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Ⅴ、敵は千二百年前の大聖女
45、ボス戦に女装で挑むとかなんの罰ゲームだ
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翌朝、レモの作り話ではなく本物のハーピー便が王都から戻ってきた。現聖女である王妃殿下は、公爵夫人の計画に賛同してくれたそうだ。
俺たちは公爵夫人と話し合い、日暮れと共に出発することとなった。紋章の入っていない質素な馬車や信頼のおける御者は、公爵夫人のほうで手配してくれるとのこと。
「あなたたちの支度は午後からでいいから、夜通しの旅にそなえてゆっくり休んでおいてね」
と、あたたかい言葉をかけてくださった。
俺は自室として与えられた控えの間に引っ込むと、久しぶりに趣味の作曲でもしようと楽な服に着替え、竪琴片手にベッドの上であぐらをかいた。
「ジュキ、そろそろ支度するわよ」
いつの間にか竪琴をかかえたまま、うたた寝していた俺はレモのささやき声で目を覚ました。彼女の手のひらがやさしく俺の銀髪をなでる。
「ん……」
うっすらと目を開けると、窓から差し込む午後の日差しの中、腕に大きなドレスをかけたレモが立っている。絹地は日差しを受けてパールホワイトに輝き、どこについているデザインかは分からないが、アクアグリーンのリボンが垂れ下がっているのが見えた。
「それ着ていくのか? 似合うんじゃね?」
目をこすりながらベッドの上に身を起こすと、レモがクスッと笑った。
「?」
ちょっと首をかたむけて見上げる俺に、
「ジュキが着るのよ」
と笑った。
「あ……」
忘れてた。男子禁制の聖堂に入るために、変装しなきゃいけないんだっけ。
「でもどうせ隠れて行くなら、男の恰好でもよくね?」
「うーん……」
レモはしらじらしく眉根を寄せて、
「でもお母様は、次期聖女候補のレモネッラとその侍女ジュリアがうかがうって手紙に書かれたそうだし――」
「ジュリア?」
「ジュキの偽名よ。決めておいた方が便利でしょ。それにイーヴォたちの攻撃が力不足で瑠璃石の周りは被害がないのに瑠璃石だけ破壊されていた場合、お妃さまが男と分かってジュキを聖堂に入れていたって知れたら大変だわ」
これはどうやら、十六年来の因縁の相手と女装してまみえるという事態は避けられなさそうだ。
俺はこのとき、自分だとバレないことが身を救うなんて考えもしなかった。
「仕方ねぇな」
つぶやきながらガウンを脱ぎ、レモに背中を向けて着替えようとする。
「ジュキったら、お昼寝のためにわざわざナイトウェアに着替えてたのね。その上からコルセットつければちょうどいいから、着替えないで私の部屋に来てちょうだい」
白いグローブだけはめて、ひざ下まであるリネンのナイトウェアのままレモの部屋に入ると、侍女が二人待機していた。一人はいつも食事を持ってきてくれる娘だ。
「お待ちしておりました! ジュキエーレさん!」
「かわいくして差し上げますからねぇ~~!」
目を輝かせるな。
「まずはコルセットです。両手を前に伸ばしてくださいな」
コルセットに腕を通すと侍女がうしろに回り、ひもを通してゆく。
レモは猫足の椅子に座って楽しそうに眺めている。
「あんまりきつくしめないであげてね。歌うとき苦しいとかわいそうだから」
「かしこまりました、レモネッラ様。昨日の演奏会、素晴らしかったですものね!」
彼女たちも聴きにきてくれたんだ。俺はうれしくなって、
「ありがとう」
と礼を言った。
「ロジーナ様が専属歌手としてお雇いになればいいのに!」
侍女の言葉につい、
「えぇ……俺ひとっところに閉じ込められてんのとか無理」
本音をもらすとレモが、
「音楽家と貴族が交わす契約って、一年のあいだに何ヶ月は旅に出て良いとか取り決めがあるものなのよ」
と教えてくれる。世の中には俺の知らない世界があるもんだ。
一方の侍女がコルセットの形を整え、もう一人がうしろからひもを引く。
「ジュキエーレさん華奢に見えるけど、やっぱり男の方ですわね。胸郭の厚みが全然違いますわ」
子供のころからずっと歌ってきたから、胸郭が発達してるってのもあるかも知れない。
「次はこちらを――」
侍女が差し出したペチコートを見て、何か思い出したのかレモが、
「ちょっと待って」
と立ち上がった。
「ジュキ、亜空間収納は?」
「部屋のベッドサイドに置いてあるよ」
「ペチコートの下につけておいた方が便利よ」
確かに。ペチコートもその上に重ねるスカートも横に切れ目が入っていて、中に巻いた亜空間収納に手が届く仕組みだ。
レモが持ってきてくれた亜空間収納を腰につけると、侍女が頭からペチコートをかぶせて、へそのあたりでひもを結んでくれる。腰のうしろにパニエをつけたあとで、パールホワイトに輝く絹地がふんだんに使われたスカートを着せられた。
「絹のスカーフで首元を隠しましょうね」
スカーフのはしをコルセットの中に差し込んで固定してから、スカートと同じ絹地で織られた長袖の上着を羽織る。アクアグリーンのリボンはこの服についていた。侍女が俺の胸元でリボンを結ぶのを眺めながらレモが、
「ジュキの瞳の色に似合うかなと思って選んだのよ」
と満足そうにほほ笑んだ。大好きなレモが俺のために選んでくれた服だと思うと、女性のドレスにも抵抗がなくなってくる。
「お着替えは終わりです。素敵ですわ」
侍女が一歩下がって、やさしい瞳で俺をうっとりとみつめた。もう一人の侍女も、
「まあ、かわいらしい! よかった、違和感ありませんわね」
と安堵した顔。レモは、うんうんとうなずきながら、
「そりゃそうよ。お母様のお墨付きだもん」
俺のまわりをぐるっと一周する。
「お化粧されるのでしたっけ? 真っ白いお肌でおしろいなんて必要ないように見えるのですが」
侍女がレモの指示をあおぐと、
「それが人族に見えないって本人が気にしてるのよ」
「レモネッラ様がおしろい塗れば差が出ないのでは?」
「え。私、肌になんか塗りたくるの嫌いなんだもん」
なんつー貴族だ。
「でもまあレモは、そのまんまでじゅうぶんかわいいからな」
「ジュキだってそのまんまでじゅうぶんかわいいわよ?」
返しがおかしいだろ。ありがと、とか言ってほほ笑んでくれたらいいのに。と思いつつ俺、結局レモのこういう天衣無縫なところに惹かれてるんだと思う。
「ジュキエーレさん、目を閉じて」
椅子に座らされ、言われるままに目をつむる。俺の額に大きなメイクブラシでファンデをはたきながら、侍女が感心したようにため息をついた。
「竜人族の男の子ってこんなに綺麗なんですね。これまでの人生で私、竜人族の方を見かける機会がなかったから、昨日の演奏会で驚いてしまいましたわ」
するとレモが冷静な声で突っ込んだ。
「あ。熊みたいのもいるわよ? ネズミとか。ジュキは特別なの。ト、ク、ベ、ツ!」
いつ目を開けていいのか分からない俺は、目を閉じたままチークをつけてもらいながらドキドキしていた。レモが俺を特別だって言ってくれたから……!
俺の血色のない白い唇に、筆でルージュを乗せ終わった侍女が、
「できました! 目を開けて下さいな、ジュキエーレさん」
緊張したけど筆やブラシの感触がちょっと気持ちよかったな、などと思いながらそっと目を開ける。
「きゃーっ! かっわいーっ!!」
「大変! 美少女すぎてレモネッラ様が霞んでしまいますわ!」
大騒ぎする侍女たち。
「そ、それはないよ……」
小声で否定する俺は、怖くて鏡をのぞけない。
「どれどれ、見てやろうじゃないの」
椅子から立ち上がったレモが、挑戦的な笑みを浮かべてやってきた。恥ずかしくて目を伏せる俺を下からのぞきこむと、
「――ハッ! これは私も嫉妬しちゃうくらい美人さんね! 食べちゃいたいわ!」
野生動物のようにギラギラと目を輝かせる。さっきから俺の好きな人の反応がおかしいんですが……
「俺、目つき悪いから女の子になんか見えないよ……」
不安な気持ちでつぶやくと、
「そんなことないわよ。こまっしゃくれたガキって感じで抱きしめたくなっちゃうわ!」
その感覚がよく分かんねえ……
「それよりジュキ、せっかくかわいい恰好してるんだから『俺』とか言わないの。あともうちょっと高い声でしゃべりなさい」
「そうですよ、ジュキエーレさん! 歌うときはあんなに高い声出るじゃないですか!」
それはしゃべるときと発声が違うからなんだ。無茶ぶりしないでくれ。
「髪の毛はどうしましょう?」
もう一人の侍女がレモに尋ねた。
「あードラゴンのかわいいお耳を隠さなきゃいけないのよ。帽子とかかつらとか使わないと難しいかしら?」
「それなら俺、髪伸ばせるよ」
「「「は?」」」
三人の目が点になった。これは実際にやってみせたほうが早いな。
俺は目を閉じ、胸の竜眼のあたりに意識を集中する。このあいだねえちゃんに見せたときみたいに膝下まで伸びても困るので、精霊力を抑えつつ注意深く解放してゆく。
「ジュキのまわりに銀色の光が――」
「ま、まぶしっ」
「きゃあっ」
もういいかな? 目をひらくと光が収まっていくところだった。
「これくらいの長さがあればアレンジできるかな?」
俺の言葉に、顔を覆っていた手をずらしたレモたちが、唖然とした。
「髪の長さを変えられるの!?」
「うそっ、自由自在に!?」
「うらやましいですわ!」
口々に騒ぐ彼女たち。縮めることはできないから自由自在ではないんだよな。
「伸ばせるだけだから」
「それでもうらやましいわ!」
そういうものなのか? むしろ切ったら伸びない方がラクでは?
「それにしてもなんて綺麗な銀髪……!」
「長いと一層美しさが引き立ちますわね」
「まるで月光をまとっているかのようですわ」
レモと侍女二人はワーキャー言いながら、俺の髪をいじり始めた。女性三人に囲まれてうれしいような――
「耳も隠れるしツインテール一択よ」
「ドレスとおそろいのリボンにしましょう!」
「わぁ見て、かわいいっ!」
「銀髪にアクアグリーンが良く映えて素敵ですこと」
「やっぱり前髪作りましょうよ」
「賛成! あどけない印象になって似合いますわ!」
などという会話を聞くと、男としてかっこいいとは欠片も思われていなくて悲しいような――
「「「出来上がりっ!」」」
三人が声をそろえた。
「どうかしら? ジュキ、鏡で確認してみて」
ついにこのときがやってきてしまった。レモに手を引かれ、俺は大きな姿見の前に立たされた。
「ほら、うつむいてないで顔あげて」
俺は恐る恐る鏡に視線を向けた。
-----------------
鏡をのぞいたジュキは、女の子になった自分の姿に何を思うのか!?
次回に乞うご期待!
俺たちは公爵夫人と話し合い、日暮れと共に出発することとなった。紋章の入っていない質素な馬車や信頼のおける御者は、公爵夫人のほうで手配してくれるとのこと。
「あなたたちの支度は午後からでいいから、夜通しの旅にそなえてゆっくり休んでおいてね」
と、あたたかい言葉をかけてくださった。
俺は自室として与えられた控えの間に引っ込むと、久しぶりに趣味の作曲でもしようと楽な服に着替え、竪琴片手にベッドの上であぐらをかいた。
「ジュキ、そろそろ支度するわよ」
いつの間にか竪琴をかかえたまま、うたた寝していた俺はレモのささやき声で目を覚ました。彼女の手のひらがやさしく俺の銀髪をなでる。
「ん……」
うっすらと目を開けると、窓から差し込む午後の日差しの中、腕に大きなドレスをかけたレモが立っている。絹地は日差しを受けてパールホワイトに輝き、どこについているデザインかは分からないが、アクアグリーンのリボンが垂れ下がっているのが見えた。
「それ着ていくのか? 似合うんじゃね?」
目をこすりながらベッドの上に身を起こすと、レモがクスッと笑った。
「?」
ちょっと首をかたむけて見上げる俺に、
「ジュキが着るのよ」
と笑った。
「あ……」
忘れてた。男子禁制の聖堂に入るために、変装しなきゃいけないんだっけ。
「でもどうせ隠れて行くなら、男の恰好でもよくね?」
「うーん……」
レモはしらじらしく眉根を寄せて、
「でもお母様は、次期聖女候補のレモネッラとその侍女ジュリアがうかがうって手紙に書かれたそうだし――」
「ジュリア?」
「ジュキの偽名よ。決めておいた方が便利でしょ。それにイーヴォたちの攻撃が力不足で瑠璃石の周りは被害がないのに瑠璃石だけ破壊されていた場合、お妃さまが男と分かってジュキを聖堂に入れていたって知れたら大変だわ」
これはどうやら、十六年来の因縁の相手と女装してまみえるという事態は避けられなさそうだ。
俺はこのとき、自分だとバレないことが身を救うなんて考えもしなかった。
「仕方ねぇな」
つぶやきながらガウンを脱ぎ、レモに背中を向けて着替えようとする。
「ジュキったら、お昼寝のためにわざわざナイトウェアに着替えてたのね。その上からコルセットつければちょうどいいから、着替えないで私の部屋に来てちょうだい」
白いグローブだけはめて、ひざ下まであるリネンのナイトウェアのままレモの部屋に入ると、侍女が二人待機していた。一人はいつも食事を持ってきてくれる娘だ。
「お待ちしておりました! ジュキエーレさん!」
「かわいくして差し上げますからねぇ~~!」
目を輝かせるな。
「まずはコルセットです。両手を前に伸ばしてくださいな」
コルセットに腕を通すと侍女がうしろに回り、ひもを通してゆく。
レモは猫足の椅子に座って楽しそうに眺めている。
「あんまりきつくしめないであげてね。歌うとき苦しいとかわいそうだから」
「かしこまりました、レモネッラ様。昨日の演奏会、素晴らしかったですものね!」
彼女たちも聴きにきてくれたんだ。俺はうれしくなって、
「ありがとう」
と礼を言った。
「ロジーナ様が専属歌手としてお雇いになればいいのに!」
侍女の言葉につい、
「えぇ……俺ひとっところに閉じ込められてんのとか無理」
本音をもらすとレモが、
「音楽家と貴族が交わす契約って、一年のあいだに何ヶ月は旅に出て良いとか取り決めがあるものなのよ」
と教えてくれる。世の中には俺の知らない世界があるもんだ。
一方の侍女がコルセットの形を整え、もう一人がうしろからひもを引く。
「ジュキエーレさん華奢に見えるけど、やっぱり男の方ですわね。胸郭の厚みが全然違いますわ」
子供のころからずっと歌ってきたから、胸郭が発達してるってのもあるかも知れない。
「次はこちらを――」
侍女が差し出したペチコートを見て、何か思い出したのかレモが、
「ちょっと待って」
と立ち上がった。
「ジュキ、亜空間収納は?」
「部屋のベッドサイドに置いてあるよ」
「ペチコートの下につけておいた方が便利よ」
確かに。ペチコートもその上に重ねるスカートも横に切れ目が入っていて、中に巻いた亜空間収納に手が届く仕組みだ。
レモが持ってきてくれた亜空間収納を腰につけると、侍女が頭からペチコートをかぶせて、へそのあたりでひもを結んでくれる。腰のうしろにパニエをつけたあとで、パールホワイトに輝く絹地がふんだんに使われたスカートを着せられた。
「絹のスカーフで首元を隠しましょうね」
スカーフのはしをコルセットの中に差し込んで固定してから、スカートと同じ絹地で織られた長袖の上着を羽織る。アクアグリーンのリボンはこの服についていた。侍女が俺の胸元でリボンを結ぶのを眺めながらレモが、
「ジュキの瞳の色に似合うかなと思って選んだのよ」
と満足そうにほほ笑んだ。大好きなレモが俺のために選んでくれた服だと思うと、女性のドレスにも抵抗がなくなってくる。
「お着替えは終わりです。素敵ですわ」
侍女が一歩下がって、やさしい瞳で俺をうっとりとみつめた。もう一人の侍女も、
「まあ、かわいらしい! よかった、違和感ありませんわね」
と安堵した顔。レモは、うんうんとうなずきながら、
「そりゃそうよ。お母様のお墨付きだもん」
俺のまわりをぐるっと一周する。
「お化粧されるのでしたっけ? 真っ白いお肌でおしろいなんて必要ないように見えるのですが」
侍女がレモの指示をあおぐと、
「それが人族に見えないって本人が気にしてるのよ」
「レモネッラ様がおしろい塗れば差が出ないのでは?」
「え。私、肌になんか塗りたくるの嫌いなんだもん」
なんつー貴族だ。
「でもまあレモは、そのまんまでじゅうぶんかわいいからな」
「ジュキだってそのまんまでじゅうぶんかわいいわよ?」
返しがおかしいだろ。ありがと、とか言ってほほ笑んでくれたらいいのに。と思いつつ俺、結局レモのこういう天衣無縫なところに惹かれてるんだと思う。
「ジュキエーレさん、目を閉じて」
椅子に座らされ、言われるままに目をつむる。俺の額に大きなメイクブラシでファンデをはたきながら、侍女が感心したようにため息をついた。
「竜人族の男の子ってこんなに綺麗なんですね。これまでの人生で私、竜人族の方を見かける機会がなかったから、昨日の演奏会で驚いてしまいましたわ」
するとレモが冷静な声で突っ込んだ。
「あ。熊みたいのもいるわよ? ネズミとか。ジュキは特別なの。ト、ク、ベ、ツ!」
いつ目を開けていいのか分からない俺は、目を閉じたままチークをつけてもらいながらドキドキしていた。レモが俺を特別だって言ってくれたから……!
俺の血色のない白い唇に、筆でルージュを乗せ終わった侍女が、
「できました! 目を開けて下さいな、ジュキエーレさん」
緊張したけど筆やブラシの感触がちょっと気持ちよかったな、などと思いながらそっと目を開ける。
「きゃーっ! かっわいーっ!!」
「大変! 美少女すぎてレモネッラ様が霞んでしまいますわ!」
大騒ぎする侍女たち。
「そ、それはないよ……」
小声で否定する俺は、怖くて鏡をのぞけない。
「どれどれ、見てやろうじゃないの」
椅子から立ち上がったレモが、挑戦的な笑みを浮かべてやってきた。恥ずかしくて目を伏せる俺を下からのぞきこむと、
「――ハッ! これは私も嫉妬しちゃうくらい美人さんね! 食べちゃいたいわ!」
野生動物のようにギラギラと目を輝かせる。さっきから俺の好きな人の反応がおかしいんですが……
「俺、目つき悪いから女の子になんか見えないよ……」
不安な気持ちでつぶやくと、
「そんなことないわよ。こまっしゃくれたガキって感じで抱きしめたくなっちゃうわ!」
その感覚がよく分かんねえ……
「それよりジュキ、せっかくかわいい恰好してるんだから『俺』とか言わないの。あともうちょっと高い声でしゃべりなさい」
「そうですよ、ジュキエーレさん! 歌うときはあんなに高い声出るじゃないですか!」
それはしゃべるときと発声が違うからなんだ。無茶ぶりしないでくれ。
「髪の毛はどうしましょう?」
もう一人の侍女がレモに尋ねた。
「あードラゴンのかわいいお耳を隠さなきゃいけないのよ。帽子とかかつらとか使わないと難しいかしら?」
「それなら俺、髪伸ばせるよ」
「「「は?」」」
三人の目が点になった。これは実際にやってみせたほうが早いな。
俺は目を閉じ、胸の竜眼のあたりに意識を集中する。このあいだねえちゃんに見せたときみたいに膝下まで伸びても困るので、精霊力を抑えつつ注意深く解放してゆく。
「ジュキのまわりに銀色の光が――」
「ま、まぶしっ」
「きゃあっ」
もういいかな? 目をひらくと光が収まっていくところだった。
「これくらいの長さがあればアレンジできるかな?」
俺の言葉に、顔を覆っていた手をずらしたレモたちが、唖然とした。
「髪の長さを変えられるの!?」
「うそっ、自由自在に!?」
「うらやましいですわ!」
口々に騒ぐ彼女たち。縮めることはできないから自由自在ではないんだよな。
「伸ばせるだけだから」
「それでもうらやましいわ!」
そういうものなのか? むしろ切ったら伸びない方がラクでは?
「それにしてもなんて綺麗な銀髪……!」
「長いと一層美しさが引き立ちますわね」
「まるで月光をまとっているかのようですわ」
レモと侍女二人はワーキャー言いながら、俺の髪をいじり始めた。女性三人に囲まれてうれしいような――
「耳も隠れるしツインテール一択よ」
「ドレスとおそろいのリボンにしましょう!」
「わぁ見て、かわいいっ!」
「銀髪にアクアグリーンが良く映えて素敵ですこと」
「やっぱり前髪作りましょうよ」
「賛成! あどけない印象になって似合いますわ!」
などという会話を聞くと、男としてかっこいいとは欠片も思われていなくて悲しいような――
「「「出来上がりっ!」」」
三人が声をそろえた。
「どうかしら? ジュキ、鏡で確認してみて」
ついにこのときがやってきてしまった。レモに手を引かれ、俺は大きな姿見の前に立たされた。
「ほら、うつむいてないで顔あげて」
俺は恐る恐る鏡に視線を向けた。
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