大柄な兵士が、女の上半身を覆っていた布を剥ぎ取り、乱暴に乳房を揉んだ。
「……っ」
 女は僅かに眉を歪めただけで、ほとんど表情を変えない。暗い瞳には深い諦観だけがあった。
 兵士は女の腰巻きをまくりあげ、前戯もなしに男根をそこに押し当てると、一気に割り入った。
「ふんっ」
「……!」
 衝撃で女は腰を浮かせる。硬く屹立した男根に貫かれ、微塵も濡れていない膣がめりめりと軋むようだ。女は流石に苦痛に顔を歪めた。
 兵士は激しく腰を打ち付けた。まるで性処理のための道具のように、狭い膣道の奥を容赦なく突きまくる。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ……っふぅ……っ」
 兵士が射精すると、女は細い腰をしならせて小さくわなないた。
「こいつ、感じてやがるぜ」
 兵士は下卑た笑いを浮かべ、男根を引き抜いた。
「こ、交代だっ……」
 足を押さえていた兵士が、続いて女の上に覆いかぶさった。性急に乳房を揉みしだき、女の細い顎をべろべろと舐め上げる。酷い乱杭歯だ。そのためか、口臭もきつい。
「う、ううっ……ま、待て、待てよ……」
 兵士は服の間から男根を引っ張り出し、先程の余韻にひくひくと震える小さな秘孔にぐいと押し込んだ。
 女は声ひとつ上げず、されるがままに受け入れている。すべての抵抗は無駄なのだと、生まれたときから植え付けられていた。手足をいましめ続けている鎖と共に。
「うう、が、我慢できねぇー」
 兵士は忙しなく腰を振りながら、べちゃべちゃと乳房を舐める。
 女は嫌悪のあまり、顔を背けた。その視線の先には、両手の鎖が巻き付いた剣の柄。
「うう、いく、いく……いぃあぁぁ……っ」
 裏返った声を上げて、二人目の兵士も射精した。
「おい、お前の番だぞ」
 少し離れて見張りをしていた男を、最初の大柄な兵士が呼んだ。
「ん?ああ」
 呼ばれた男は気のない返事をしながら砂丘を踏んでこちらに来る。月が現れ、男の碧い瞳に反射して、煌めく。
「なんだ。やらんのか?」
「いやなに、やるさ」
 そう言って男は女のからだをひっくり返してうつ伏せにした。その背中には無数の疵痕きずあとが刻まれていた。
「領地を回る二ヶ月間、女っ気なしなんて、全くやってられねぇ」
 男は女の股に手を突っ込んだ。
 そのまま膣内に指を挿し入れ、ぐいっと内部で指を曲げる。
「――っ!」
 女が初めて小さな呻き声を上げた。
 透明な液が噴き出し、続いてどろりと白濁した精子が溢れ出す。男はそのまま前の男の精子を掻き出した。無理矢理に潮を吹かされた所為せいで、びくびくと震えている尻を両手で掴むと、後ろから貫いた。
 女は身動きひとつせずに、子宮に打ち付けられる男根を受け止める。
 その視線の先――。
 鎖の巻きついた、剣のすぐ横。
 砂が、こそり、と盛り上がった。
 そこから現れたのは、錆色の大きな――さそり、だった。
(……カナグイサソリ……!)
 砂漠に棲む、鉄を喰う蠍だ。口中の分泌孔から酸を出して鉄を溶かし、体内に取り込む。
 しかしそれは彼女にとって僥倖だった。
 男たちは蠍に気付いていない。
 蠍は音も立てずに、女の手首に這い上がり、鎖を溶かし始めた。
 女はぴくりとも動かなかった。
 背後では、相変わらず兵士が女の狭い胎内を執拗に責め立てている。
 だが。
(――動いたら、刺される)
 カナグイサソリは動く生物に遭遇すると尻尾の毒針を突き立ててくる。
 女は蠍を見つめたまま、必死で躰の内側を掻き回される衝撃に耐え続けた。
(鎖を溶かし切る前に精を放たれたら、気付かれる――)
 女は男を悦ばせるために、内壁をきゅうっと締めた。
「……なんだ、ここが良いのか?」
 男は女の背中に顔を寄せて囁いた。縦横無尽に走る疵痕に舌を這わせる。女は再び中を締めた。
 男は女が快感に震えているのだと勘違いし、更に激しくそこを責めた。
 しゅう…と小さな煙を上げ、鎖の一箇所が完全に溶け切れた。その時。
「……蠍だ!」
 少し離れた場所にいた乱杭歯の兵士が、叫び声を上げて飛び退いた。どうやら一匹ではなかったらしい。
「なんだと…!?」
「ぎゃあっ!」
「……畜生、こっちもだ、刺された……!」
 たちまち、小さな叫喚に包まれる。
 女を犯していた男が鮮やかな手つきで目の前に突き立てられていた剣を抜き、カナグイサソリに振り下ろす。と、同時に精を放った。
「……っ!」
 男は男根を引き抜くなり、剣を片手に仲間の兵士のもとへと駆けた。
 細い月の光を受けて、剣が一閃し、カナグイサソリの死骸が三体、砂上に転がった。
「こ、こ、これで、ぜ、全部か…?」
 乱杭歯の兵士がどもりながら言った。
「大丈夫か?」
 碧眼の兵士は剣を鞘に納めて訊いた。
「くそ、やられた」
 二人とも、ふくらはぎを押さえて毒を絞り出している。
「早く戻って洗わないと、毒が回るぞ」
 碧眼の兵士の肩を借りて二人の負傷者が立ち上がった時。
「――おい!女が」
 ふと後ろを見た大柄な兵士が異変に気付いた。後の二人も振り返る。
 細い月に照らされて、蒼く浮かび上がった砂丘。その頂を駆けてゆく、小さな影。
 先程まで女を犯していた場所には、千切れた鎖の残骸が残されている。
「女が逃げたぞ!」
「くそっ……」
 碧眼の兵士が追う。が、女は既に遠い砂丘の陰に隠れてしまった。
「……まずいぞ……どうする?」
「手鎖をかけていると思って油断したな……」
 三人はキャラバンのテントに戻りながら、途方に暮れた。
 テントからこっそりと水袋を持ち出し、また外に出て傷口を洗い流す。
「……俺は、逃げる」
 しばらく考え込んでいた碧眼の兵士がぽつりと言った。
「ファーリアは閣下のお気に入りだ。逃がしたのがバレたら首が飛ぶ」
「ま、待ってくれ!俺たちは……?」
「この傷じゃ走れんし、駱駝にも乗れん」
 乱杭歯の兵士が哀れっぽい声を出す。
 碧眼の兵士は朋輩の膨れ上がった脚を一瞥して言った。
「不幸だったな。同情するよ」
 
 ファーリアは走った。
 立て続けに三人に犯された身体は、腰から崩れ落ちそうだった。だが立ち止まったら捕まる。
 胎内の疼きを抱えたまま、無我夢中で砂丘を駆け上った。
 砂丘の頂に立ち、初めて足を止めて忌まわしい場所を見下ろすと、先程の兵士たちが右往左往している。どうやら何人か蠍に刺されたようで、ファーリアを追うに追えないらしい。蠍の毒は素早い応急処置が肝心だ。毒が中枢神経を侵す前に、なるべく早く毒を体内から出す必要がある。しかし三人はキャラバンから離れていた。処置のためには、まずキャラバンに戻らねばなるまい。
 ファーリアは自らを縛っていたキャラバンを見遣った。
 なんて遠く、なんて小さいのだろう。
 死ぬより他に逃げ出すことはできないと思っていたのに。
(――もう二度と、あそこには戻らない)
 ファーリアは一気に砂丘を駆け下りた。

   *****

「ファーリアはどこだ」
 碧眼の兵士が予言したとおり、翌朝の彼らのあるじの怒りは凄まじかった。消えたファーリアの代わりに、手近にいた女奴隷を二人、ねやに呼びつけて鞭で打った。
「ゔゔーっ!ゔーーっ!!」
「ゔぎぃぃいーーー!!」
 轡を噛まされた女達の、獣のような叫び声は、テントの外にまで漏れ聞こえた。その叫びが更に彼の怒りを煽る。
「どこだ、ファーリア。どこへ逃げた」
 ファーリアはどんなに打ってもさいなんでも、醜い叫びを上げたりはしなかった。美しい顔をただ歪めて、苦痛に耐えていた。その顔が、時折漏れるか細い喘ぎ声が、たまらなく彼の欲を煽り立てたものだ。
 満たされない憤りが込められた鞭は、いつも以上に苛烈に、哀れな女達の背中に食い込んだ。
 徹底した調査を命じられた兵士たちは、速やかに犯人をあぶり出した。
 前夜、蠍に噛まれたという二人の兵士が、あるじの前に突き出された。
「もう一人、兵士が行方不明になっています。恐らく共謀した仲間かと」
 ひざまずいた二人の罪人を槍で制しながら、主の側近の兵士が言った。
 あるじは見事な装飾が施された剣をすらりと抜き放ち、震えている罪人の前に歩み寄った。
「そなたら、あれがどういう女か知っていて、逃がしたのか」
「……申し訳ございません」
 大柄な男は、俯いたまま力なく侘びる。
「あれをったのか?」
 あるじはしゃがみこんで、乱杭歯の男の顔を覗き込んだ。
「ひ、ひぃい……めめ、め、滅相もないことで……」
ったのかと訊いておる」
 あるじは剣の切先を、その乱杭歯の間に差し入れた。
「あ、あが、あああ……」
 かちかちと歯を鳴らして、男は目だけで頷いた。
 あるじはそのまま剣を横にいだ。
「あがーーーーっ!!!」
 口が耳まで裂け、辺りに血しぶきが散る。
「その醜い歯を一本残らず抜いてやれ。それから砂漠に埋めておけ」
 命じられた兵士は、二人がかりで血だらけの男を引きずっていった。
 残された大柄な男は、ぽたぽたと床に滴るほど脂汗を流している。もういっそひと息に首でも刎ねてくれと心で願った。
「あれはいい奴隷だった……のう?」
 あるじは、男の周りをゆっくりと回る。
「そなたも味わったのであろう?あれを」
 男は答えに窮した。もう何を言っても無駄だと分かっていたが、だからといって開き直れるものでもない。血だらけの朋輩の姿を見せられた後では尚更だ。
「寝ろ」
「……は?」
「仰向けに寝ろ」
「……ご、勘弁を……」
 あるじが合図すると、控えていた兵士たちが男の四肢を押さえつけて地面に寝転がらせた。
「ぐっ……閣下、どうか」
 男が言い終わる前に、剣が彼の男根を地面に縫い付けていた。
「ぐぁああああーーーっ!!!」
「こいつを木馬に縛り付けろ。そして尻に淫薬を塗りたくってやれ」
 あるじは命じると、テントの中に入っていった。中からは再び、女達の悲鳴が漏れてきた。

 正午、じりじりと太陽が照りつける砂漠に、顔中血だらけにした男が首だけを出して生き埋めにされた。
 もはや彼の顔に乱杭歯はない。片頬は垂れ下がり、流れ続ける鮮血によって口臭もすっかり洗い流された。
 その向かい側には、丸太を組んだ粗末な木馬が置かれた。木馬には男性器を斬り落とされた裸の男が、尻を突き出した格好でうつ伏せに縛られている。
 そこへ、馬が一頭引き出されてきた。極度に興奮している。馬もやはり淫薬を与えられていた。
 木馬に縛られた男性の前まで引かれてくると、馬は夢中で木馬に――男に前脚を掛けて乗りかかった。怒張した巨大な性器を男の肛門に突き立てる。
 それまでぐったりしていた男が、悲鳴を上げた。
「うがあぁぁああーーーーー!!!!」
 馬は猛り狂って、男の尻にドスドスと打ち付ける。
「ぎゃあーーーっ!ぐああーーっ!あがああああ!!」
 淫薬を塗られた肛門は、規格外の巨根に引き裂かれる痛みの合間に、徐々に快感を引き出していった。
「あああーーーっ、ああーーっ……ああ、あ……あああ……」
 数分の後。
 男の声が、次第に弱くなっていく。ぐったりと木馬に身を預け、犯されるままに受け入れている。
 じゅぼっじゅぼっという音を立てて、馬は何度も射精と勃起を繰り返しながら男を犯し続けた。薬のせいで興奮し続けているのだ。男の尻からは白濁した馬の精子がどくどくと流れ出ている。
 その様を、歯のない男がぼんやりと見上げている。
 天幕の中から、あるじは処刑の様子を見物していた。奴隷が大きな団扇で風を送っている。膝の上には裸の女奴隷を乗せて、気まぐれに挿入したりいたぶったりしている。
 どれだけ残虐に殺してやっても気が済まないほど彼は怒っていた。最高の玩具を失ったこともだが、彼だけの玩具にこの身の程知らずの下等な男どもが手を出したことが赦せなかった。それは彼に対する侮辱であった。侮辱する権利など持っていない者から軽んじられることほど我慢のならないことはない。
「そろそろ見飽きたな。目玉をくり抜いて、見張りを五人置いてゆけ。確実に死ぬところを見届けてから来い。万一逃がしでもしたら、逃がした兵士とその家族も同じ目に合わせてやるぞ」
 女奴隷を犯した男二人は、大きすぎる代償を払って、翌日乾きのために死んだ。木馬の男の背は灼熱の太陽に灼かれて真っ赤に爛れ、目と歯を失った男は丸一日で骸骨のような相貌になっていたという。
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