イシュラヴァール戦記

道化の桃

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第一章 乱世到来

性奴隷

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 もう何日、いや何ヶ月が経っただろうか。
 女は、日にちを数える気力も失せていた。尤も、地下には陽の光は届かない。昼夜関係なく男たちが部屋を訪れ、好き勝手に犯していく。彼らにとって、地下の女達は性処理の道具でしかない。彼らの行為には優しさの欠片もなく、ひたすら荒々しい欲望をぶつけるだけだ。その合間に、一日に二度運ばれてくる粗末な食事で、今日が始まって終わることを知る。
(――もう、どうでもいい……)
 そう考えることすらも億劫だった。
 このままこの暗い部屋で、知らない男たちに好き放題に犯され続けて、いつかごみのように死ぬのだろう。
(いっそのこと、その日が早く来ればいい――)
 何人目かもわからない男に貫かれて、人形のように揺さぶられなから、女は思った。
 最初の数日は、出された食べ物に手を付けなかった。飢え死にしてもいいと思った。
 だが、朦朧とする意識の中で、家族の顔が浮かんできた。
 生きているはずの子供。別れてしまった人。そして、もう一人。
 そう、女には家族がいた。
 そのことを思い出したら、死ねなかった。ずっとずっと一人で生きてきた女が、初めて手に入れた家族。大切で愛しくて、失うのが何より怖かった。――なのに。
 気付くと、顔の横に置かれた皿の中身を食べていた。
 生きる気力など、とうに失くした。
 だけど、死ぬこともできなかった。一度口にした食べ物は、意思とは無関係に消化され、体内を巡って肉体を生かした。
 ――このアマ、散々暴れやがって。
 ――ちったあ思い知れ。
 男たちが罵声を浴びせながら、代わる代わる女を犯した。彼らは激しく怒っているようだったが、何に怒っていたのかわからなかった。言葉は意識の外側を素通りしていった。すべてがどうでも良かった。
 女は地下の一室に閉じ込められた。両手首にぐるぐると鎖を巻かれ、頑丈な錠前がつけられた。鎖の端は硬い粗末な寝台に括り付けられて、同じく錠前で固定された。その鎖の数十センチ分しか、女は自由を許されなかった。
 そして、性奴隷としての日々が始まった。
 閂を降ろされた扉の外からは、他の女達の悲鳴や喘ぎ声が、ひっきりなしに聞こえてきたが、その女は泣かなかった。涙はとうに涸れてしまっていたし、悲しみは深すぎて、どう悲しめばいいのかわからなかった。
 泣きも喚きもしなくなった女のもとに、それでも男たちは通ってきた。長い昼を精液にまみれて過ごし、枕元に運ばれてくる皿から犬のように食事をし、また長い夜を精液にまみれて過ごす。
 女は四六時中ベッドに縛られていたので、排泄すら自分ではできなかった。
 最初の日、犯されまくって気を失い、目が覚めると、地下室の寝台に縛り付けられていた。年老いた男が一人部屋にやってきて、女に水を飲ませた。女は渇ききっていたので、あっという間に水を飲み干してしまった。それから、男は肛門に何かを挿入した。その異物感に吐き気を覚えて、思わず振り返ってみると、何かのチューブの先端が肛門に挿し込まれていた。
「な……に……?」
 抵抗しようにも、身体に力が入らない。チューブはそこそこ大きな革袋に繋がっていて、男がチューブの途中にある膨らみを数回押すと、袋の中身が腸に流れ込んできた。
「あ……あああ!いや……っ!」
 男は、小柄で年老いているにも関わらず、かなり力が強かった。
「暴れるんじゃねぇ。すぐ出させてやるからよぉ」
 内臓が痺れるような感覚の後、強烈な便意と尿意が一気に襲ってきた。
「さっきの……水……っ!」
「そうさね。あれにちょいと薬を入れておいた」
 老人の顔が深い皺を刻んでニタニタと嗤う。
 やがて袋の中身が空になり、チューブが引き抜かれる。
「……っくぅ……」
 脂汗がぼたぼたと流れ落ちる。
「ほう、これだけ注入して我慢するとは、なかなかだのう」
 老人が感心したように言った。
「だが、その鎖は外せんだろう。遅かれ早かれ――」
 女は歯を食いしばって堪えていたが、とうとう限界を迎えた。
「――っあ!」
 寝台の上に、勢いよく排泄物が吐き出された。
「ああ、あ……っ……」
 老人は汚物がかかるのも気に留めず、嬉々としてその様子を眺めていた。
 やがてすべてを出し切ると、老人は汚れた敷布を丸め、寝台ごと女の躰を洗い、床を流した。そして新しい敷布を敷き直して、部屋を出ていった。
 老人は毎日やってきては、女に排泄させ、掃除をした。
「お前さんだけだよ、ここまで世話せにゃならんのは。他の女どもは部屋に便器があるからの。まったく手のかかる女だよ、お前さんは」
 そう言いながら、老人は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
 ある日、老人はいつものように女に浣腸して、排泄を待たずに肛門に挿入した。出口を失った便が腸をよじり、女は思わず声を上げた。
「うう、うーーーっ……!」
 それを聞いた老人は、男根を肛門から引き抜いて、そのまま膣に挿入した。そして内壁越しに膀胱を二度、三度と押し上げた。勢いよく尿が迸り、便が老人にかかった。老人は子供のような笑顔を浮かべながら、その便を女の背中に塗りたくった。
 女の背中に刻み込まれた、ふるい、無数の疵痕に。

「おい、変態じじい
 若い、どこか冷めたような声がして、老人は扉の方を見た。いつものように、女を犯しながら排泄させていた時だ。
 そこには長身の若者が立っていた。他の兵士同様、遊牧民の出で立ちで、頭にはターバンを巻いている。
「なんじゃ。今、下の世話をしとるんじゃ。外で待っとれ」
じじいの分際でたのしんでるんじゃねぇよ。ちゃんと洗えよ?」
「う、うるさいぞ!貴様、この、若造め!お前らが汚すだけ汚した女を、誰が毎日綺麗に洗ってやってるのと思っとるんじゃ!」
「それしか脳がねぇからだろう、変態爺。誰がてめえの食い物を調達してきてる?あ?剣ひとつろくに振るえねぇくせに、偉そうな口きいてんじゃねぇぞ」
 上背のある若者に凄まれて、老人はぶつくさと文句を垂れ流しながら作業を終え、逃げるように地下室を出ていった。
「……」
 若者は、しばらく入り口に寄りかかって、裸で縛られている女を眺めていた。女は虚ろな顔をしていて、その眼は何も映していないようだった。
 若者はゆっくりと寝台に歩み寄り、女の上にまたがった。
 チャリ、と小さな金属音がして、女の両手が鎖から落ちた。
「逃げるぞ」
 若者はそれだけ言うと、女を大きな布でくるんで、肩に担ぎ上げた。音もなく廊下を走り、階段を駆け上がる。
 兵士たちの根城は、コンクリートでできた高層ビルの廃墟だった。高い塔の上部は崩れ落ち、整然と並ぶ四角い窓には戸もガラスもはまっていない。
 地上は、死体の山だった。少し離れた場所で、先程の老人が腰を抜かしている。
 若者は老人には目もくれず、馬に女を乗せて、遠い砂漠へと走り去っていった。
 空には満点の星が瞬いている。
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