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文化祭2日目 特別扱い
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一時は機能不全に陥った現場も、回復後、順調に回り始めた。真戸の予見通りほぼほぼ休む暇は無かったが、先日を大きく上回る数の集客と満足度。一日目を成功と評するならば、既に二日目は大成功と言って差し支えないだろう。
そんな、最終日大詰めに差し掛かったころ。
猫田と亀山に、半ば強引にバックヤードに追いやられては、つかの間の休息を強いられる。
今朝購入した塩飴の袋を、ぶらぶらぶら下げながら扉を開ければ、先客の姿が目に入る。
「愛宕」と呼べば、そいつの真っ新な相貌に、思いだしたように笑みが浮かんだ。
「やっほ、委員長」
少し汗で湿った前髪を揺らして、相貌を擡げる。片手に持ったペットボトルは、奴の好みからして意外なチョイスだと思った。
俺の言わんとすることを察したのだろう。「これね、差し入れ」と右手を掲げるその所作は、気怠げな物だった。
無理もない。愛宕は開店からずっと動きっぱなしだった。俺と同様に、クラスメイトに無理やりこの部屋に追い込まれたのだろう。
少し考えて飴をポイと投げつければ、虚を突かれたように目を見開いた。
「なんこれ」
「受け取ってくれ。αに借りを作りたくないんだ」
愛宕は集客と誘導と、現場で良く働いてくれた。そうでなくても、愛宕の協力がなければ、橘の襲来から持ち直すことすら不可能だった。癪ではあるが、彼が居なければここまでの成功は無かった。彼は間違いなく、今日という日の功労者に違いないのだ。
「ふぅん?」と唸って、水滴の滴るペットボトルを開けて。
「もげーーーッ!」
あろうことかそいつは、俺の口に問答無用で開封したペットボトルを押し込んだ。
「ドブみたいな顔色したやつに、そんなんもらってもねぇ」
「…………っ、ムゥ、もがががが」
「ほら、水分補給♡水分補給♡♡体調管理は人間の基本でちゅよ」
首をブンブン振って拒絶する俺の顔面を抑えつけながら、強制的に水分補給をさせてくる。一歩間違えたら全然死ねている。
半分くらいペットボトルを飲まされては、ようやっと解放されて。
死にかけで咳き込む俺を愉快そうに眺めながら、愛宕は「あはぁ」と間延びした声を上げた。
「貸しは貸しのままにしとこっかな」
「α以前に、俺はお前個人に借りを作り上たくないんだが」
「ええ、逆に聞きたいんやけど。まさか飴一個で完済できると思っとる?」
「…………」
「なら何。僕のΩになってくれたり?」
「とんだ暴利だろうが、それはそれで」
言い切れば、愛宕は気怠げな所作で顎先を指で擦った。ただその相貌には、今までのそれとは異なり、幾分か人間らしい温度のある笑みが浮かんでいた。
「ま、いっか。僕も逆鱗に触るような真似したくないし」
「…………?」
深長な調子で落とされた言葉に、首を傾げる。そんな俺を丸い目で眺めては、「委員長さぁ」と好奇の滲んだ声を上げた。
「あのα────、いけすかん、Ⅰ型」
「橘か」
「そー、タチバナリョウイチ君。仲良いん?」
「はぁ⁈」
「うるさっ」
俺の叫びに、愛宕は耳を塞ぎながら仰け反った。非難がましい視線で毛を逆立てるそいつに、「わ、悪かったよ……」と謝罪するが。何をどう解釈してその結論に至ったのか、小一時間は問い詰めたい気分だ。
「いやいや。だって僕、リョウイチくんがまともに喋っとーところ、初めて見たもん」
「……よく喋るだろ、あいつは」
「いいや?基本誰が何言ってもシカトやん、彼」
その言葉に、心当たりがないわけではない。
人嫌いと呼ばれるだけあって、橘は基本的に誰ともつるまない。
のみならず、人との会話も最低限で、たまに口を開いたかと思えば恐ろしい鋭さの言葉が飛んでくる。それでも周りは奴を疎むわけでもなく、『孤高』だの『一匹狼』だのと、囃し立てては羨望の眼差しを向ける。
Ⅱ型の愛宕ですら、立ち振る舞い次第で反感を買ったところを見ると、Ⅰ型というバース性の扱いが破格であることは明らかで。
本当に。腹立たしいことこの上ない。
「やけん委員長のそれは、『特別扱い』やろ?」
「…………」
「どんな手使ったん、委員長」
ぐる、と。視線を巡らせては、記憶を反芻する。思い返すのは、奴と話した中で残っている、最古の記憶。鈍い頭の痛みと共に蘇るのは、中等部の頃に投げかけられた言葉で。
────「誰にも選ばれない、可哀想で不毛な性別」
心底からの侮蔑の滲んだ、吐き捨てるような声音。こちらを見下ろす緑眼は、憎悪に冷え切っていて。
気付けば、拳を握りこんだ指先が、白んでいた。
「…………別に」
自分でも驚くほどに、冷淡でいて低い声で唸って。額に脂汗が滲む感触に、愛宕を睥睨した。
その視線を薄ら笑いで受け止めて、手持無沙汰に俺の横髪を抓む。案外武骨な、武人の手だと思った。
「実はポンコツやったかぁ、委員長」
「…………なんだと」
「こーんなに熱心にマーキングされて、ねぇ?無自覚なんやもん」
ぎゅう、と弧を描いた拍子に、ぷっくりと涙袋が強調される。どんなことでも無条件で許したくるような愛嬌に、αとか関係なくイケメンへのジェラシーを覚える。
ただそんな感情を咀嚼する余裕すら無いほどに、俺の脳内は困惑に支配されていて。
やけに喉が渇く。手元のペットボトルは、いつの間に空っぽになっていた。
「分からない、なにを、言っているのか、全く」
「委員長、面倒くさい連中に好かれとーねってだけ」
「ひとつも、意味が────」
────連中?愛宕は今、『連中』と言ったのか。
嫌な汗が全身から噴き出てくる。鈍く響くだけだった頭痛は、いつしか頭が割れるような激痛に変わっていた。
この感覚を、俺は知っている。
「…………委員長?」
そんな怪訝な声が上がる頃には、ふらつく足取りで出入り口へと向かっていた。
次に来るのは吐き気だ。
口を抑えて、どうにか込み上げる胃酸を飲み下す。
空いた手で教室の扉を開けると、背後から「どこ行くん、委員長」と、奴らしからぬ切羽詰まった声が追ってくる。
便所に決まってんだろうが。などと答える余裕はないので、早足に歩を進めた。
そんな、最終日大詰めに差し掛かったころ。
猫田と亀山に、半ば強引にバックヤードに追いやられては、つかの間の休息を強いられる。
今朝購入した塩飴の袋を、ぶらぶらぶら下げながら扉を開ければ、先客の姿が目に入る。
「愛宕」と呼べば、そいつの真っ新な相貌に、思いだしたように笑みが浮かんだ。
「やっほ、委員長」
少し汗で湿った前髪を揺らして、相貌を擡げる。片手に持ったペットボトルは、奴の好みからして意外なチョイスだと思った。
俺の言わんとすることを察したのだろう。「これね、差し入れ」と右手を掲げるその所作は、気怠げな物だった。
無理もない。愛宕は開店からずっと動きっぱなしだった。俺と同様に、クラスメイトに無理やりこの部屋に追い込まれたのだろう。
少し考えて飴をポイと投げつければ、虚を突かれたように目を見開いた。
「なんこれ」
「受け取ってくれ。αに借りを作りたくないんだ」
愛宕は集客と誘導と、現場で良く働いてくれた。そうでなくても、愛宕の協力がなければ、橘の襲来から持ち直すことすら不可能だった。癪ではあるが、彼が居なければここまでの成功は無かった。彼は間違いなく、今日という日の功労者に違いないのだ。
「ふぅん?」と唸って、水滴の滴るペットボトルを開けて。
「もげーーーッ!」
あろうことかそいつは、俺の口に問答無用で開封したペットボトルを押し込んだ。
「ドブみたいな顔色したやつに、そんなんもらってもねぇ」
「…………っ、ムゥ、もがががが」
「ほら、水分補給♡水分補給♡♡体調管理は人間の基本でちゅよ」
首をブンブン振って拒絶する俺の顔面を抑えつけながら、強制的に水分補給をさせてくる。一歩間違えたら全然死ねている。
半分くらいペットボトルを飲まされては、ようやっと解放されて。
死にかけで咳き込む俺を愉快そうに眺めながら、愛宕は「あはぁ」と間延びした声を上げた。
「貸しは貸しのままにしとこっかな」
「α以前に、俺はお前個人に借りを作り上たくないんだが」
「ええ、逆に聞きたいんやけど。まさか飴一個で完済できると思っとる?」
「…………」
「なら何。僕のΩになってくれたり?」
「とんだ暴利だろうが、それはそれで」
言い切れば、愛宕は気怠げな所作で顎先を指で擦った。ただその相貌には、今までのそれとは異なり、幾分か人間らしい温度のある笑みが浮かんでいた。
「ま、いっか。僕も逆鱗に触るような真似したくないし」
「…………?」
深長な調子で落とされた言葉に、首を傾げる。そんな俺を丸い目で眺めては、「委員長さぁ」と好奇の滲んだ声を上げた。
「あのα────、いけすかん、Ⅰ型」
「橘か」
「そー、タチバナリョウイチ君。仲良いん?」
「はぁ⁈」
「うるさっ」
俺の叫びに、愛宕は耳を塞ぎながら仰け反った。非難がましい視線で毛を逆立てるそいつに、「わ、悪かったよ……」と謝罪するが。何をどう解釈してその結論に至ったのか、小一時間は問い詰めたい気分だ。
「いやいや。だって僕、リョウイチくんがまともに喋っとーところ、初めて見たもん」
「……よく喋るだろ、あいつは」
「いいや?基本誰が何言ってもシカトやん、彼」
その言葉に、心当たりがないわけではない。
人嫌いと呼ばれるだけあって、橘は基本的に誰ともつるまない。
のみならず、人との会話も最低限で、たまに口を開いたかと思えば恐ろしい鋭さの言葉が飛んでくる。それでも周りは奴を疎むわけでもなく、『孤高』だの『一匹狼』だのと、囃し立てては羨望の眼差しを向ける。
Ⅱ型の愛宕ですら、立ち振る舞い次第で反感を買ったところを見ると、Ⅰ型というバース性の扱いが破格であることは明らかで。
本当に。腹立たしいことこの上ない。
「やけん委員長のそれは、『特別扱い』やろ?」
「…………」
「どんな手使ったん、委員長」
ぐる、と。視線を巡らせては、記憶を反芻する。思い返すのは、奴と話した中で残っている、最古の記憶。鈍い頭の痛みと共に蘇るのは、中等部の頃に投げかけられた言葉で。
────「誰にも選ばれない、可哀想で不毛な性別」
心底からの侮蔑の滲んだ、吐き捨てるような声音。こちらを見下ろす緑眼は、憎悪に冷え切っていて。
気付けば、拳を握りこんだ指先が、白んでいた。
「…………別に」
自分でも驚くほどに、冷淡でいて低い声で唸って。額に脂汗が滲む感触に、愛宕を睥睨した。
その視線を薄ら笑いで受け止めて、手持無沙汰に俺の横髪を抓む。案外武骨な、武人の手だと思った。
「実はポンコツやったかぁ、委員長」
「…………なんだと」
「こーんなに熱心にマーキングされて、ねぇ?無自覚なんやもん」
ぎゅう、と弧を描いた拍子に、ぷっくりと涙袋が強調される。どんなことでも無条件で許したくるような愛嬌に、αとか関係なくイケメンへのジェラシーを覚える。
ただそんな感情を咀嚼する余裕すら無いほどに、俺の脳内は困惑に支配されていて。
やけに喉が渇く。手元のペットボトルは、いつの間に空っぽになっていた。
「分からない、なにを、言っているのか、全く」
「委員長、面倒くさい連中に好かれとーねってだけ」
「ひとつも、意味が────」
────連中?愛宕は今、『連中』と言ったのか。
嫌な汗が全身から噴き出てくる。鈍く響くだけだった頭痛は、いつしか頭が割れるような激痛に変わっていた。
この感覚を、俺は知っている。
「…………委員長?」
そんな怪訝な声が上がる頃には、ふらつく足取りで出入り口へと向かっていた。
次に来るのは吐き気だ。
口を抑えて、どうにか込み上げる胃酸を飲み下す。
空いた手で教室の扉を開けると、背後から「どこ行くん、委員長」と、奴らしからぬ切羽詰まった声が追ってくる。
便所に決まってんだろうが。などと答える余裕はないので、早足に歩を進めた。
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