イシュラヴァール戦記

道化の桃

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第二章 落日のエクバターナ

開戦前夜――21ポイント

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 ――今更誰に犯されようが、どうでもいい。それで、かつての自分のような子供たちが救われるなら、いくらでも貪るが良い。どうせ、もう誰にも必要とされない命なのだから――。

 ダレイ王子の好みだろうか、よく見ると兵士たちは皆、整った顔立ちをしていた。
「カーを食わせろ。よく濡れる」
 誰かが言って、カーの葉がファーリアの口に詰め込まれた。
「んん!」
 咄嗟に吐き出そうとしたが、大きな手で鼻ごと口を覆われて、勢いで飲み込んでしまった。苦しさと、喉を未消化の葉が通る痛みで、自然に涙が滲む。
「すぐに気持ちよくなるぜ」
 もう抵抗などしていないのに、力づくで衣服を剥ぎ取られる。アルナハブの名産品の真っ赤な絨毯の上に、ファーリアのしなやかな裸体が横たえられた。その疵痕だらけの背中を見た兵士の一人が言った。
「見ろよ。唆るぜ」
 カーの葉の作用か、足首の痛みは徐々に遠のいていった。手足から力が抜けて、意識が朦朧とする。
 衆目に晒されながら両脚を大きく広げられても、もはや拒む気力すら湧いてこなかった。
「そうそう、大人しくしてりゃかわいがってやるよ。楽しもうぜ――」
 覆いかぶさってきた若い兵士はそう言って、くちゅり、と指を秘所に沈めた。
「……やめ………っは……!」
 ファーリアはびくんと腰を浮かせた。別の兵士に唇を塞がれ、視界が覆われる。
 何人もの手が、ファーリアの手足を抑え込み、撫で回している。乳房を揉んでいる手が誰のものなのかもわからない。乳首を舌で転がされて、それが唇を塞いでいる男とは別の男なのだと認識する。
「んん!」
 乳首を甘咬みされ、ファーリアは反射的にまた腰を浮かせた。秘所に突っ込まれた指は、執拗に中を掻き回し続けている。やがて若い兵士は、ファーリアが感じる場所を探り当て、そこを攻め始めた。ファーリアはたまらずに腰をくねらせる。
「おい、さっさと挿れて交代しろよ」
 別の兵士が焦れたように言った。
「まあ待てって。こういう女は、一回イカせてからの方が楽しめる」
 そう言って若い兵士は、指を三本に増やしてその一点を責め立てた。じゅぶじゅぶと淫猥な音が響き、愛液が溢れ出てくる。
「ん、んっ……んんーっ……」
 ファーリアの喘ぎ声を封じるかのように口を塞いだ男の方も、ねっとりと舌を絡ませてくる。
 暴力的なまでに激しい快感と、カーの作用で、ファーリアはもう何も考えられなかった。
(早く……終わって……)
と、そればかりを頭の中で繰り返す。思考力が低下して、終わりを願うあまり早く挿入して欲しいとすら思った。
 ファーリアは初め、異変に気づかなかった。煙たいのはカーを焚いているせいだと思っていた。
「火事だ!」
 誰かの声で、ファーリアの身体から一斉に男たちの手が離れた。
「どこだ?」
「この部屋じゃない。下か?」
 火元を探して兵士たちは右往左往し、ファーリアだけが立ち込める白煙の中に取り残された。
 おもむろにバサリと大きな布をかけられて、ファーリアは何者かに上半身を抱き起こされた。
 朦朧としたままぼんやりと見上げると、自分を抱きあげた男の顔がすぐ目の前にあった。まっすぐに通った鼻筋、切れ長の目、冷たく光る瞳……。
「……ルス……さ……?」
 口唇だけが声もなくその名を象った。
「なぜお前はそう……簡単に自分を投げ出すんだ……!」
 彫刻の如く形の良い口唇からこぼれ出た声は、ファーリアの予想を裏切って、温かかった。
「……シン……?」
「何箇所かに火をつけたが、すぐに鎮火するはずだ。この隙に逃げるぞ」
 シンはファーリアの手を取って立たせようとした。ファーリアは首を振る。
「立てない。足を、折られた」
「……!?」
 シンはファーリアを布にくるんで抱き上げた。
「くそっ……あの時とは違って手練ばかりだ。そうそううまく逃げられるとは限らないぞ」
 白煙の中、シンは予定していた逃げ道へと向かった。白煙はシンたちの姿を敵から隠したが、同時にシンからも敵の姿を隠した。
「ほら、やっぱり狂言だった」
 突然声がして、シンの前に一人の兵士が立ちはだかった。
「……っ!!」
 咄嗟に飛び退いたシンの背後に、もう一人の兵士が立っている。両腕でファーリアを抱えているので、剣を抜けない。
「こんな茶番に引っかかるなんて、王子に知れたら幹部兵の立場がないな」
 後ろの男が言った。
(この……声……)
 シンの腕の中でファーリアが身を硬くした。
「……どけ、貴様ら。俺がこいつを抱いているうちに」
 シンの全身から殺気が迸る。
「仕方ないなあ」
 正面の男はそう言って、おもむろに身をかがめてファーリアに口づけした。
「んっ!」
「キスに免じて逃がしてやるよ。ほんと君、舌使いうまいよね」
「な……っ!?」
 兵士の思いもよらない行動に反応できないシンの耳元で、今度は後ろの男が囁く。
「下の口も最高だったぜ。ホントは最後までイカせてやりたかったけどな」
「貴様っ!!」
 シンが気色ばんだ。
「ほらほら、早く逃げないと。みんなに気付かれちまうぜ?」
 いくつかの火元が消し止められたのか、白煙は徐々に薄くなってきていた。
「くそ!」
 シンはそう吐き捨てて、二人の前から逃げ去った。
「……なんで逃がした?シャイル」
 ファーリアに口づけした方の兵士が言った。
「あの男には勝てないよ。カーで酔ってなきゃ話は別だが。それにどうせ、女とじゃれてる場合じゃなくなるしな」
「始まるのか」
「ああ、インドラが裏切った。明朝には仕掛けてくるぜ」
「予想より早いな」
「さっき――宴の直前に間諜が報せてきた」
「我らが王子様はどう出るかな……まあ、大人しく降伏するようなタチじゃねえか」
「ロル、お前は逃げても良いんだぜ?イシュラヴァールこの国の問題にケリをつけるのに、アルナハブの人間が傷つく必要なんてない」
「それを言ったら、お前だってアルナハブの王子に義理立てする必要なんてないだろうに」
 ロル、と呼ばれた男は苦笑交じりに言った。
「いずれにせよ限界だよ、この軍は。まったく因縁めいた砦に巣食っちまったもんだ」
 シャイルは窓の外を見遣った。鉄の板が一見無秩序に貼り合わされ、その隙間から夜空が見える。その地平線の向こうに迫る敵軍を思い浮かべ、シャイルはぽつりと呟いた。
「――さて、俺も身の振り方を考えねえとな」
 シャイルは新王バハルの間諜だった。
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