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49話 元カノ

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 夜になり私を部屋へと運んでくれたクロノくん。

「クロノくん、辛くない?」
「うん」
「感情とか、今は二つあるの?」
「カナちゃんと一緒かな、記憶はあるよ、ゴドとしての」

 私だからこそ分かる、ただ記憶があるってこと。
 別人ではなくて

「そっか」
「あのね、すごく言いにくいんだけど――」
「何でも言って?」
「カナちゃんは異世界転生、してない」
「え?」

 何言ってるんだ、信じないってこと――いやもうそんな次元とっくに超えてる。
 だから異世界転生を本当にしてないとなれば、え、どの世界が正解?
 一番いやなのはクロノくんが実はいなかった、とか。

「【進勇気】はカナちゃんが、赤ちゃんの頃にゴドが見せた、ただの夢、で」

 不思議なことに悲しくない。
 うーちゃんも、俺が殺したと思ってた恋敵の親友『竜太郎』もいない。
 ただの夢で、誰も傷ついてない――なら。

「良かった……」
「カナちゃん、優しいもんね」
「独り占めはよくないけど、今はいいのかな」
「ここにいるのはカナちゃんのためのクロノ・スタシス」
「そっか」
「子供たちと遊んでる俺ちゃんとか――あ、ネルビットがカナちゃんに会いたいって」
「え」

 彼氏の元カノ、とは違うかなぁ。
 私がもっとしっかりしていればこんなこと、クロノくんがゴドと融合しちゃうなんて。
 叱られてもいい、むしろ叱ってほしいくらいで、受け入れる事に。


「アンタがカナちゃんなのね?」
「は、はい」
「やだガリガリじゃない!!地球人にしたって細すぎるわ!!」

 私は長い間、ろくに食べられなくてどこも細っていた。
 でも、細いって言われるのは嬉しいな。
 クロノくんにも言ってほしいな。

「ねぇ、クロノくん、私って細い?」
「……地球人って細いほうがいいって文化があるんだよ」
「嫌すぎるわそんな文化」
「でも、なんでこんなに細いのか全部記憶にあるのがねぇ、辛くないけど、きついな」
「アンタってもうほぼ何でもできるんでしょ?」
「うん」
「記憶とか消せないのかしら」
「俺ちゃんからゴドの記憶を消す――とかは無理かな」
「ふーん、で、子供たちはどこよ?」
「……」

 あれ? 子供たちって、クロノくんの中で生まれた彼女の子たちだよね。

「スタシス、何でもできるんでしょ?」
「死産だったから、どうしていいか分かんない」
「えっ」

 確かに可愛い二人を見せてもらった、なのに?


「何があったの?」
「外に出した瞬間に俺は気を失って、まさか取り上げられた――ってのが死産だったことを誤魔化す嘘で送られてきた写真さえ偽物とは考えなかったな」

 真実は、本当に酷いものだったのか。

「……カナちゃん」
「はい」
「地球人の100年、スタシスにあげてくれるかしら?」
「……はい!」


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