前世は武神、今世は無職と呼ばれた俺は冒険者人生を謳歌してみた

ネイン

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前世で武神と呼ばれた男、捜索する

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 俺が町を一〇周したうえで酒樽を酒屋に運び終えたあと、背後にいるへロルフは膝に手をついていた。

 すっかり日も暮れているのだが彼は俺になんとか付いてきていた。意外と根性がある奴だ。

「あの、ちょっといいかな?」

 俺は横を通り過ぎる同年代ぐらいの男性に話しかけた。

「はい、なんでしょうか」

「この辺にチンピラに絡まれそうな酒場とかないかな? 強者がいそうな場所でもいい、なるべくガラが悪くて強そうな連中がいるところがいい」

「し、知らないですよ……裏路地にある酒場かな……」

 男性はおどおどして口ごもっていった。

 とりあえず、裏路地にある酒場に向かった。

 一目見ればある程度、相手の実力は分かると思うので、街にいる荒くれどもがどれくらい強いのかを見ておきたかった。さすがにいい勝負ができる相手となると中々いないのかもしれないが。確認してみよう!

 スイングドアを抜けて酒場に入るとテーブルとチェアが点在しており、奥にカウンターがあった。

 村の方にも酒場はあるが外部の人が滅多にやってこないので村人達の憩いの場となっており、夜になるとお酒を飲むために大人達が集まっている。

 この酒場にいるのは仕事終わりの人達だろうか? 中には武装した連中もいた。冒険者や傭兵の類に違いない。

 しかし、少し様子がおかしい。酒場のマスターと思わしきスキンヘッドが屈強そうな人物達に詰め寄っていた。近づいて会話を聞いてみよう。

「本当だ。いつもお使いは三〇分で済ませてくるんだが一時間も経ってんだ」

「娘さんがどっかで油売ってんじゃないの? 今日は『寵愛の儀』があった日でいつもより若者が町に多いからな、ナンパされたりしてな」

「だからそれが心配だっつんてんだろ!」

「ぐえっ!? マ、マスター冗談だって胸倉掴まないでくれ!」

「もう日も暮れてるんだぞ」

 何やら誰かが行方不明らしい。

「あの、何かあったんですか?」

 俺が口を挟むと屈強な男は口を開く。

「ん? 兄ちゃん一人か? 子供くるところじゃないぞ」

「おいおいお客さんを追い返すな」

 屈強な男はマスターに咎められてると口を噤み、マスターが話しを切り出す。

「あんちゃんと同じ歳ぐらいの娘が食材の買い出しに行ったんだ。いつも必ずといっていいほど、三〇分以内に帰ってくるんだが一時間も経ってるからちょっと心配になってな」

「娘さんの特徴は?」

「俺と同じ髪色で髪の毛を二つ結びしている」

 俺はマスターの頭を見る。スキンヘッドで髪の色が分からない。

「髪色は茶色ですか?」

「赤だ」

 その後、屈強な男はマスターがスキンヘッドであることを指摘すると、マスターは「今は剃ってんだよ!」と言って暴れ始めていた。本当のことは定かではないが俺はマスターを信じよう。

 とりあえず、やることないし、折角なんで酒場の一人娘を探そう。

「今度はどこに行く気だ?」

 相変わらず、へロルフが付いてきていた。一応、彼の声を『体内エネルギー』を用いて強化した聴力でずっと聞いてはいる。

 さて、人間の索敵範囲を増やすか。

 俺は街路を歩きながら目を閉じ、大気中の『自然エネルギー』から伝ってくる町中の人々の姿形を把握し、さらに位置を捕捉する。二つ結びしている女性を探していた。脳内には人々だけではなく建物や植物が立体な線となって浮かぶ。

「おっと?」

 目を見開き、駆けだす。

 離れた場所にある細道で二つ結びの女性が二人組の男に絡まれていそうだったからだ。まさに酒場のマスターが危惧していたことが起きていた。

 俺は走りながら、へロルフの様子を確認する。

「はぁはぁ……まだ走るのかよ……でも絶対、ドロップキックした分は仕返ししてやるからな……はぁはぁ」

 疲労困憊ながらも俺に付いてきていた。執念深い人とも言えるし、やはり根性があると受け取れる。中々、鍛えがいがありそうだ。姉の方もあのまま鍛えれば相当な実力者になるだろうし、へロルフも中々、将来性がありそうだな。

 おっと、それより早く女性がいる細道に行かなければ。
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