雨上がりには

Two-dragon

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第一章 過去

20話 伝言

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「前田さんお大事に」

「ありがとうございました」

退院した涼一は、里奈が迎えに来るまでの間、病院前のコンビニで待つことにした。

店内に並ぶエリア雑誌に目が留まった。

(もうすぐ花火大会だなぁ)

ブラックコーヒーとカフェオレを手に取りレジに向かった。

レジは高校生くらいの店員だった。

「ん?」

「あっ!涼一君?」

「豊君か?」

「そうです、お久しぶりです。」

店員のネームプレートには斉藤と書いてある。

「ここでバイトしてるんだ」

「はい。涼一君に会うのって何年ぶりですか?」

「そうだなぁ、5年は会ってないかな…お姉さん、元気にしてる?」

「はい、元気ですよ」

「そっか、よかった」

「連絡取ってないんですか?」

「うん…別れてからは…ね」

「そうですか…姉に何か伝えましょうか?」

「いや、元気ならいいんだ」

店の前に車が止まった。里奈が辺りを探している。

店内にいる涼一を見つけ降りてきた。

「涼ちゃん買い物?」

「うん、コーヒー買ってた」

会計を済ませ豊に言った。

「じゃあ豊君、頑張って!」

「はい、ありがとうございます。」

涼一がカフェオレを渡すと、里奈は笑顔で受け取って、ふたりは車に乗り込んだ。

「涼ちゃん、今の店員さん、知り合い?」

「うん、知り合いの弟」

「そっか。あっ、涼ちゃん、退院おめでとう!」

「ありがとう」

「今日何が食べたい?」

「そうだなぁ、里奈と一緒なら、何でも」

里奈は微笑んだ。

「わかった…。スーパー寄るね」

「うん」

涼一はたばこに火をつけた。

「涼ちゃんタバコ吸って大丈夫?」

「うん」

深く吸い込んで、ゆっくりと吐きだす。少しクラクラしたが、すぐに慣れた。

「やっぱりカッコイイね、タバコ」

「そう?ありがとう」

涼一は照れて行った。

タバコを吸いながら流れる景色を見ていた。

(別れてから4年。豊君も高校生なんだな)


斉藤豊。年の離れた律子の弟だ。律子と付き合い始めた時まだ小学生だった。

(過ぎていく時間を感じる。律子は元気にしているらしい…それ以上は聞けなかった)

「あっ、そうそう里奈、花束、姉貴が来た時に持って帰ってもらったよ。あれから何もなかったから」

「え?あっ、そうなんだ…誰だったんだろうね…」

里奈は慌てたが、気付かれない様に平静を装った。

「涼ちゃん、花火大会もうすぐだね!楽しみー」

「うん、楽しみ、浴衣もね」

夏の始まり。蝉の鳴き声が聞こえる。


◇◇◇



「おーい、律ちゃん、電話なってるよー」

その夜、律子が風呂に入っている時に電話が鳴った。

「誰からー?」

「えっとね、豊って出てるよー、ん?豊って誰だ?」

隆は動揺した。

「ハハハ、弟だよ、この前話したじゃん、掛け直すからそのまま置いといてー」

「そ、そっか。ちょっと焦った…」

風呂上がりの髪をタオルで拭きながら言った。

「隆くん、考え過ぎだってー」

「弟の名前忘れてたからさぁ」

律子は笑いながら携帯を確認した。

「本当、豊だ、珍しいね」

「普段話さないの?」

「うん、別に仲が悪いわけじゃないけど、年も離れてるし、私もこっちに居るから」

「そうなんだ。じゃあ律ちゃん俺風呂入るから」

「うん」

律子は烏龍茶を飲みながら豊に掛けてみた。4回目のコールのあと繋がった。

「もしもし、豊?」

「姉ちゃん、久しぶり」

「うん、久しぶりだね。どうしたの?何かあった?」

「今、話せる?彼氏と住んでるんでしょ?」

「隆くん?お風呂入ってるけど、別に大丈夫だよ」

「そっか。今日ね、バイト先のコンビニで偶然涼一君に会ったんだ」

「え?涼一に?」

「うん、しばらく会ってないけど、すぐわかったよ。姉ちゃん元気にしてる?って聞かれたよ」

「そ、そう…」

「姉に何か伝えましょうか?って言ったんだけど、元気にしてるならいいって。そのあと女の人が迎えに来て、その人が運転する外車に乗って帰った。あの人は新しい彼女なのかな?

「どんな人だった?その人…」

「え?ああ、可愛いい人だったよ、笑うと八重歯が印象的だったなぁ」

「そ、そう…」

「姉ちゃん、涼一君と連絡してないの?」

「してない…別れたんだから、昔の事だよ」

「そっか。涼一君、俺が小学生の頃から知ってるからさぁ、遊んでもらったし。姉ちゃん、連絡してみたら?元気にしてるよって」

「で、でも…」

「別に気にする事ないじゃん」

「でも…隆くんに悪いから…」

「そっか。じゃあ俺寝るから、また」

「うん、豊ありがとう教えてくれて。おやすみ」

(涼一退院したんだね…よかった…)

(…まただ、鼓動が速くなる)
(終わったはずなのに…幸せなのに…)


風呂から上がった隆はビールを飲みながら言って。

「弟、何だって?」

「え?ああ、今度いつ帰ってくるかって、ほら、学生はもうすぐ夏休みでしょ、車でどこか遊びに連れて行けって。生意気になっちゃって、あいつ」

「ハハ、そうなんだ。律ちゃんの地元は何かイベントはないの?」

「夏のイベントは花火大会があるかな」

「おお、いいじゃん!」

「いつ?」

「確か来週の週末だったと思う」

「行こうか、花火大会!」

「え?」

「嫌なの?」

「そんな事ないよ。私も久しぶりだから」

「じゃあ決まりだね!」

「あっ!そうだ、律ちゃん浴衣着なよ。似合うと思うよ」

「う~ん。浴衣かぁ。学生の時以来だし、その浴衣しか持ってないから…」

「じゃあ一緒に買いに行こうよ!絶対似合うって!ね!」

「うん、ありがとう」

「あっ、そうだ、当日、豊くん誘いなよ!」

「え?豊を?悪いよ」

「そんな事ないよ、俺も豊くんに会ってみたいから」

「本当?わかった、連絡してみるね」


隆は今日も優しかった。


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