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後編
過去を想えど過ぎし事
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◆
子育ては大変だ。そんな事は遠い昔に心得た事実、しかし、五百年もそれから離れていると改めてそれの大変さを実感する。とは言え、悟陸は既にそこそこの年齢の少年の状態からの為、そこまでの重労働ではないが。
『ごーろくっ、君は本ばっか読んでないで外で遊ぼうよー』
「えー……」
『えーじゃない! もー、構ってよー! 僕つまんない!』
今まで育てたのがヤンチャ者だったからか、これじゃあどちらが子どもか分かったもんじゃない。
悟陸は本を閉じて、駄々をこねる超越者の頬をむにっと挟む。
「うるさい」
『むー……なんか遺憾』
頬を膨らませる超越者は無視して、悟陸は勝手に彼の本棚に手を伸ばす。
『あ、ちょっとー。勝手に見ないでよー、恥ずかしいな』
「恥ずかしいって、やましいモンでも読んでいるのかよ」
悟陸はちょっとだけ期待した。スケベなモノにはあまり興味がなさそうな超越者だが、案外そう言うのが隠されているのではないか、なんて。
しかし、見渡してみれば本棚に入れられているのは文字かすらの判別も付かない知らない言語で書かれた物が多種多様に置かれているだけで、これと言って面白そうなものは無い。
その中で、ちらほらと読める文字が確認できる。
「……あ。これ、知ってる」
『んー、あぁそれねぇ。前の君が生きていた所のシンワってやつ。なんて読むんだっけなぁ、確か、コジキとかだったかな』
「あー、古事記」
こんなものも読んでいるのか。よく見たら、ちらほら読める文字で書かれている本は、神話関連が多くあるように思える。
「なに、これでかっこいい神様象でも探してるの?」
『ま、そんな所かなぁ~。僕だって、カッコイイ超越者サマでいたいもん!』
キリッと決め顔で胸を張る。だが、神話に出てくる神様は参考にする相手を間違ったら一大事になる気がする。そう思いながら、悟陸は適当に返事をする。
「へー」
『へーって、もう少し興味もっているような返事してよ』
超越者はどこか不満気な苦笑いを浮かべて、子から視線を外す。
その時、悟陸は奥の奥にしまわれている一冊の小さな本を見つけた。あからさまに隠されていた本だ。
好奇心に負け、中を開く。殆ど白紙で、真っ白ではないのは最初のページだけだ。そしてそのページにあったのは、六人が映った一枚の写真と「いつまでも、皆で一緒にいられますように」という願いの一文のみ。写真に写った六人のうちの一人は、今直ぐそばにいる超越者だろう。髪が長い事から、昔の写真なのだろうが。
他の五人は誰だろうか。こっそり見たはいいものを、気になったから尋ねる。
「なぁ超越者。これ誰?」
声を掛けると、超越者は悟陸を振り向き、手に持っている物を確認する。
『……あぁ、それ見ちゃったかぁ。ははっ、どの子も本を読むような子じゃないからそこに隠してたのになぁ』
失敗失敗と頭を掻き、悟陸を自身の隣に招く。そこに座った子の手に持っている写真を目にして、超越者はどこか懐かしそうに目を細める。
『それはね、僕の友達』
「友達……」
『実はね、超越者って一人じゃなかったんだ。今となっちゃ、遠い昔の話だけど』
そう、寂しく微笑んだ。
生きた年数なんて覚えちゃいない。そしておそらく、六人で過ごした時間も短いモノだったのだろう。たった少しの間の友達、一緒に生きた時間。砕けて散ってしまった、五つの貴き魂。
「……なんか、ごめんなさい」
『良いんだよ、昔の話さ』
申し訳なさそうな子に笑いかけ、超越者はあーっと声を漏らす。
『真の超越者かぁ。ねぇ悟陸、僕は、そんな風に見えるかい』
超越者のその問いかけに、悟陸は答えられなかった。自分が決めていいような事じゃないと、そう思ってしまったから。
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子育ては大変だ。そんな事は遠い昔に心得た事実、しかし、五百年もそれから離れていると改めてそれの大変さを実感する。とは言え、悟陸は既にそこそこの年齢の少年の状態からの為、そこまでの重労働ではないが。
『ごーろくっ、君は本ばっか読んでないで外で遊ぼうよー』
「えー……」
『えーじゃない! もー、構ってよー! 僕つまんない!』
今まで育てたのがヤンチャ者だったからか、これじゃあどちらが子どもか分かったもんじゃない。
悟陸は本を閉じて、駄々をこねる超越者の頬をむにっと挟む。
「うるさい」
『むー……なんか遺憾』
頬を膨らませる超越者は無視して、悟陸は勝手に彼の本棚に手を伸ばす。
『あ、ちょっとー。勝手に見ないでよー、恥ずかしいな』
「恥ずかしいって、やましいモンでも読んでいるのかよ」
悟陸はちょっとだけ期待した。スケベなモノにはあまり興味がなさそうな超越者だが、案外そう言うのが隠されているのではないか、なんて。
しかし、見渡してみれば本棚に入れられているのは文字かすらの判別も付かない知らない言語で書かれた物が多種多様に置かれているだけで、これと言って面白そうなものは無い。
その中で、ちらほらと読める文字が確認できる。
「……あ。これ、知ってる」
『んー、あぁそれねぇ。前の君が生きていた所のシンワってやつ。なんて読むんだっけなぁ、確か、コジキとかだったかな』
「あー、古事記」
こんなものも読んでいるのか。よく見たら、ちらほら読める文字で書かれている本は、神話関連が多くあるように思える。
「なに、これでかっこいい神様象でも探してるの?」
『ま、そんな所かなぁ~。僕だって、カッコイイ超越者サマでいたいもん!』
キリッと決め顔で胸を張る。だが、神話に出てくる神様は参考にする相手を間違ったら一大事になる気がする。そう思いながら、悟陸は適当に返事をする。
「へー」
『へーって、もう少し興味もっているような返事してよ』
超越者はどこか不満気な苦笑いを浮かべて、子から視線を外す。
その時、悟陸は奥の奥にしまわれている一冊の小さな本を見つけた。あからさまに隠されていた本だ。
好奇心に負け、中を開く。殆ど白紙で、真っ白ではないのは最初のページだけだ。そしてそのページにあったのは、六人が映った一枚の写真と「いつまでも、皆で一緒にいられますように」という願いの一文のみ。写真に写った六人のうちの一人は、今直ぐそばにいる超越者だろう。髪が長い事から、昔の写真なのだろうが。
他の五人は誰だろうか。こっそり見たはいいものを、気になったから尋ねる。
「なぁ超越者。これ誰?」
声を掛けると、超越者は悟陸を振り向き、手に持っている物を確認する。
『……あぁ、それ見ちゃったかぁ。ははっ、どの子も本を読むような子じゃないからそこに隠してたのになぁ』
失敗失敗と頭を掻き、悟陸を自身の隣に招く。そこに座った子の手に持っている写真を目にして、超越者はどこか懐かしそうに目を細める。
『それはね、僕の友達』
「友達……」
『実はね、超越者って一人じゃなかったんだ。今となっちゃ、遠い昔の話だけど』
そう、寂しく微笑んだ。
生きた年数なんて覚えちゃいない。そしておそらく、六人で過ごした時間も短いモノだったのだろう。たった少しの間の友達、一緒に生きた時間。砕けて散ってしまった、五つの貴き魂。
「……なんか、ごめんなさい」
『良いんだよ、昔の話さ』
申し訳なさそうな子に笑いかけ、超越者はあーっと声を漏らす。
『真の超越者かぁ。ねぇ悟陸、僕は、そんな風に見えるかい』
超越者のその問いかけに、悟陸は答えられなかった。自分が決めていいような事じゃないと、そう思ってしまったから。
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