歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

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Ⅱ、道中ザコが襲い来る

18★私は毎瞬、恋に落ちる【レモ視点】

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「俺、先上がってるな」

 ぎゅって抱きしめてくれたのに、私の大好きな人は行ってしまった。

 でも彼の顔、真っピンクになってたもんね。白竜の血筋なんだろうけど、ジュキの肌って白すぎるから赤くならないでピンクに染まるの、いつもかわいいなって思う。きっと、のぼせていたのね。

 私を抱きしめるのが嫌だなんてこと、ないわよね? 私たち、愛し合ってるもんね? 今もまだ、彼が触れてくれたところがやけどしそうに熱いわ――

「レモせんぱい!」

「ひゃぁっ!」

 突然ユリアが私を突き飛ばした。二人で湯の中に沈む。

 私たちが今までいた湯の上を、火の玉がすべって行った。

聞け、風の精センティ・シルフィード――」

 私は水中で呪文を唱える。息を止めていられる間に術を完成させる!

「グヘヘ、オンナダケダ……」

 くぐもった声が頭上から聞こえた。さっき一瞬見えたのは、一匹目と同じトカゲ型モンスターだったはず。でも今度はしゃべるってこと!?

「――汝《なんじ》が息吹《いぶ》き尽くることなく我らを包み、護《まも》りたまえ。風護結界ウインズバリア!」

 ユリアと自分を風の結界で包み、湯面に浮かび上がったとき、

 ゴォォォッ!

 息継ぎに上がってくる私たちを狙っていたかのように、大きな炎が襲い来る。

「うっ……」

 結界を炎が囲み、どんどん熱くなってゆく。そのとき――

「水よ、炎を包みて滅したまえ!」

 凛とした声が響いた。

「ジュキ!」

 部屋の中から飛び出した美麗な姿に、私は思わず彼の名を呼んだ。一つにまとめた銀髪は夜風を受けて、白い翼の上で揺れている。肩から生える枝分かれした角は水晶のよう。うろこに覆われているはずの手足は遠目に見ると陶器のようになめらかで、月光を反射してぬらりと光る。

「やっぱり見間違いじゃなかったか!」

 私たちとモンスターの間に躍り出る彼。一日中一緒にいても、きみの綺麗な声を聞くたび私の心に花が咲き乱れるようだわ。

「凍れる壁よ!」

 私たちを守るように防御氷壁を張った彼に、魔物がたどたどしく話しかける。

オデ……サッキノト違ウ……」

「あ? 見たとこ同じモンスターだけど、さっきのはしゃべらなかったもんな」

オデ……サッキノ見テ学ンダ……」

 同じ術ではやられないってことかしら。

「へぇ、じゃあ試して――」

 ジュキの言葉が終わらないうちに、私は唱えておいた呪文を解き放つ。

鎌渦斬風シクルウィーズル!」

 四方八方から小さな風の刃が襲い来る術だが――

「ガッ、ゴッ!」

 変な叫び声をあげながら盾でガードするが、守りきれていない。とはいえ致命傷にもなっていないか。

「じゃ、俺も―― 汝が体内流れし水よ、絶対零度に迫りてあらゆる動き静止せよ!」

「グオオォォォッ!」

 ボォォォォ……

 なんと巨大トカゲは、自らの身体を炎で包んで体温低下を防いでいる。

「距離を取ろう」

 ジュキがうしろに飛んで私を抱きしめたかと思うと、真っ白い翼を羽ばたいて夜空に駆けあがった。

「凍れるやいばよ、金剛石の如き硬質となりて、我が敵影てきえい貫きたまえ!」

 ジュキがさきほどの必殺技を放つが、トカゲは盾を頭上に持ち上げ防いでしまった。

「へぇ。本当に学習してやがる」

 感心してる場合じゃないでしょって突っ込みたいけど、私を片腕に抱きしめたまま空を飛んで戦うジュキ、かっこいい! 腰布だけの姿も神話に出てくる天使みたいで、なおさら素敵! ドキドキして、いつもみたいに突っ込めないよーっ

「オマエ、ウロコ、オデノ仲間……」

 ジュキを見上げたモンスターがひどいことを言った。

「そんなわけないでしょ!」

 即効、空から怒鳴る私。

「ハッ」

 ジュキは乾いた笑いをもらしただけ。

「オマエ、ヘビノモンスター。ニンゲン守ル……変……」

「っるせーよ」

 口の中で小さくつぶやいた彼の横顔を盗み見る。いつもおっとりしているジュキが、珍しくいら立ってる……。

「この人はドラゴンの血を引いてるの! モンスターじゃないわ! 聖獣の仲間なのよ!」

「違う……と思う……」

「え?」

 思わず訊き返した私に、ジュキは小声で言った。

「俺、あんたの仲間がいい」

「もちろん私の仲間よ! 決まってるでしょ?」

 どうしていいか分からなくて、私は空中で伸びあがって彼の頬にキスした。

「ふふっ」

 笑みをこぼした彼の表情が、少しやわらかくなる。

「オマエ、バケモノ……オデノ仲間、ナレ……」

 カタコトの誘いを、ジュキは笑い飛ばした。

「ハハッ。悪いな、巨大トカゲさんよ。俺はこっち側なんでね!」

 その言葉と同時に、私の肩を抱く腕に力がこもる。

「……愛してる」

 私はジュキの心を守りたくて、彼の色っぽいうなじに頬をすり寄せた。

「ゴガァ!」

 下からトカゲが大量に炎を吐き出す。攻撃方法は一匹目と変わらない。

「凍れる壁よ」

 ジュキは冷静な声で敵の攻撃を防ぐと、私の耳元でささやいた。

「すぐ終わらせる」

 すっと目を細めて魔物に狙いを定める。美しいはずのエメラルドの瞳が一瞬、矢のように冷たい光を放った。

「汝が体内流れし水よ、沸き立ちて灼熱となり、内側より焼き尽くせ」

「グゴワァァァ!」

 魔物が悲鳴をあげる。そうか、水の精霊王である彼は、水を凍らせることもできれば煮え立たせることもできるのだ。

 もがき苦しむ魔物に、とどめを刺した。

「凍れるやいばよ、金剛石の如き硬質となりて、我が敵影てきえい貫きたまえ!」

 夜空に突如現れたダイヤモンドのつるぎが、切っ先を真下に向けて垂直落下する。

「グワッ!」

 最後はあっけなかった。魔物の身体は黒い霞と化し、三つの穢れた魔石を残して消え去った。

「もういねぇだろうな」

 ジュキが胸の竜眼ドラゴンアイをひらいた。金色に輝く大きな眼玉がぎょろりと動き、周囲を確認するさまはなかなか迫力がある。

「三匹目は隠れてなさそう?」

 私の問いに、

「ああ。安心していいよ」

 やわらかい声で答えてくれた。

「怖いもん見せてごめんな」

 一瞬なんのことか分からなかった。彼が竜眼ドラゴンアイをすっと閉じて、意味が分かった。

「怖くないわよ! 私はジュキの全てが愛おしいっていつも言ってるでしょ!」

「……そうだっけ」

 笑いをこらえているような表情。照れ隠しかしら。

 ふわりとテラスに降り立つと、

清浄聖光ルーチェプリフィカ

 今度はちゃんと聖魔法で浄化する私。ジュキに夢中になって気付かず浄化しちゃうなんて、カッコ悪いもんね!

「なんか、クラクラするな……」

 ジュキが片手で額を押さえる。

「大丈夫!? のぼせてるのに動きすぎたのかしら?」

「かもなぁ?」

 一瞬前まで怖いくらいに強い騎士様だったのに、今やそのエメラルドの瞳はとろんとして子供のよう。

「部屋に入って横になった方がいいわ」

 彼の身体を支えながら、ガラス戸を開けて応接間へ――

「ちょっとユリア! ジュキ寝かすからソファからどいてよ!」

「むにゃむにゃ……」

 信じらんない! 私たちが戦ってるあいだ、部屋に戻って寝てたなんて!

 私はソファにジュキを座らせると、

「足上げられる? そうそう、それで横になって――」

 彼の頭を自分の太ももに乗せる。

「ん……わりぃな……」 

 かすれた声で弱々しいことを言われると、抱きしめたい衝動に駆られる。でも今は我慢!

「ユリア、立ったまま寝てないで、水差しから冷たい水を入れて持ってきて。それから羽織るものも」

「ふいーっ」

「まったく……」

 小さなため息つきつつ、まぶたを閉じたジュキを見下ろす。血の気のない唇がかすかに動いた。

「レモ、ありがとな……」

「何言ってるの。当然でしょ」

 私の指先を、彼の手が優しく握った。その手の甲は真っ白いうろこで覆われ、指先には透明なかぎ爪が光っている。

 美しいのに魔物のようでもあり、少女かと思えば少年でもある。あどけなさの残る輪郭には幼さが、でも大人びたまなざしには青年の色香が漂う。

 そんなきみのゆらめく両義性に、私は毎瞬毎瞬、恋に落ちてしまうの。



 ─ * ─



なぜ魔物がしゃべったのか? 次回、ラピースラの研究成果が明らかに!
(敵sideだけど微妙にコメディかも・・・?)
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