雨上がりには

Two-dragon

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第一章 過去

14話 相違

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隆は実家に住んでいる。
仕事終わりに会うときはほとんど律子の部屋だった。

「律ちゃん、この部屋長いよね?」

ソファに横になって天井を見上げながら隆が言った。

「そうだね、こっちに来てからだからもうすぐ8年かな」

「そっかぁ、綺麗にしてるね」

「そう?ありがとう。隆くんがタバコやめたんで壁紙もこれ以上汚れないし」

律子と付き合いだしてから隆はタバコをやめた。

「そっかー。前田くんは吸ってたんだよね?」

「うん。吸ってた…」

「彼が吸ってて嫌じゃなかったの?やめてって言えばよかったじゃん」

「うん、そうだね。言えばよかったね…」

「あっ、ごめん律ちゃん、余計な事言っちゃって」

「ううん、私もごめん。余計なこと言って」

「よし!律ちゃん、今度の休みに部屋借りに行こう!」

「部屋?」

「そう、一緒に住む部屋」

「え?同棲するって事?」

律子は驚いて言った。

「嫌?」

「嫌じゃないけど…」

「何?」

「隆くんはいいのかなって…。私で」

「もー、何言ってんの?俺から誘ってんのに」

「そ、そっか、そうだよね。バカだね。私、何言ってんだろう…。うん、いいよ、大丈夫」

「うーん。何か噛み合わないなぁ。律ちゃん、無理にとは言わないから、はっきり言ってよ」

「ううん、大丈夫。一緒に住もう」

「本当に?」

「うん」

「やったー!じゃあ、近いうちに見に行こう」


(何を戸惑っているんだろう…)
(壁紙も余計な事だった)
(隆くんを傷つけたかも…)
(はぁ…もう、なんなのよー私!)

休みが合えば隆とデートした。セックスも普通にした。隆は律子のためにタバコもやめた。

(でも何だろうこの気持ちは…)



次の休日。ふたりは朝から不動産屋をまわった。

「澤井さん、斉藤さん、ご希望はどういったお部屋ですか?」

洒落たスーツを着た担当者が聞いてきた。

「えっと、部屋は洋室で2部屋欲しいかなぁ。律ちゃんは?」

「そうだね。私は収納が多めにあれば」

「その部屋数ですと古いタイプは3DK、今のタイプで2LDKですね。お二人でお住まいですから丁度いい間取りだと思います。お家賃ですが、お探しの地区の物件ですとだいたい相場がこれくらいです。駐車場も必要ですよね?

「ええ、ふたりとも車で通勤するんで、2台分借りたいんですけど」

「1台は敷地内に借りれるんですが、2台目は近くの駐車場になりますが?」

「どれくらい歩きます?」

「えーっと、4分くらいですね」

「そうですか」

「はい。駐車場2台分を含めて家賃はこれくらいです」

担当者は軽快に電卓を弾いて見せた。

「隆くん、私達が考えてたより高いね」

「そうだね、どうするかな。どの店もだいだい同じくらいだったけど」

考え込む隆を見て律子が声をかけた。

「とりあえず今日は帰ろう、ね」

「うーん。わかった」

ふたりは数軒分の資料をもらって店を出た。

「腹減ったなぁ。律ちゃん、飯行こう」

「うん。色々回ってなんか疲れちゃったね」

ふたりは近くのファミレスに入った。料理がくるまでドリンクバーで喉を潤しながら、もらった資料を確認した。

「気に入った部屋は予算オーバーだし、家賃と間取り、どっちを取るかだなぁ」

「隆くん、焦んなくてもいいよ。今までみたいにうちに来ればいいんだし、同棲してるようなものじゃない?ちがう?」

「うーん…。」

「ん?」

少し間を開けて隆が言った。

「律ちゃんは何ともないかもしれないけど、俺は嫌なんだ」

「え?何が?」

「だってあの部屋は前田くんも来てたんだよね?」

「うん、まあ…。でも、今は隆くんだけだよ」

「そうだろうけど…。あー!ごめん、なんか俺、子供だなー。また律ちゃんを困らせてる」

「そんな事ないよ。隆くんの気持ちは嬉しいし。でも昔の事だから、どうしようもなくて…。ごめんさない…」

「ちがうって、俺が勝手に妬いてるだけだから
律ちゃんは悪くないってー」

隆は慌てて言った。

「でも…」

「わかった、焦らず探すってことで、ね、そうするから、ね」

「隆くんはそれでいいの?またうちに来てくれる?」

「もちろんだよ。ただ…」

「ん?」

「今日は行かない!」

「え?なぜ?」

「今日は律ちゃんを俺ん家に連れてくから」

「え?隆くんの実家に?」

律子は驚いて言った。

「そう」

「でも、大丈夫なの?私が行っても?」

「当たり前じゃん、律ちゃんのことは大学の頃から、親に話してたよ」

「え?何て?」

「今はちがうけど、いつか必ず俺の彼女になるからーって!親からは馬鹿な子だねぇって言われてた。途中何度も諦めかけたけど夢が叶ったし、今日連れて行く!子供でも何でもいいから絶対連れてく!」

「本当に行ってもいいの?」

「またぁ、そこはバカなの?でしょ?」

「あははは」

(やっぱり、この人と居ると落ち着くなぁ…)

律子に笑顔が戻った。


隆はいらないと言ったが手土産にケーキを買った。隆の実家は母子家庭で、母親の京子と20歳になる妹の真里と公営住宅で暮らしている。


「うぅ…。緊張するぅ」

「律ちゃん、大丈夫だって」

「嫌われたらどうしよう?」

「あははは」

隆は普段とちがう律子をみて笑った。

「もう!なに笑ってんのよー!」

「可愛いなぁって思って」

「もーう!」

律子は頬を膨らませて拗ねた。

実家は2階だった。

「ただいまー」

「おかえりー」

奥から年輩女性の声がした。京子の声だ。

「こんばんわ、お邪魔します」

「さあ!律ちゃん、上がって、上がって」

隆がスリッパを出してくれた。

「う、うん」

パンプスを脱ぎ、スリッパに履き替えるが、いつもより動作が遅い。

「なに緊張してるのー。いつも通りの律ちゃんでいいんだから」

恐る恐る居間に入ると優しそうな顔の京子が迎えてくれた。

「こ、こんばんわ。斉藤です、すみません突然お邪魔しまして」

「いらっしゃい。あなたが斉藤さんね、えーと、律子さんでしたっけ?」

「はい、そうです、あの、これ、ケーキなんですけど、よかったら」

「まぁ!ありがとう。気を使わせてごめんさい」

「いえ、そんな」

「あなたの事はいつも隆から聞いていたわ。バイトしてた頃なんて帰って来たらあなたの事ばっかりで」

「そうだったんですか?」

「ええ。今日も可愛いかっただとか、今日は元気がなかったとか、本当、子供だわね」

「母ちゃんもういいから!そういうのは」

隆は顔を赤くして照れていた。

「綺麗な人だって聞いてたけど、本当に素敵な方ね。隆が自慢したくもなるわね」

「そんなこと…」

律子は恐縮してしまった。

「だだいまー!」

妹の真里が大学から帰ってきた。

「おう、おかえり」

「この時間にお兄ちゃん居るの珍しいね。あっ!律子さんだ!」

「え?」

真里が嬉しそうに言った。

「律子さんですよね?」

「え、ええ…」

「お兄ちゃんがバイトしてた頃に律子さんの写真を見たことがあって。凄く綺麗な人だねーって話したんです!そしたらお兄ちゃんは絶対俺の彼女になるからその時に会わせてやる!って。まさか本当に会えるなんて!嬉しいです!」

「そんなに前から私の事を?」

「うちでは律子さん有名人なんですよー」

「えー!ちょっと隆くん、恥ずかしいよぉ」

「ははは、大丈夫、俺ウソはついてないから」

「もーぅ!」

「あははは」

優しい時間だった。
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