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Ⅴ、敵は千二百年前の大聖女
51、瑠璃石の正体
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「一点の曇り無き刃よ、瑠璃石を断ち斬れ!」
俺は氷のつるぎを真上から振り下ろした。
ピシッ―― カーン!
鈴の音よりもっと高い音が響いて、瑠璃石はあっけなく二つに割れてしまった。
「なんも起こんねーじゃん……」
がっかりしてつぶやいたとき、そいつはやって来た。
風もないのにロウソクの火がいっせいに揺れる。頭で理解するより早く、背中に悪寒が走った。
『何をした、小娘!?』
怒りの感情が俺の意識に話しかけてくる。
一瞬前までこの空間には何もいなかった。だが瑠璃石を割った直後、どこからともなくあらわれたのだ――生霊か霊魂か、シャーマンではない俺には分からない。
「お前は誰だ? ラピースラ・アッズーリなのか?」
竜眼が、その魂の位置を感じ取る。肉眼では見えないそいつに向かって、俺は問いかけた。
『我の姿が視えるのか!?』
その魂のようなものは驚きの声をあげた。
『なぜじゃ? 霊能力を持っているようには見えぬが――』
怪訝そうな雰囲気が伝わってくる。
『もしやおぬし、忌まわしき竜眼の持ち主!?』
全身の毛を逆立てた獣のごとく、それは突然俺にぶつかって来た。
「来るなっ!」
本能的に危険を察知して、俺は全身から精霊力を放出した。
『くっ』
ひるんで遠ざかる霊魂。
『おぬしその力、精霊王の末裔か!? 何があって封印が解けた!?』
正体バレたか!? とりあえずシラを切ってみよう。
「なんの話? 人族でも魔力量が多い者はいるのに……」
レモが有する三万越えの魔力量は、明らかに一般的な竜人族をしのいでいるんだから嘘じゃない。
『もう一度封印すれば良いだけじゃ!』
「なぜあんたは、精霊王の末裔の力を封印したいんだ?」
俺は一番気になっていることを尋ねた。
『決まっているじゃないか! 四大精霊王と同等の精霊力を持つんじゃぞ!? そのうえ我が封印した白竜の封印を解く力もある』
ん? 俺、ドラゴネッサばあちゃんの封印、解いてあげられるのか!?
『とにかく危険極まりないんじゃ、あの男は! ――って男?』
魂は観察するように俺の目の前に浮かんだ。
『おぬし、女子じゃな?』
魂状態のくせに俺の女装を見破れないんだな。
「そ、そうよ! わたくしはロジーナ様の侍女ですの!」
いきなり女性言葉を使い出す俺。我ながら怪しい。
『ロジーナ―― ああ、ロベリアの姉か。瑠璃石を破壊するため、魔力量の多い者を侍女として雇ったのじゃな』
おお、信じた。
『許さぬぞ。留守中に我の帰る場所を破壊しおって!』
「だってあんたがロジーナ様に、妹を返してほしいなら瑠璃石を壊せって言ったんだろ?」
つい口調が戻る俺。
『ロベリアの魂など食らい尽くしてしまったわ! 真実を隠し崇拝の名のもとに千年以上、我を封印してきたおぬしらには瑠璃石を壊すなどとても出来ぬだろうから、からかっただけじゃよ。アハハ!』
自暴自棄とも思える笑い声。
「誰が何のために、あんたを封印したんだ?」
『忌々しき三人の姉じゃ。小娘よ、我に同情してくるか? いとしいアビーゾ様復活のために手を貸してくれるなら、瑠璃石を壊したことは水に流してやろう』
マジで魔神復活が望みなのか、こいつは……
『最近ではもっぱら人間の身体を借りて、瑠璃石に戻っておらんかったしな。ロベリアとやらの肉体が朽ち果てる前にあと三体の精霊王を封印して、アビーゾ様を深海から解放して差し上げればよいだけじゃ』
「なんのためにアビーゾの復活を?」
『愛おしい方がそれを望んでいるからじゃよ。あの方は自由になったら我と連れ添い、異界に連れてゆくと約束してくれたのじゃ』
ラピースラ・アッズーリの魂は夢見る乙女のような口調で答えた。なんでここまでアビーゾに入れ上げてしまったのだろう?
『異界へ旅立つ前に、我を苦しめたこの世界を壊してやるのじゃ。ああ楽しみじゃ……』
やっぱりこれは倒すしかないな。
「この世界を壊すなんて計画には乗れねぇよ」
『ふむ、交渉決裂じゃな。おぬしほどの力を持つ者ならば帝都に連れて行き、我がアカデミーの幹部にしてやっても良いと思ったが――』
「帝都? アカデミー?」
ちょっと待て。こいつロベリアの姿のまま、まさか人間の仲間を増やしてるんじゃないだろうな!?
『今ここで死ぬおぬしに教える必要はない』
言うや否や、猛烈な速さで突進してきた。いや、瞬間移動かも知れない。
俺は右手に持ったままのダイヤモンドのつるぎを一閃させると同時に、大きく後ろへ飛んで祭壇から飛び降りた。
『無駄じゃよ。実体のない我につるぎの攻撃など効かぬ』
それなら、つるぎに精霊力を乗せるだけだ。
「破っ」
ラピースラ・アッズーリの魂へ向けて振り下ろしたダイヤモンドの刃から、目に見えぬ衝撃波が放たれる。
そのとき扉があいてレモが入ってきた。
「みんな無事逃げたわ――ってジュキ、何と戦って――」
言いかけたレモを抱きしめ、その場から飛ぶ。
「ラピースラ・アッズーリの魂が出た!」
「ええっ!? そんなお化けが出たみたいに……」
いや、まさしくお化けが出たに等しいんだが。
「破ぁっ!」
ふたたびつるぎを振り、衝撃波をたたきこむ。
「私にはどこにいるか全然分からないわ……」
俺の腕の中でレモが愕然としている。確かに俺も肉眼でラピースラをとらえることはできない。
「安心しろ、俺があんたを守ってあいつを倒す!」
「いいえ、見えないならこの空間全部を浄化するだけよ」
レモは印を結び、聖なる言葉を唱えだした。
「迷える魂よ、汝を地上に留める柵今解かれ、遥かなる空へ――」
『させるかっ!』
ラピースラの魂が気炎を吐いた。次の瞬間――
俺の腕の中でレモがかくっと首を落とす。
「レモに何をした!?」
「くはははは! 取り憑いてやったわ!」
その声はレモ自身の口から出た。竜眼で見回しても、空間のどこにもラピースラ・アッズーリの魂は見当たらなかった。
-----------------
「ええっ レモネッラ嬢、どうなっちゃうんだ?」
「ジュキがレモに攻撃できるとは思えないしなあ」
「どうやってレモを助けるんだろう?」
等々、続きが気になりましたらしおりをはさんでお待ちください☆
俺は氷のつるぎを真上から振り下ろした。
ピシッ―― カーン!
鈴の音よりもっと高い音が響いて、瑠璃石はあっけなく二つに割れてしまった。
「なんも起こんねーじゃん……」
がっかりしてつぶやいたとき、そいつはやって来た。
風もないのにロウソクの火がいっせいに揺れる。頭で理解するより早く、背中に悪寒が走った。
『何をした、小娘!?』
怒りの感情が俺の意識に話しかけてくる。
一瞬前までこの空間には何もいなかった。だが瑠璃石を割った直後、どこからともなくあらわれたのだ――生霊か霊魂か、シャーマンではない俺には分からない。
「お前は誰だ? ラピースラ・アッズーリなのか?」
竜眼が、その魂の位置を感じ取る。肉眼では見えないそいつに向かって、俺は問いかけた。
『我の姿が視えるのか!?』
その魂のようなものは驚きの声をあげた。
『なぜじゃ? 霊能力を持っているようには見えぬが――』
怪訝そうな雰囲気が伝わってくる。
『もしやおぬし、忌まわしき竜眼の持ち主!?』
全身の毛を逆立てた獣のごとく、それは突然俺にぶつかって来た。
「来るなっ!」
本能的に危険を察知して、俺は全身から精霊力を放出した。
『くっ』
ひるんで遠ざかる霊魂。
『おぬしその力、精霊王の末裔か!? 何があって封印が解けた!?』
正体バレたか!? とりあえずシラを切ってみよう。
「なんの話? 人族でも魔力量が多い者はいるのに……」
レモが有する三万越えの魔力量は、明らかに一般的な竜人族をしのいでいるんだから嘘じゃない。
『もう一度封印すれば良いだけじゃ!』
「なぜあんたは、精霊王の末裔の力を封印したいんだ?」
俺は一番気になっていることを尋ねた。
『決まっているじゃないか! 四大精霊王と同等の精霊力を持つんじゃぞ!? そのうえ我が封印した白竜の封印を解く力もある』
ん? 俺、ドラゴネッサばあちゃんの封印、解いてあげられるのか!?
『とにかく危険極まりないんじゃ、あの男は! ――って男?』
魂は観察するように俺の目の前に浮かんだ。
『おぬし、女子じゃな?』
魂状態のくせに俺の女装を見破れないんだな。
「そ、そうよ! わたくしはロジーナ様の侍女ですの!」
いきなり女性言葉を使い出す俺。我ながら怪しい。
『ロジーナ―― ああ、ロベリアの姉か。瑠璃石を破壊するため、魔力量の多い者を侍女として雇ったのじゃな』
おお、信じた。
『許さぬぞ。留守中に我の帰る場所を破壊しおって!』
「だってあんたがロジーナ様に、妹を返してほしいなら瑠璃石を壊せって言ったんだろ?」
つい口調が戻る俺。
『ロベリアの魂など食らい尽くしてしまったわ! 真実を隠し崇拝の名のもとに千年以上、我を封印してきたおぬしらには瑠璃石を壊すなどとても出来ぬだろうから、からかっただけじゃよ。アハハ!』
自暴自棄とも思える笑い声。
「誰が何のために、あんたを封印したんだ?」
『忌々しき三人の姉じゃ。小娘よ、我に同情してくるか? いとしいアビーゾ様復活のために手を貸してくれるなら、瑠璃石を壊したことは水に流してやろう』
マジで魔神復活が望みなのか、こいつは……
『最近ではもっぱら人間の身体を借りて、瑠璃石に戻っておらんかったしな。ロベリアとやらの肉体が朽ち果てる前にあと三体の精霊王を封印して、アビーゾ様を深海から解放して差し上げればよいだけじゃ』
「なんのためにアビーゾの復活を?」
『愛おしい方がそれを望んでいるからじゃよ。あの方は自由になったら我と連れ添い、異界に連れてゆくと約束してくれたのじゃ』
ラピースラ・アッズーリの魂は夢見る乙女のような口調で答えた。なんでここまでアビーゾに入れ上げてしまったのだろう?
『異界へ旅立つ前に、我を苦しめたこの世界を壊してやるのじゃ。ああ楽しみじゃ……』
やっぱりこれは倒すしかないな。
「この世界を壊すなんて計画には乗れねぇよ」
『ふむ、交渉決裂じゃな。おぬしほどの力を持つ者ならば帝都に連れて行き、我がアカデミーの幹部にしてやっても良いと思ったが――』
「帝都? アカデミー?」
ちょっと待て。こいつロベリアの姿のまま、まさか人間の仲間を増やしてるんじゃないだろうな!?
『今ここで死ぬおぬしに教える必要はない』
言うや否や、猛烈な速さで突進してきた。いや、瞬間移動かも知れない。
俺は右手に持ったままのダイヤモンドのつるぎを一閃させると同時に、大きく後ろへ飛んで祭壇から飛び降りた。
『無駄じゃよ。実体のない我につるぎの攻撃など効かぬ』
それなら、つるぎに精霊力を乗せるだけだ。
「破っ」
ラピースラ・アッズーリの魂へ向けて振り下ろしたダイヤモンドの刃から、目に見えぬ衝撃波が放たれる。
そのとき扉があいてレモが入ってきた。
「みんな無事逃げたわ――ってジュキ、何と戦って――」
言いかけたレモを抱きしめ、その場から飛ぶ。
「ラピースラ・アッズーリの魂が出た!」
「ええっ!? そんなお化けが出たみたいに……」
いや、まさしくお化けが出たに等しいんだが。
「破ぁっ!」
ふたたびつるぎを振り、衝撃波をたたきこむ。
「私にはどこにいるか全然分からないわ……」
俺の腕の中でレモが愕然としている。確かに俺も肉眼でラピースラをとらえることはできない。
「安心しろ、俺があんたを守ってあいつを倒す!」
「いいえ、見えないならこの空間全部を浄化するだけよ」
レモは印を結び、聖なる言葉を唱えだした。
「迷える魂よ、汝を地上に留める柵今解かれ、遥かなる空へ――」
『させるかっ!』
ラピースラの魂が気炎を吐いた。次の瞬間――
俺の腕の中でレモがかくっと首を落とす。
「レモに何をした!?」
「くはははは! 取り憑いてやったわ!」
その声はレモ自身の口から出た。竜眼で見回しても、空間のどこにもラピースラ・アッズーリの魂は見当たらなかった。
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「ええっ レモネッラ嬢、どうなっちゃうんだ?」
「ジュキがレモに攻撃できるとは思えないしなあ」
「どうやってレモを助けるんだろう?」
等々、続きが気になりましたらしおりをはさんでお待ちください☆
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