前世は武神、今世は無職と呼ばれた俺は冒険者人生を謳歌してみた

前世で武神と呼ばれた男、辺境伯に知られる①

　回し蹴りを食らわせた魔物――サイクロプス・ジェネラルは吹っ飛んでいったものの案外、平気そうな顔をしていた。魔物の顔から喜怒哀楽なんて分からないけど、経験上、そんな気がする。

　技を使わなければ倒せないレベルの魔物だ。とはいえ、俺の敵じゃない。

「すぅ……」

　俺は息を吸って、右手を猫の手の形にしながら右腕を引く。

　そして、腕を突き出しながら技の名を叫ぶ。
　
　「風塊神功ふうかいしんこう！」

　この技は『体内エネルギー』の放出する。そして、『自然エネルギー』によって風を操作し、放出したエネルギーに風の刃を纏わせる。サイクロプス・ジェネラルと戦ったことはないが、まともにこの技を食らえばエネルギーによって体を貫かれた上に全身を風の刃でズタズタに切り刻まれて跡形も無くなると思う。

「お！」

　技を放った俺は声を漏らす。何故なら、サイクロプス・ジェネラルは口をカッと開き、赤色の光線を放ったからだ。膨大な魔力の塊だ。

　風塊神功と赤色の光線が衝突した瞬間、爆風が吹き荒れる。

　しかし、次第に俺の技が魔物の光線を押し返し、

「グア、ア……アアァ！」

　サイクロプス・ジェネラルは不安に怯えて今にも泣きだしそうな声を出していた。

「はぁぁぁあ！」

　一方、俺は気合を吐き、突き出した右腕を左手で支えながら、さらにエネルギーを放出する。

　俺の放った技は一回り大きく膨らんで――

「グガアアアアアァァァ！」

　――サイクロプス・ジェネラルは風塊神功に吞み込まれていき、完全消滅した。

　そして、俺の放ったエネルギーは、

　ドカン！　ドカン！　ドォォォォォン！

　民家を幾つも破壊して、最後に轟音を鳴らした。

「もうちょっと手加減した方が良かったかな」

　近辺の住人達が避難しているのを把握していたので人には当たってない。

　しかし、どうする？

　後で建物の修理費を請求されるかもしれない。

「あの」

　少女——シェナ・ラゴールに声をかけられる。

　やっぱり名字からしてこの地域を治める領主の娘の可能性が高い。お金を請求してくるに違いない！

「さてと……じゃ！」

「え!?　ちょ、ちょっと待ってください！」

　俺は二本指を立てて、それをおでこからピッと離してその場から跳躍して去る。

　シェナは俺を呼び止めたかったようだ。やはり、目的は請求か！

　今すぐにお金は工面できない。どのみちラゴール辺境伯に会うつもりだし、そこで彼女と会うかもしれないが。

　今はお暇しよっと。

　俺はここに来たときのように屋根から屋根へと飛び乗って移動していた。

　ハッカとソリスは衛兵に町に立ち入らないように足止めされてるから、外にいるはずだ。

　西方向へと移動し、町の城郭をひょいっと飛び越えて地面に着地した。そして、二人がいるであろう南側へと向かった。

　南側にある門には外部から来た人が立ち並んでいた。俺が来たときより、人が増えている。

「ハッカ！　迷子のハッカ君はいませんか！」

　俺はハッカを呼び出すために大声で叫んだ。

「恥ずかしいから止めろ馬鹿！　子供じゃないからな！　後、どちらかと言えばオマエが迷子だろ！」

　ハッカが人の列から飛び出し、俺に応じていた。

　そして、ハッカに続いてソリスも列から出てきた。

「二人共無事？」

「それ私の台詞っ」

　ソリスは眉をへの字に曲げて心配そうにしていた。

「まぁまぁ。こうして無事だったんだし、結果オーライオーライ」

「もう……それでヒュー君は今回、どんな魔物と戦ったの？」

「なんかサイクロプス・ジェネラルって名前のやつ」

「サイクロプス・ジェネラル!?」

　ソリスは驚嘆しながら、オウム返しする。

「そんなに有名なのか？　ハッカは知ってる？」

「オレは知らないが、多分、サイクロプスの上位種だろ……とんでもなく強いと思うぞ」

「タフさはあったが、物足りない相手だったな」

「やれやれ」

　ハッカはかぶりを振っていた。

　その後、俺達が町の外で待機してから数時間後、衛兵による町の安全確認が取れて宿屋に泊まることができた。