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第二章:聖剣編/Ⅰ、豪華客船セレニッシマ号
03★イーヴォ、新生グレイトドラゴンズを結成! するも一瞬で終了
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十日ほど前、イーヴォとニコは聖ラピースラ王国の聖堂を破壊した罪で、王城地下牢に収監された。
二人はそれぞれ別の独房に入れられ、首には魔力使用を阻害する首枷がはめられたが、そんなことでめげるイーヴォではない。火魔法をギフトに持つ彼は、鍛冶職人である父親から教わった金属加工魔術を使い続け、五日後、首枷をはずすことに成功した。
(魔法さえ使えればこっちのものさ)
と彼は思っていた。
夜中、金属加工魔術で足枷と独房の鍵をはずすと、ゆっくり格子戸を押して通路に出た。
「暗くてなんも見えねぇや。――光明!」
手のひらの上にぼんやりと魔法の明かりを灯すと、となりの牢の囚人が目を覚ました。
「こんな時間に見回りか?」
「やべっ」
石壁がむき出しの廊下を走って逃げようとすると、格子から太い腕が伸びてきた。
「待てよ、お前も囚人じゃねぇか! おーい、脱獄――」
「しっ、静かにしてくれよ!」
イーヴォは慌てた。
「なんで俺様の脱獄邪魔すんだよ! 心のせまいやつだな!」
心の広い囚人など、そうそうお目にかかれないだろうが。
「オレも連れてけよ」
格子戸から伸ばした手でイーヴォの腕をむんずとつかんで、男は凄みをきかせた。
「なんで――」
「断ったら大声で叫ぶぞ」
「分かった。だが条件がある。リーダーは俺様だ」
「あ? お前、盗賊団の首領かなんかか?」
「違う。俺様はヴァーリエの冒険者ギルドに登録していたSランクパーティ『グレイトドラゴンズ』のリーダーだ」
イーヴォはまだ自分がSランクのつもりでいた。
「ヴァーリエってぇと、あれか。亜人族の都か」
男は面白くもなさそうに鼻の上にしわを寄せて、
「亜人は気に食わねぇが強いんだよな。ヴァーリエでSランクなら相当の実力者だったんだろ、おめぇ。いいだろう。オレもかつては剣を振るってた身だ。お前がリーダーを務めるパーティに加入しよう」
「よし、話は決まったな」
イーヴォは男の牢の鍵も開けてやった。
「俺様の子分二人がこの地下のどっかにいるんだ。やつらを見つけてとんずらするぜ」
イーヴォはサムエレも一緒に捕まったはずだと信じていた。
二人が通路を進み始めたとき、向かいの独房から――
「おいおい、そういうことならオレも混ぜてくれよ」
と、しゃがれた声が聞こえた。
「オレも酒におぼれる前は、傭兵家業で槍を振り回してたんだぜ」
そんなやり取りが繰り返され、離れた独房で熟睡していたニコを見つけるまでには、ほとんどの囚人が自由になっていた。
「しゅ、集団脱獄だぁぁっ!!」
見張りの兵士が上げた叫び声は、月さえまどろむ夜更けの空に響き渡った。
囚人たちは武器を持っていないとはいえ、魔法を使う者もいる。全員を獄に戻すには人数が多すぎた。
表向き攻撃魔法を禁止している聖ラピースラ王国の「守護兵」たちの活躍で数が半減したとはいえ、半刻後――
攻防戦のすえ逃げ延びた囚人たちは、城壁の外に広がる林に集まっていた。彼らの足元の地面がぼこっと盛り上がり、ニコの穴掘り魔術で逃げたイーヴォたちが姿をあらわした。
「残ったのはこれだけか」
穴から出てきたイーヴォは、十人近い男たちを見回した。
「ここに新生グレイトドラゴンズの結成を宣言する!」
「「「うおおおっ!」」」
野太い声が唱和して、寝静まった木々の幹を揺らす。
「イーヴォさん、とりあえずどこに行くんスか?」
ニコの問いに、
「まず金が必要だ。クロリンダ嬢に依頼達成を報告して報酬を受け取るため、アルバ公爵領へ行く」
イーヴォは自信たっぷりに答えた。レモネッラ嬢の「口からでまかせ」にだまされているなんて、彼は露ほども思わなかった。
「それにアルバ公爵邸に行けば、サムエレとも合流できるかも知れないしな。あいつ、地下牢に姿がなかったからうまいこと逃げたんだろう」
ついでにサムエレがグルだとも予想だにしない。
「金が必要なら――」
イーヴォのとなりの牢にいた男が提案した。
「街道で旅人待ち伏せしたほうが早いだろ。なんでわざわざ危険を冒して公爵邸なんかに行くんだよ、イーヴォの坊っちゃん」
「坊ちゃんじゃねぇよ、クソが」
小馬鹿にした物言いに、イーヴォは声を荒らげた。
「俺様のことはイーヴォさんと呼びやがれ!」
「ガキのくせに生意気なんだよ!」
ごすっ
男の拳がイーヴォの顔面をとらえた。
「おい、よけろよ」
若干戸惑う男。まさか真正面から受けるとは思わなかったのだ。よけられなかっただけなのだが。
「殴りやがったな? 俺様を……! 聞け、火の精――」
足もとをにらんだまま、イーヴォは呪文を唱えだした。
「や、やべぇ! 竜人が火属性の攻撃魔法を使うぞ! おいやめろって――」
おびえた男のパンチがまたもやイーヴォの口もとを直撃した。
「こいつ……実は弱いんじゃねーか!?」
「お、思い出したぞ!!」
大声を出したのは、モヒカン頭に鼻ピアスという壊滅的なファッションセンスの男。
「この二人、あっしたちがふん縛った旅人じゃねぇか!」
「ああ! 赤髪と黒髪と金髪の竜人三人組!」
「そうそう、忘れてたぜ。直後にめちゃくちゃかわいい銀髪とピンク髪の女に会ったから、記憶がぶっ飛んでたわ」
「あの銀髪美少女にわけ分かんねえ術で氷漬けにされたんだよな」
「それな。凍りついてるとこ翌朝通りすがりの行商人に通報されて一命を取りとめたものの、投獄されちまったわけだからな」
「あの子の猫みたいなエメラルドの瞳でにらまれると、腰のあたりがゾクゾクして奮い立つようだったぜ」
「それってもしや――」
顔面を腫らしたイーヴォが、かすれた声でつぶやいた。
「俺様のジュリア――」
「何が俺様の、だ! おめぇみてぇなザコに彼女は振り向かねえよ!」
ドゴォ!
また意味もなく殴られるイーヴォ。
「この生意気な竜人、リンチにしてやろうぜ!」
「いいなそれ! 囚人生活でなまってたから、ちょうどいい運動だぜ!」
日頃の行いが悪いせいか、脱獄させてやったにも関わらず、気の荒い囚人たちのサンドバッグになるイーヴォ。
ひとしきり殴ったところで気が済んだのか、彼らは林の闇に消えていった。
残ったのはイーヴォがいなきゃ何も決められないニコ一人。土魔法で穴を掘って隠れていた彼は、ちゃっかり無傷だった。
「く、くそーっ! 人をコケにしやがって! 俺様の恐ろしさを思い知らせてやる!」
ボロボロになったイーヴォはゆらりと立ち上がった。
「まあとにかくアルバ公爵領へ急ぎましょう、イーヴォさん」
ポジティブ思考が突き抜けているイーヴォと違ってニコは、自分たちの実力に気付きつつあった。
二人はもちろん、クロリンダ嬢が公爵邸の北の塔に幽閉されているとは知らない。そもそも脱獄犯がノコノコ公爵邸へ向かうなんて間抜けな旅は、サムエレがいたら止めていただろう。
-----------------
汗臭い囚人たちの乱闘とは大違い、次回は優雅な豪華客船に戻ります!
美少女公爵令嬢と二人で、デッキから沿岸の街並みを眺めましょう☆
二人はそれぞれ別の独房に入れられ、首には魔力使用を阻害する首枷がはめられたが、そんなことでめげるイーヴォではない。火魔法をギフトに持つ彼は、鍛冶職人である父親から教わった金属加工魔術を使い続け、五日後、首枷をはずすことに成功した。
(魔法さえ使えればこっちのものさ)
と彼は思っていた。
夜中、金属加工魔術で足枷と独房の鍵をはずすと、ゆっくり格子戸を押して通路に出た。
「暗くてなんも見えねぇや。――光明!」
手のひらの上にぼんやりと魔法の明かりを灯すと、となりの牢の囚人が目を覚ました。
「こんな時間に見回りか?」
「やべっ」
石壁がむき出しの廊下を走って逃げようとすると、格子から太い腕が伸びてきた。
「待てよ、お前も囚人じゃねぇか! おーい、脱獄――」
「しっ、静かにしてくれよ!」
イーヴォは慌てた。
「なんで俺様の脱獄邪魔すんだよ! 心のせまいやつだな!」
心の広い囚人など、そうそうお目にかかれないだろうが。
「オレも連れてけよ」
格子戸から伸ばした手でイーヴォの腕をむんずとつかんで、男は凄みをきかせた。
「なんで――」
「断ったら大声で叫ぶぞ」
「分かった。だが条件がある。リーダーは俺様だ」
「あ? お前、盗賊団の首領かなんかか?」
「違う。俺様はヴァーリエの冒険者ギルドに登録していたSランクパーティ『グレイトドラゴンズ』のリーダーだ」
イーヴォはまだ自分がSランクのつもりでいた。
「ヴァーリエってぇと、あれか。亜人族の都か」
男は面白くもなさそうに鼻の上にしわを寄せて、
「亜人は気に食わねぇが強いんだよな。ヴァーリエでSランクなら相当の実力者だったんだろ、おめぇ。いいだろう。オレもかつては剣を振るってた身だ。お前がリーダーを務めるパーティに加入しよう」
「よし、話は決まったな」
イーヴォは男の牢の鍵も開けてやった。
「俺様の子分二人がこの地下のどっかにいるんだ。やつらを見つけてとんずらするぜ」
イーヴォはサムエレも一緒に捕まったはずだと信じていた。
二人が通路を進み始めたとき、向かいの独房から――
「おいおい、そういうことならオレも混ぜてくれよ」
と、しゃがれた声が聞こえた。
「オレも酒におぼれる前は、傭兵家業で槍を振り回してたんだぜ」
そんなやり取りが繰り返され、離れた独房で熟睡していたニコを見つけるまでには、ほとんどの囚人が自由になっていた。
「しゅ、集団脱獄だぁぁっ!!」
見張りの兵士が上げた叫び声は、月さえまどろむ夜更けの空に響き渡った。
囚人たちは武器を持っていないとはいえ、魔法を使う者もいる。全員を獄に戻すには人数が多すぎた。
表向き攻撃魔法を禁止している聖ラピースラ王国の「守護兵」たちの活躍で数が半減したとはいえ、半刻後――
攻防戦のすえ逃げ延びた囚人たちは、城壁の外に広がる林に集まっていた。彼らの足元の地面がぼこっと盛り上がり、ニコの穴掘り魔術で逃げたイーヴォたちが姿をあらわした。
「残ったのはこれだけか」
穴から出てきたイーヴォは、十人近い男たちを見回した。
「ここに新生グレイトドラゴンズの結成を宣言する!」
「「「うおおおっ!」」」
野太い声が唱和して、寝静まった木々の幹を揺らす。
「イーヴォさん、とりあえずどこに行くんスか?」
ニコの問いに、
「まず金が必要だ。クロリンダ嬢に依頼達成を報告して報酬を受け取るため、アルバ公爵領へ行く」
イーヴォは自信たっぷりに答えた。レモネッラ嬢の「口からでまかせ」にだまされているなんて、彼は露ほども思わなかった。
「それにアルバ公爵邸に行けば、サムエレとも合流できるかも知れないしな。あいつ、地下牢に姿がなかったからうまいこと逃げたんだろう」
ついでにサムエレがグルだとも予想だにしない。
「金が必要なら――」
イーヴォのとなりの牢にいた男が提案した。
「街道で旅人待ち伏せしたほうが早いだろ。なんでわざわざ危険を冒して公爵邸なんかに行くんだよ、イーヴォの坊っちゃん」
「坊ちゃんじゃねぇよ、クソが」
小馬鹿にした物言いに、イーヴォは声を荒らげた。
「俺様のことはイーヴォさんと呼びやがれ!」
「ガキのくせに生意気なんだよ!」
ごすっ
男の拳がイーヴォの顔面をとらえた。
「おい、よけろよ」
若干戸惑う男。まさか真正面から受けるとは思わなかったのだ。よけられなかっただけなのだが。
「殴りやがったな? 俺様を……! 聞け、火の精――」
足もとをにらんだまま、イーヴォは呪文を唱えだした。
「や、やべぇ! 竜人が火属性の攻撃魔法を使うぞ! おいやめろって――」
おびえた男のパンチがまたもやイーヴォの口もとを直撃した。
「こいつ……実は弱いんじゃねーか!?」
「お、思い出したぞ!!」
大声を出したのは、モヒカン頭に鼻ピアスという壊滅的なファッションセンスの男。
「この二人、あっしたちがふん縛った旅人じゃねぇか!」
「ああ! 赤髪と黒髪と金髪の竜人三人組!」
「そうそう、忘れてたぜ。直後にめちゃくちゃかわいい銀髪とピンク髪の女に会ったから、記憶がぶっ飛んでたわ」
「あの銀髪美少女にわけ分かんねえ術で氷漬けにされたんだよな」
「それな。凍りついてるとこ翌朝通りすがりの行商人に通報されて一命を取りとめたものの、投獄されちまったわけだからな」
「あの子の猫みたいなエメラルドの瞳でにらまれると、腰のあたりがゾクゾクして奮い立つようだったぜ」
「それってもしや――」
顔面を腫らしたイーヴォが、かすれた声でつぶやいた。
「俺様のジュリア――」
「何が俺様の、だ! おめぇみてぇなザコに彼女は振り向かねえよ!」
ドゴォ!
また意味もなく殴られるイーヴォ。
「この生意気な竜人、リンチにしてやろうぜ!」
「いいなそれ! 囚人生活でなまってたから、ちょうどいい運動だぜ!」
日頃の行いが悪いせいか、脱獄させてやったにも関わらず、気の荒い囚人たちのサンドバッグになるイーヴォ。
ひとしきり殴ったところで気が済んだのか、彼らは林の闇に消えていった。
残ったのはイーヴォがいなきゃ何も決められないニコ一人。土魔法で穴を掘って隠れていた彼は、ちゃっかり無傷だった。
「く、くそーっ! 人をコケにしやがって! 俺様の恐ろしさを思い知らせてやる!」
ボロボロになったイーヴォはゆらりと立ち上がった。
「まあとにかくアルバ公爵領へ急ぎましょう、イーヴォさん」
ポジティブ思考が突き抜けているイーヴォと違ってニコは、自分たちの実力に気付きつつあった。
二人はもちろん、クロリンダ嬢が公爵邸の北の塔に幽閉されているとは知らない。そもそも脱獄犯がノコノコ公爵邸へ向かうなんて間抜けな旅は、サムエレがいたら止めていただろう。
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