頼れる仲間はみんな目が死んでるので頼りたくない

ベポ田

文字の大きさ
1 / 10

客寄せパンダを捕まえよう

しおりを挟む
Q.我が校で1番モテる人は?

「そりゃあ、夏目くんじゃない?爽やかイケメン」
「文武両道で優しくてぇ、何よりカッコ良い!」
「夏目くん?うーん、モテるっちゃモテるんだろうけど、なんか違う……」
「なんつーか、付き合うよりは、眺めてたい感じ?アイドルみたいな」
「恋愛的にモテるってなら、そこは春江クンじゃない?」
「一年の?えー、良い噂聞かないんだけど」
「は?チアキの事ディスってんの?」
「し、下の名前で呼んでるの?」
「推しなんだよ!!」
「それを言ったら、こちとら夏目くん推しなんですけど?よーわからん柔派とは、月とスッポンポンなんですけど!」
「チアキを露出狂みたいに言わないでくれる?」

廊下を歩きながら、メモ帳に『夏目』と書き込む。モテると表現はしたが、今俺に必要なのは、どちらかと言えばアイドルだ。これは思いもよらぬ収穫ではないか。

「かいらしい手帳ですねぇ」
「昔弟と妹に貰ったんだ」
「冬樹先輩の御兄弟、俺も会ってみたいですわ」
「だめ」
「なんでです?」

足を止めれば、後ろからヒョコヒョコ付いてきてた其奴も止まる。少し腰を屈めて、手帳から、俺の相貌を覗き込むように視線を移した。

「妹の初恋が奪われる」
「ええ?」

耐えられないと言ったように吹き出して、優しげな目を細める。煙る睫毛の隙間で、西日を反射した目が、赤っぽく色付いていた。細い濡羽色の髪が、頬を掠めて擽ったい。
この謎の湿っぽさ、パーソナルスペースの狭さ。やっぱりこいつは絶対に、妹には会わせたくないと思った。

「良いですやん。妹さんと俺が結婚したら、俺と家族ですよ」
「駄目!絶対絶対絶対にだ!」
「お義兄さんのいけず」
「義兄って呼ぶな!」

歯茎を剥き出し、全力で威嚇する。そんな俺の努力を、ぱやぱやと気の抜ける笑みで躱し。「冬樹チアキかぁ。ええ響きやなぁ」とか宣いながら、ソイツ───春江千晶(はるえちあき)は、態とらしく肩を抱いた。なんで当たり前のように婿入り前提なんだろう。

「とにかく、用がないなら行くからな。俺は忙しいんだ」
「部活辞めはったのに?」
「そうだよ。アイドルに会いに行くんだ。アイドル」
「はァ……」

きょとと双眸を瞬いて、春江は首を傾げる。首を傾げて、俺の手帳を指差した。

「『夏目』先輩?」
「しっかり中身見てるじゃん……」
「『アイドル』?」
「おかしいかよ」
「いや。絡みあったんです?」
「同じクラスだ」
「はァ……」

先刻と同じように、純朴な目で首を傾げる。「なんと席も前後だ」と言えば、尚更「だから?」と言った表情をされる。ハムスターの命くらい儚い接点だ。言わんとする事は分かるし、正直俺もそう思う。けど今の俺にとっては、アイドル──夏目くんは希望そのものなのだ。
なんやかんやあって部活を辞めたのが3ヶ月前。
新たな同好会を立ち上げようと決めたのが2ヶ月前。
同好会の立ち上げに必要な部員数は5人。
今現在の部員数は俺1人。
吹奏楽部の部長は言った。必要なのは、『分かりやすい看板』であると。実績であったり、その競技の元々の知名度。若しくは目を惹くカリスマ的存在。
まだ骨格も組み上がっていない今の段階で、前者2つは望めない。だとすれば3つ目。『看板』となってくれるカリスマこそが、今の俺に必要な存在なのだ。事実あまり耳にすることの無い『将棋部』なんて物が、半年でマンモス部となったのは、カリスマ的新入生の入部による功績が大きいとの話。

「…………当たって砕けろだ」

眦を決する。
副会長である彼は、生徒会室に居る可能性が高いだろう。目指すは3階。延々と続く階段に、喉が鳴った。

***

「…………留守ですと」
「しなしなしとる先輩、おもろいですねぇ」

応対してくれた書記の子の、あの申し訳なさそうな表情。「御用件、夏目先輩にお伝えしましょうか」なんて言われたけれど、言えない。言えるわけがない。「お宅の副会長を引き抜きに来ました」だなんて。結果、何もできず、こうしてすごすごとカラオケ店に撤退したわけだが。

「なんでカラオケ……」
「秘密の作戦会議は、密室でって決まっとります」
「そう言うもの?」
「そう言う物です」

ウンウンと頷くのは、何故か付いてきた春江くん。「おもろそうやなぁ」と、俺の横で生徒会の応対を受け、俺の後ろ襟を掴んだまま、ワンドリンクの3時間コースを頼んだ。俺の人生はエンタメじゃねぇんだぞ。

「というか、作戦会議って」
「アイドル、捕獲するんでしょ?」
「ほか……夏目くんのこと、ポケモンか何かと思ってるか?」
「まさか!モンボで人間捕獲できるなら、先輩のお顔とか今頃ボコボコですわ」
「ボコボコ」
「モンボで」
「レート高。人間界のザシアンじゃん」
「ぜぇんぶ俺の投げたやつですわ」
「ビッパだったか……」

たおやかな所作で、グラスを取る。タピオカミルクティーを啜りながら、「せやから」と言葉を継いだ。

「段階踏むべきです。ちゃーんと計画立てて、外堀埋めて」
「外堀って」
「懐に入る。基本ですわ。親しい方が、お願いも聞いてくれ易いでしょ?」
「お前……怖いな……」

前々から思ってはいたが、はんなりした言動に反して、中々したたかな男である。変な水とか買わされないように気をつけよう。

「同じクラスで、前後の席なんでしょ?チャンスやないですか」
「それは……そうだけどさ。仲良くなれるかはまた別じゃない?」
「さいですか。先輩、お顔狭いですもんねぇ」
「お前から見たら誰だってそうでしょ」

コミュ強モンスターの言う「チャンス」ほど、充てにならない言葉はない。いや、確かにこいつの言う事にも一理あるんだが。ジットリと目を細めれば、応えるように、色素の薄い目が緩くたわむ。確かに、人好きする笑顔だと思った。

「…………にらめっこです?」
「お前の真似だよ」
「それはそれは、」
────かぁいらしいですねぇ。

ころころ上品に笑いながら、俺の鼻頭を摘む。なるほど適度なスキンシップは、人との距離を縮める上で効果的らしい。こう言う事がスッとできるのが、コミュ強である所以なのだろう。感心しながら頷けば、春江は何かを思い付いたように、あ、と声を上げる。

「せやったら、俺とかどうです?」
「なにが」
「先輩の同好会入りましょうか?俺、顔広いですし」
「今の部活どうすんの」
「うーん、」

バスケ部の彼は言っていた。強豪上がりのスゲー新入生がいるんだ。間違い無くこの部を牽引して行ける器だ、春江って言うんだけど……、と。

「辞めます」
「ええ……」

ただ今の一年には熱意が足りねぇ。そう締めくくったバスケ部の彼の顔が、脳裏を横切って行く。俺もそう思う。
けれど例えば、どうだろう。ここで俺がコイツを引き抜いたとして。

「……確実にボールにされる」
「はい?」
「いや、こっちの話。けど春江、それはやめとこう」
「えー、そないな事言わんといて下さいよぉ」

ぷぅと頬を膨らませながら、抗議してくる。
素か。素でそれをやってるのか。膨らんだ頬を片手で潰せば、ブフゥ!とか言って息が吐き出される。ちょっと照れたような表情なのが、妙に癪に触る。

「女の子たちも言うとったでしょ?」
「女の子ぉ?」
「先輩がインタビューしとった子たちですわ」
「見てたのかお前。……なんか言ってたっけ?」
「『一年の春江クンとか言う爽やかイケメン、モテるらしいよぉ』、『文武両道でぇ、優しくてぇ、何よりカッコ良い!』」
「そんな事言ってたか?」

そして自分で言ってて恥ずかしくないか?
眉を顰めれば、春江は両手の拳を顎につけたポーズで眦を下げる。女の子の声真似のまま、「言うてましたよぉ」とか呻くが、正直、夏目アイドル発言以降の記憶がない。あと何となく、色々脚色されている気もする。

「『春江クンがいたら、サッカーチーム8つ作れるよぉ?』」

ほら絶対好き勝手言ってる。俺の記憶が無いのを良い事に。

「…………とにかく、最終手段だそれは」
「釣れへんなぁ」
「それに、ほら。同学年の方が色々と勝手が良いだろ。どうにもならなくなったら頼るから」
「……………」
「気持ちだけ貰っとくよ」

礼を言えば、春江は唇を尖らせる。プルプルと唇を震わせながら、デンモクを操作する。あからさまにシュンとしないでほしい。胸がちょっと痛いぞ。
「ありがとう」と言った声は、爆音のイントロに掻き消された。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

可哀想は可愛い

ぽぽ
BL
 平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。  同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。 「むむむ無理無理!助けて!」 ━━━━━━━━━━━ ろくな男はいません。 世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。 表紙はくま様からお借りしました。

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

処理中です...