外側のスミレ

夏木 蒼

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 おつかれ、と声をかけ合いながらステージを下りる。演奏は無事に終わった。ミスもなく、というわけではなかったが、お互いにお互いをカバーし合って乗り切った。
 涼には黙って背中を叩かれた。やったじゃん、と言わんばかりに。優しいのだ、彼は。

「マル、あのね」
 片付けをあらかた終えた頃、ユリに声をかけられる。
「今から告白しようと思うんだ」
 私は笑って頷いた。
「私と涼は出店見てるからさ。終わったらまた連絡して」
 そう言うとユリは、蒸気した頬を両手で押さえて頷いた。可愛いな。自然とそう思う。これから振られることを考えると、少し心が痛むけれど。

 作戦会議、と称して涼を連れて歩く。
「やっぱり告白は花火の時が良いかなぁ」
 フランクフルトにかじりつきながら、涼は私に聞く。
「花火の時はムードあるよね。でもユリ、人気者だからみんなから告白されてそう」
「そこはマルの力でなんとかしてくれ」
 はは、と笑って私もフランクフルトにかじりつく。たっぷりとかけられたケチャップとマスタードが、ぼとりと地面に落ちた。
「うまくいくといいね」
 そう言う私はうまく笑えていただろうか。ちりりと微かに胸が痛む。いいんだ、私は脇役だから。
「大丈夫か?」
 ふいに顔を覗き込まれる。私はぎくりと固まった。
「な、なにが?」
「なんか変な顔してたから」
 涼は心配そうに私の顔をじっと見る。泣きそうになって慌てて目を逸らした。
「変な顔は生まれつきです!」
 誤魔化すようにそう言って、涼の背中をばんと叩いた。
「そういう意味じゃねえよ!」
 怪訝そうな顔をしながらも、涼は深追いしない。どこまでも気遣いのできる男だなあ、と思う。私にまで優しくしないで、涼。心の中でそう呟いて、俯いた。落ちたケチャップの赤色と、マスタードの黄色がちかちかした。

「振られちゃったあ」
 日が傾き出した頃、ユリはそう言って私に抱きついてきた。涼はクラスの男子とどこかに行っている。タイミングを見計らって連絡するつもりだった。
 私は黙ってユリの頭を撫でる。細くて柔らかくて、綺麗な茶髪のユリ。根岸先輩は、こんなに可愛いユリよりも束縛の激しい彼女を選んだのか、とぼんやり思う。
「ダメ元だったから仕方ないねえ」
 自分に言い聞かせるようにユリは言う。薄紫に染まり始めた空に、ぽつぽつと出店の明かりが灯り始めた。
「いいんだ、先輩よりもっと素敵な人見つけるもん!」
 ユリはそう言って微笑んだ。ユリ、その人はあなたのすぐ側にいるはずだよ。そう言うこともできず、私も微笑み返すのが精一杯だった。

「ただいまより、中央広場にて打ち上げ花火を開始いたします……」

 そんなアナウンスが流れる。同時に、ポケットに入れていたスマホが振動した。
『階段、来れる? マルだけで』
 涼からのメッセージ。
『今から行く』
 そう返して顔を上げた。ユリは高校時代の友人を見つけたらしく、仲睦まじげに話している。
 花火を見ようと広場に向かう人混みをかき分け、私は校舎へと走った。
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