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Ⅱ、聖女になりたくない公爵令嬢
20★ミニスライムに歯が立たないイーヴォたち
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「薬草なんざ刈り尽くしてやるぜぇ!」
「二度と生えてこないようにしてやりましょうっ!」
ニコは薬草採りを薬草討伐だと勘違いしているのだろうか。
「僕は何かあったらすぐ回復魔法をかけられるように、沼には近づかずここで待機しています」
こざかしいサムエレは、ミニスライムの縄張りに入らず足を止めた。
「何かあったらだとぉ? あるわけねぇだろ! お前このグレイトドラゴンズのリーダー、イーヴォ様がミニスライムごときに攻撃されるとでも思ってるのか!?」
(思ってるから言ってるんですよ)
サムエレは心の声を口には出さなかった。だが立ち止まったサムエレから五歩だけ遠ざかったイーヴォが叫び声をあげた。
「ぐぎゃおぅ!?」
「えっ、もうやられた!?」
つい心の声が口に出た。
足をすべらせて背中から沼にダイブしたイーヴォの足元から、
「「ぴぎゃー」」
「「ぴぴきゃぁ」」
口々に奇妙な鳴き声をあげながらミニスライムが次々に飛び出してくる。どうやら彼らはイーヴォの足元に集まって踏まれることで、彼を転倒させたようだ。
「イーヴォさん!? って、うわおうっ! ごふぅっ」
駆け寄ろうとしたニコも同じ手法でひっくり返され、こちらは顔面から泥水に突っ込んだ。
「ぐおぅごきゅぅ!」
顔を上げたニコの目と鼻と口をミニスライムが覆っている。これでは窒息死しかねない。
が、サムエレは傍観していた。冷徹な彼の辞書に「同郷のよしみ」などという甘い言葉はない。
「炎緞幕!」
「ぎぃやぁぁっ!」
自身も沼にはまりながら、イーヴォは呪文を唱えていた。ニコの顔面めがけて薄い炎のカーテンを生み出す術を放った。本来は氷属性で攻撃してくる相手に対して防御用に使う術だ。
「ニコ、走れ! サムエレにやけどを治してもらえ!」
「ううっ、熱い……痛い……」
火に弱いミニスライムは全滅し、顔面に軽いやけどを負うだけで済んだニコがふらふらとサムエレのもとへ戻ってきた。彼は聖杖をニコの顔面に向け、呪文を唱える。
「癒しの光、命の灯、聖なる明かりよ――、治癒光!」
聖魔法が発動し、白い光がニコの頭部を包んでゆく。
「はぁ、はぁ。死ぬかと思った!」
回復したニコはサムエレに早口で訴えた。
「あのミニスライムってやつ、ものすごい高速で迫ってきて呪文を唱える暇がないんだ! このあいだダンジョンで襲ってきたオークみたいなんですよ!」
「魔物というのは本来こういうものですよ?」
「いーや! おいらたちが戦ってきたやつはみんないっつもウトウトしてたじゃないか!」
「ジュキエーレくんの歌声にうっとりしてましたからね、皆さん」
「そんな話は――」
ニコが反論しかけたところに、
「アハァァァァァン」
聞いたことないタイプの悲鳴をあげてイーヴォがクネクネしながら逃げてきた。
「た、助けてくれ! あんっ! 服の中にミニスライムが――」
「服の中ならいいじゃないですか、自分で取れば」
魔力を温存したいサムエレが突っぱねると、
「ち、違うんだ…… あはんっ 肛門から体内に―― んんっ」
「変な声出さないでうつぶせになって」
げんなりしたサムエレは聖杖で地面を示した。
(最悪だ。こいつの大腸と肛門をイメージしなけりゃならないなんて!)
魔法を使うにはイメージが大切なのである。
そのあともサムエレは回復魔法を使い続けるはめになった。
三回目にまたミニスライムを飲み込んでやってきたイーヴォに、
「鼻と口を布で覆って薬草採りをしてはどうか?」
と提案した。
「ふんっ、それを早く言えよ」
イーヴォとニコはバンダナを顔に巻いて作業に戻った。
「ちきしょーっ、今度は目と耳をねらって来やがる!」
まったくよけられない彼らは、とことんミニスライムの餌食になっていた。反射神経ゼロなのでどうしようもない。冒険者になって一年以上、ジュキエーレの歌声魅了をくらった状態異常のモンスターとしか戦ってこなかったのだから。
「ぴぎょー」
「ぴぎゃっ」
「ぴひゃははははっ」
ミニスライムたちは完全に楽しんでいた。今までこんなにぶい人間には会ったことがない。たいてい水面から姿をあらわした時点で剣士にスパッとやられるのが落ちだったのに、こいつらときたら長ったらしい呪文なぞ唱えてやがる。
「くそぉぉぉっ!」
イーヴォがいきり立った。
「こんな強いモンスターがうようよいる沼がFランククエストのはずはないっ! いんちきギルドめ、俺様たちをハメやがったな!!」
「どんなときも責任転嫁が得意なイーヴォさん、さすがでーっす!!」
ニコが褒めたたえる。
「ミニスライムどもめ、俺様の真の力を見せてやる!」
イーヴォはおぼつかない足取りで、サムエレの待つ木の下まで後退してきた。
「聞け、火の精! 紅蓮の飛弾となりて――」
「いけません、イーヴォくん!」
だがしかし―― サムエレの制止は遅すぎた。
-----------------
「ミニスライムに遊ばれるなんて、さすがイーヴォさん!」
と思わず拍手したそちらの奥方も、しょーもない後書きに、
「なわけねぇだろ!?」
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「二度と生えてこないようにしてやりましょうっ!」
ニコは薬草採りを薬草討伐だと勘違いしているのだろうか。
「僕は何かあったらすぐ回復魔法をかけられるように、沼には近づかずここで待機しています」
こざかしいサムエレは、ミニスライムの縄張りに入らず足を止めた。
「何かあったらだとぉ? あるわけねぇだろ! お前このグレイトドラゴンズのリーダー、イーヴォ様がミニスライムごときに攻撃されるとでも思ってるのか!?」
(思ってるから言ってるんですよ)
サムエレは心の声を口には出さなかった。だが立ち止まったサムエレから五歩だけ遠ざかったイーヴォが叫び声をあげた。
「ぐぎゃおぅ!?」
「えっ、もうやられた!?」
つい心の声が口に出た。
足をすべらせて背中から沼にダイブしたイーヴォの足元から、
「「ぴぎゃー」」
「「ぴぴきゃぁ」」
口々に奇妙な鳴き声をあげながらミニスライムが次々に飛び出してくる。どうやら彼らはイーヴォの足元に集まって踏まれることで、彼を転倒させたようだ。
「イーヴォさん!? って、うわおうっ! ごふぅっ」
駆け寄ろうとしたニコも同じ手法でひっくり返され、こちらは顔面から泥水に突っ込んだ。
「ぐおぅごきゅぅ!」
顔を上げたニコの目と鼻と口をミニスライムが覆っている。これでは窒息死しかねない。
が、サムエレは傍観していた。冷徹な彼の辞書に「同郷のよしみ」などという甘い言葉はない。
「炎緞幕!」
「ぎぃやぁぁっ!」
自身も沼にはまりながら、イーヴォは呪文を唱えていた。ニコの顔面めがけて薄い炎のカーテンを生み出す術を放った。本来は氷属性で攻撃してくる相手に対して防御用に使う術だ。
「ニコ、走れ! サムエレにやけどを治してもらえ!」
「ううっ、熱い……痛い……」
火に弱いミニスライムは全滅し、顔面に軽いやけどを負うだけで済んだニコがふらふらとサムエレのもとへ戻ってきた。彼は聖杖をニコの顔面に向け、呪文を唱える。
「癒しの光、命の灯、聖なる明かりよ――、治癒光!」
聖魔法が発動し、白い光がニコの頭部を包んでゆく。
「はぁ、はぁ。死ぬかと思った!」
回復したニコはサムエレに早口で訴えた。
「あのミニスライムってやつ、ものすごい高速で迫ってきて呪文を唱える暇がないんだ! このあいだダンジョンで襲ってきたオークみたいなんですよ!」
「魔物というのは本来こういうものですよ?」
「いーや! おいらたちが戦ってきたやつはみんないっつもウトウトしてたじゃないか!」
「ジュキエーレくんの歌声にうっとりしてましたからね、皆さん」
「そんな話は――」
ニコが反論しかけたところに、
「アハァァァァァン」
聞いたことないタイプの悲鳴をあげてイーヴォがクネクネしながら逃げてきた。
「た、助けてくれ! あんっ! 服の中にミニスライムが――」
「服の中ならいいじゃないですか、自分で取れば」
魔力を温存したいサムエレが突っぱねると、
「ち、違うんだ…… あはんっ 肛門から体内に―― んんっ」
「変な声出さないでうつぶせになって」
げんなりしたサムエレは聖杖で地面を示した。
(最悪だ。こいつの大腸と肛門をイメージしなけりゃならないなんて!)
魔法を使うにはイメージが大切なのである。
そのあともサムエレは回復魔法を使い続けるはめになった。
三回目にまたミニスライムを飲み込んでやってきたイーヴォに、
「鼻と口を布で覆って薬草採りをしてはどうか?」
と提案した。
「ふんっ、それを早く言えよ」
イーヴォとニコはバンダナを顔に巻いて作業に戻った。
「ちきしょーっ、今度は目と耳をねらって来やがる!」
まったくよけられない彼らは、とことんミニスライムの餌食になっていた。反射神経ゼロなのでどうしようもない。冒険者になって一年以上、ジュキエーレの歌声魅了をくらった状態異常のモンスターとしか戦ってこなかったのだから。
「ぴぎょー」
「ぴぎゃっ」
「ぴひゃははははっ」
ミニスライムたちは完全に楽しんでいた。今までこんなにぶい人間には会ったことがない。たいてい水面から姿をあらわした時点で剣士にスパッとやられるのが落ちだったのに、こいつらときたら長ったらしい呪文なぞ唱えてやがる。
「くそぉぉぉっ!」
イーヴォがいきり立った。
「こんな強いモンスターがうようよいる沼がFランククエストのはずはないっ! いんちきギルドめ、俺様たちをハメやがったな!!」
「どんなときも責任転嫁が得意なイーヴォさん、さすがでーっす!!」
ニコが褒めたたえる。
「ミニスライムどもめ、俺様の真の力を見せてやる!」
イーヴォはおぼつかない足取りで、サムエレの待つ木の下まで後退してきた。
「聞け、火の精! 紅蓮の飛弾となりて――」
「いけません、イーヴォくん!」
だがしかし―― サムエレの制止は遅すぎた。
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「ミニスライムに遊ばれるなんて、さすがイーヴォさん!」
と思わず拍手したそちらの奥方も、しょーもない後書きに、
「なわけねぇだろ!?」
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