前世は武神、今世は無職と呼ばれた俺は冒険者人生を謳歌してみた

ネイン

文字の大きさ
10 / 41

前世で武神と呼ばれた男、決闘相手と仲良くなる

しおりを挟む
  闘技場内のアリーナに続く廊下にてヒルダが壁を背にして震えて座っていた。

 何故なら、俺が放った【雪穿雲掌せつせんうんしょう】の氷に彼女は一時包まれていたからだ。俺は思わず慌てて拳を繰り出して氷を砕いて彼女を救出した。危うく、凍死させてしまうところだった。

「寒いですの」

 先程まで威勢の良かったヒルダは両膝を抱えていた。きっと寒いのだろう。その横には弟のへロルフがおり、俺をねめつけていた。

「何故、お前はスキルを使える。しかも氷魔法と光魔法の」

「色々、修行したんだよ。正確に言うとまず最初に『体内エネルギー』という体中に流れてるエネルギーを感じとる修行をするんだよ。それで色々やってたら今の俺のように色んな技を使えるようになるんだ」

「出まかせを言うな」

「教えてあげてるのになー」

 へロルフは聞く耳を持たなかった。せっかく、俺の力について教えようと思ったのに。

「ヒルダさんという方、大丈夫かしら、寒そうだわ」

 俺の両脇にはソリスとハッカがおり、ソリスが心配そうにヒルダを見ていた。

「確かに寒そうだ」

 俺はソリスに応じながら、ヒルダに近づいた。

「おい、ヒューゴ、何をするつもりだ」

「俺の力で体を温めるんだよ」

「はい?」

 ハッカに応じると、彼は俺の言葉が理解できないのか怪訝そうにしていた。

「俺の手で彼女の体を温めるんだよ」

「台詞だけ聞くと変質者っぽいぞ」

「ハッカの思考回路が飛躍してるだけだって」

「くっ……今回は何にも言い返せない……!」

 悔し気なハッカを横目に俺はしゃがんでヒルダと目線を合わせた。

「ふんっ、敗者を笑いにきたんですの……」

 彼女はいじけていた。

「そんなんじゃないって、ちょっと首に手を当てるぞ」

「えっ」

 俺はヒルダの首元に右手のひらに当てた。彼女は戸惑っていたがすぐに安堵したような表情を見せてくれた。

「おい……姉上に何をする……!」

「待ってへロルフ!」

「姉上……?」

 へロルフが俺の首元に掴みかかったが、ヒルダの鶴の一声ですぐに手を離した。

 そして、ヒルダは恐る恐る、俺に話しかけていた。

「凄いわ……体が温かくなってきてますの……これも貴方の力?」

「その通り」

 彼女は俺を感心したように見つめていた。

 俺は放出した『体内エネルギー』を人の体温程度になるように調整し、ヒルダの体の中にエネルギーを送り込んでいた。きっと彼女の体は瞬く間に温かくなっていることだろう。

「よし、もう大丈夫だな」

「…………」

 俺が立ち上がるとヒルダはぼうっとした顔で見てきていた。

「どうした? 立てないのか?」

「いいえ! 敵に塩を送られる自分を恥じているところですの!」

 彼女はそっぽを向きながら立ち上がった。これだけ元気なら大丈夫だろう。

「お前、どんな手品を使って姉上を負かしたかしらないが、いい気に――」

「止めなさいへロルフ、私の負けですの……あと、氷の中から助けて下さり。体に気を遣ってくれてありとうございます」

 ヒルダは俺に頭を下げていた。そんな姿の姉を見たへロルフは何も言えなくなっていた。

「いいよいいよ、俺が放った氷だしな。お詫びに俺の氷が闘技場にまだ散らばってるだろうし持って帰っていいよ」

「いや……それはいいですの」

「そうか? 口の中に含んで氷をボリボリ食うの楽しいのに」

「子供なんですの!? ……ふふっ」

 ヒルダは俺に突っ込んだあと、頬を緩ませていた。

「貴方、名前はなんて言うんですの?」

「俺はヒューゴ・ブラックウッドだ」

「ブラックウッド?」

「ああ、いわゆる没落貴族ってやつだよ。俺の村ってそんな感じの人多いみたいな感じ」

「へぇ……」

 彼女は不思議そうに唸ったあと言葉を続ける。

「負けたままでは終わりません、次はもっと強くなってみせます」

「お、その意気だ! がんばがんば!」

「……なんか腹立ちますが……今日のところはこれで帰りますの、また機会があれば会いましょう」

「待つんだ姉上。この男の処罰はどうする、俺達をドロップキックしたんだ」

「行きますわよへロルフ」

 ヒルダは弟の言葉を意に介さず、身を翻した。へロルフは俺をまた睨みつけるが彼は姉の後を追った。

 すると、ハッカが溜息をつく。

「ふぅ……! これでなんとか貴族に難癖付けられて牢獄行かずに済んだな!」

「たまには牢獄生活もいいと思うけどな」

「いい訳ないだろ、経験あるの?」

「あるわけないない、でも経験したことないからこそしてみたいと思わないか? 普通は水の上を歩けない、でも歩けるなら歩いてみたいと思うだろ? 俺は思ったさ」

「思ったことねぇよ」

 そんなこんなで俺達は泊まる宿屋に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

処理中です...