89 / 230
第六章 アルナハブ編
落下
しおりを挟む
アトゥイーは敵をかいくぐり、月光宮の奥へと入り込んでいた。
宮殿そのものが天然の地形に沿って築かれているらしく、内部の構造は恐ろしく複雑だった。奥に行けば行くほど複雑さは増していく。廊下は曲がりくねり、何層にも重なり合っている。露出した岩肌に沿って大小の階段が巡らされ、思いもかけない高さにぽっかりと通路が口を開けている。
平地に整然と築かれたアルサーシャの宮殿とは、全く様相が異なっている。
「まるで、迷路だ……」
そう呟いた時、暗がりから小声で呼び止められた。
「アトゥイー!」
咄嗟に剣を構えて振り返ると、そこにはリンがいた。
「リン!無事だったのか」
「敵に追われて――そいつらは倒したんだけど、謁見の間に戻れなくなった」
「わたしもだ」
その時、通路の奥から話し声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。
「こっちへ来る!」
アトゥイーとリンは音を立てないよう注意して、声から遠ざかるように進んだ。
しばらく進むと、唐突に外に出た。外、といっても、中庭を見下ろす外廊下だ。山の斜面を削り取るように建てられたたくさんの建物が、外廊下や内側の通路で繋がって、宮殿が形成されているらしい。アトゥイーたちはその斜面の中腹にいた。眼下には複雑に入り組んだ建物が重なり合っている。何度も上がったり下がったりして、実際に今何階にいるのか定かではない。
「リン、あそこ……!」
アトゥイーが指差した。
遙か下に、敵に囲まれたエディたちが見えた。そこは先程までいた謁見の間だった。
咄嗟にそちらに向けて銃を構えたリンが、小さく舌打ちする。
「ライフルを取り上げられてしまった。短銃ではここからじゃ届かない」
銃は貴重品だ。傭兵隊では狙撃手であるリンだけが、銃身の長い狙撃用ライフルを持っている。それを、謁見の間の回廊に通された時に預けてしまっていた。
と、その時、背後から声がした。
「おい!何者だ!」
「――見つかった!」
アトゥイーとリンは外廊下を駆け、突き当たりの階段を駆け下りる。が、すぐに騒ぎを聞きつけた兵が階下からも駆け上がってきた。
「こっちだ!」
手近にあった暗い通路に飛び込む。と、いきなりガクンと足が空を踏んだ。
「あ?きゃ、あ、あっ!」
通路の先は、恐ろしく急な――ほとんど崖と言っていいほど――階段だった。
背後には追手の気配がする。戻るわけにも止まるわけにもいかない。
アトゥイーとリンは転がるように暗闇の中を落ちていった。
宮殿そのものが天然の地形に沿って築かれているらしく、内部の構造は恐ろしく複雑だった。奥に行けば行くほど複雑さは増していく。廊下は曲がりくねり、何層にも重なり合っている。露出した岩肌に沿って大小の階段が巡らされ、思いもかけない高さにぽっかりと通路が口を開けている。
平地に整然と築かれたアルサーシャの宮殿とは、全く様相が異なっている。
「まるで、迷路だ……」
そう呟いた時、暗がりから小声で呼び止められた。
「アトゥイー!」
咄嗟に剣を構えて振り返ると、そこにはリンがいた。
「リン!無事だったのか」
「敵に追われて――そいつらは倒したんだけど、謁見の間に戻れなくなった」
「わたしもだ」
その時、通路の奥から話し声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。
「こっちへ来る!」
アトゥイーとリンは音を立てないよう注意して、声から遠ざかるように進んだ。
しばらく進むと、唐突に外に出た。外、といっても、中庭を見下ろす外廊下だ。山の斜面を削り取るように建てられたたくさんの建物が、外廊下や内側の通路で繋がって、宮殿が形成されているらしい。アトゥイーたちはその斜面の中腹にいた。眼下には複雑に入り組んだ建物が重なり合っている。何度も上がったり下がったりして、実際に今何階にいるのか定かではない。
「リン、あそこ……!」
アトゥイーが指差した。
遙か下に、敵に囲まれたエディたちが見えた。そこは先程までいた謁見の間だった。
咄嗟にそちらに向けて銃を構えたリンが、小さく舌打ちする。
「ライフルを取り上げられてしまった。短銃ではここからじゃ届かない」
銃は貴重品だ。傭兵隊では狙撃手であるリンだけが、銃身の長い狙撃用ライフルを持っている。それを、謁見の間の回廊に通された時に預けてしまっていた。
と、その時、背後から声がした。
「おい!何者だ!」
「――見つかった!」
アトゥイーとリンは外廊下を駆け、突き当たりの階段を駆け下りる。が、すぐに騒ぎを聞きつけた兵が階下からも駆け上がってきた。
「こっちだ!」
手近にあった暗い通路に飛び込む。と、いきなりガクンと足が空を踏んだ。
「あ?きゃ、あ、あっ!」
通路の先は、恐ろしく急な――ほとんど崖と言っていいほど――階段だった。
背後には追手の気配がする。戻るわけにも止まるわけにもいかない。
アトゥイーとリンは転がるように暗闇の中を落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる