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第九章 海賊編
一夜明けて
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スカイが街道をひた走ってアルサーシャに着いたのは朝方のことだった。
王宮では、完徹したシハーブが不機嫌そのものでスカイを迎えた。参謀本部内にあるシハーブの部屋へは、一夜明けて尚、ほうぼうからひっきりなしに報告が入ってくる。
「スカイ、マルス様は一緒じゃなかったのか?」
「え、僕、知りませんよ?昨日、祭でお会いした時は、シハーブ様と王宮に戻られるって仰って。ちょっとそれいいですか?」
スカイはシハーブの傍らに山積みになっている書類から、市中警備兵の報告書の束を取り出してめくりはじめた。
「その祭で見失ってから一度もお姿を見ていない」
いがいがと耳に刺さる声でシハーブは吐き捨てた。
「あー……」
スカイは書類をめくる手を止めないまま、昨日の光景を思い出していた。確か一緒にいたのは、第一王子マルスに縁談があったというリアラベルデの女市長だったか。見事な金髪の、気の強そうな美女。
「……まあ、飽きたら戻りますよ。何事もなければ」
「何事かあっては困るから言っている!……飽きたら?何に?スカイ、お前何か知っているのか!?」
「知りませんよ、僕は。ただ状況証拠から類推しているだけですってば」
「だから、何を!?」
「ああもう、だから、女に飽きたら戻りますって!子供じゃないんですから!」
書類を探すのに集中したいスカイは、鈍いシハーブに少しだけ苛立って、つい余計なことを口走ってしまった。
想像を超えたセリフにシハーブが開いた口が塞がらずにいる横で、スカイはようやく目当ての一枚にたどりついた。
「……あった」
それは、西街道から入った正体不明の騎馬を11区近辺で見失った、というものだった。時刻は深夜。ちょうど日暮れすぎにレーを出れば、アルサーシャに着くのはこれくらいの時間だ。
「僕は兎を狩り出しに行きますよ」
ドアを開けて出て行きかけたスカイの肩を掴んで、シハーブが引き止める。
「ちょっと待て。女に飽きたらって、どこの女だ!?この非常時に……」
その時、長身の影がスカイの前に立ちはだかった。
「この非常時に、のんきに他人の女の話で盛り上がっているのか、お前たちは?」
「お……っと……」
マルスとシハーブに挟まれた格好になったスカイは、観念したように両手を上げた。
「マルス様……!21ポイントが陥落したと」
シハーブが真っ先に報告する。その件については、スカイは既にレーで聞いて知っていたが、マルスは初耳だった。
「ほう。奇遇だな、私もレーが陥落した報せを持ってきたぞ」
マルスは特段驚きもせず、つかつかと報告書の山に歩み寄り、バサバサと目を通しはじめた。
「えっ……?」
スカイが固まった。何故だ、という思いが頭の中を巡る。あの時点で九割方、勝利は確定していたのだ。
「レー討伐の司令官は、なぜこんな場所にいる?」
「……申し訳ありません。敵の頭領がレーに見当たらなかったので、王都に入っていると推測して一足先に」
醜い言い訳を並べている、とスカイは言いながら思った。カナン――ファーリアを追うことに気を取られすぎた。
「レーは千人を超す奴隷どもが占拠している。スカイ、貴様、甘く見たな」
スカイは唇を噛んだ。
「……面目次第もありません。すぐ、首謀者を捕らえ――」
「いい。お前はしばらく謹慎だ。少し頭を冷やせ。シハーブ、21ポイントの状況は?」
「それが――」
シハーブは口ごもった。が、すぐに意を決したように続けた。
「ユーリ・アトゥイーを、捕らえたと」
マルスの手が止まった。その表情は東向きの窓からの逆光で見えない。
シハーブが更に続ける。
「傭兵隊の……狙撃手が負傷させていますが、息はあるとのことです。殺さずに王都へ連行するよう、伝えてあります」
「……わかった」
マルスはそれだけ言うと、星の間へ籠もって人払いした。
【補足】
12区のスラムと11区の色街は隣り合っています。
時系列がぐっちゃぐっちゃですが、レーとアルサーシャは馬で3時間前後(人による)の設定です。
スカイ、レーに着く……18:00ころ
カナン、レーを出る……18:30ころ
ルビー、レーに着く……20:00ころ
マルス、レーに着く……20:00ころ
カナン、王都に着く……20:45ころ
スカイ、市庁舎へ……23:00ころ
イラン、街道から撤退……4:30ころ
スカイ、レーを出る……5:00ころ
マルスとルビー、廃船置場へ5:30ころ
倉庫の奴隷決起……6:30ころ
マルス、レーを出る……7:00ころ
スカイ、王都に着く……7:30ころ
マルス、王都に着く……9:00ころ←今ここ
イシュラヴァール北部(アルサーシャやレーのある辺り)の緯度は日本の京都付近とほぼ同じです。
スカイは兵隊を連れていた行きは足が遅いですが、戻りは一騎だったので速いです。
カナンも結構速いですが、マルスはいい馬に乗っているので一番速いです。
漁師のお爺ちゃんみたいな協力者は各地にいて、地元の情報を集めたり、密偵をしたり、馬や武器、隠れがなどを提供したりします。
マルスは行きはスラジャのあとをつけてのんびり道中です。行きに乗っていた馬はどっかいっちゃいました。
王宮では、完徹したシハーブが不機嫌そのものでスカイを迎えた。参謀本部内にあるシハーブの部屋へは、一夜明けて尚、ほうぼうからひっきりなしに報告が入ってくる。
「スカイ、マルス様は一緒じゃなかったのか?」
「え、僕、知りませんよ?昨日、祭でお会いした時は、シハーブ様と王宮に戻られるって仰って。ちょっとそれいいですか?」
スカイはシハーブの傍らに山積みになっている書類から、市中警備兵の報告書の束を取り出してめくりはじめた。
「その祭で見失ってから一度もお姿を見ていない」
いがいがと耳に刺さる声でシハーブは吐き捨てた。
「あー……」
スカイは書類をめくる手を止めないまま、昨日の光景を思い出していた。確か一緒にいたのは、第一王子マルスに縁談があったというリアラベルデの女市長だったか。見事な金髪の、気の強そうな美女。
「……まあ、飽きたら戻りますよ。何事もなければ」
「何事かあっては困るから言っている!……飽きたら?何に?スカイ、お前何か知っているのか!?」
「知りませんよ、僕は。ただ状況証拠から類推しているだけですってば」
「だから、何を!?」
「ああもう、だから、女に飽きたら戻りますって!子供じゃないんですから!」
書類を探すのに集中したいスカイは、鈍いシハーブに少しだけ苛立って、つい余計なことを口走ってしまった。
想像を超えたセリフにシハーブが開いた口が塞がらずにいる横で、スカイはようやく目当ての一枚にたどりついた。
「……あった」
それは、西街道から入った正体不明の騎馬を11区近辺で見失った、というものだった。時刻は深夜。ちょうど日暮れすぎにレーを出れば、アルサーシャに着くのはこれくらいの時間だ。
「僕は兎を狩り出しに行きますよ」
ドアを開けて出て行きかけたスカイの肩を掴んで、シハーブが引き止める。
「ちょっと待て。女に飽きたらって、どこの女だ!?この非常時に……」
その時、長身の影がスカイの前に立ちはだかった。
「この非常時に、のんきに他人の女の話で盛り上がっているのか、お前たちは?」
「お……っと……」
マルスとシハーブに挟まれた格好になったスカイは、観念したように両手を上げた。
「マルス様……!21ポイントが陥落したと」
シハーブが真っ先に報告する。その件については、スカイは既にレーで聞いて知っていたが、マルスは初耳だった。
「ほう。奇遇だな、私もレーが陥落した報せを持ってきたぞ」
マルスは特段驚きもせず、つかつかと報告書の山に歩み寄り、バサバサと目を通しはじめた。
「えっ……?」
スカイが固まった。何故だ、という思いが頭の中を巡る。あの時点で九割方、勝利は確定していたのだ。
「レー討伐の司令官は、なぜこんな場所にいる?」
「……申し訳ありません。敵の頭領がレーに見当たらなかったので、王都に入っていると推測して一足先に」
醜い言い訳を並べている、とスカイは言いながら思った。カナン――ファーリアを追うことに気を取られすぎた。
「レーは千人を超す奴隷どもが占拠している。スカイ、貴様、甘く見たな」
スカイは唇を噛んだ。
「……面目次第もありません。すぐ、首謀者を捕らえ――」
「いい。お前はしばらく謹慎だ。少し頭を冷やせ。シハーブ、21ポイントの状況は?」
「それが――」
シハーブは口ごもった。が、すぐに意を決したように続けた。
「ユーリ・アトゥイーを、捕らえたと」
マルスの手が止まった。その表情は東向きの窓からの逆光で見えない。
シハーブが更に続ける。
「傭兵隊の……狙撃手が負傷させていますが、息はあるとのことです。殺さずに王都へ連行するよう、伝えてあります」
「……わかった」
マルスはそれだけ言うと、星の間へ籠もって人払いした。
【補足】
12区のスラムと11区の色街は隣り合っています。
時系列がぐっちゃぐっちゃですが、レーとアルサーシャは馬で3時間前後(人による)の設定です。
スカイ、レーに着く……18:00ころ
カナン、レーを出る……18:30ころ
ルビー、レーに着く……20:00ころ
マルス、レーに着く……20:00ころ
カナン、王都に着く……20:45ころ
スカイ、市庁舎へ……23:00ころ
イラン、街道から撤退……4:30ころ
スカイ、レーを出る……5:00ころ
マルスとルビー、廃船置場へ5:30ころ
倉庫の奴隷決起……6:30ころ
マルス、レーを出る……7:00ころ
スカイ、王都に着く……7:30ころ
マルス、王都に着く……9:00ころ←今ここ
イシュラヴァール北部(アルサーシャやレーのある辺り)の緯度は日本の京都付近とほぼ同じです。
スカイは兵隊を連れていた行きは足が遅いですが、戻りは一騎だったので速いです。
カナンも結構速いですが、マルスはいい馬に乗っているので一番速いです。
漁師のお爺ちゃんみたいな協力者は各地にいて、地元の情報を集めたり、密偵をしたり、馬や武器、隠れがなどを提供したりします。
マルスは行きはスラジャのあとをつけてのんびり道中です。行きに乗っていた馬はどっかいっちゃいました。
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