歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

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Ⅱ、道中ザコが襲い来る

22、突然のスカウト

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「お嬢さん――」

 答えたのは御者だった。

「一は炎におびえて馬が進めません。たとえ街道に炎が襲ってこなくても、彼らは警戒して足を止めるでしょう」

「じゃ、二で」

 俺は即答して、林に意識を向けた。

「あらゆる水よ、凍てつきたまえ」

 ピシピシ、パキ……

 一気に林が銀世界と化した。

「寒っ!」

 凍りついた林を渡る風が吹いてくるからたまらない。

「は、早いとこ出発してくんな……」

 馬車の天井で林を見張りつつ震えながら、車内のレモから受け取ったマントにくるまる俺に、

「馬は寒さに強いのですよ」

 したり顔の御者。俺は寒さに弱いんだよ!

 しかし――

「だめです! さっきの爆発と蜂の攻撃で、馬がまだ警戒していて進んでくれません!」

 前の馬車から御者が叫んだ。

「レモの風魔法で運べるか?」

 下に向かって尋ねると、

「重さと距離によるけれど――」

 不安そうな声が返ってきた。

「でも、やってみるわ」

「いや、あんたに無理はさせたくない」

 俺は首を振ると、背中の亜空間収納マジコサケットから竪琴を取り出した。

歌声魅了シンギングチャームで馬が落ち着くか、やってみるよ。でもその前に――」

 もう一度、林の方を見つめて、

「解除」

 氷を溶かした。指がかじかんで演奏なんてできないし、冷たい空気を吸いながら歌いたくないからな。

 ドサドサドサ!

 木々の間から巨大な蜂たちが落ちてきた。

「ん? しばらく凍ってたから死んだのか?」

「冬眠しちゃったのかしら?」

 なるほど、レモの言う通りかも知れない。人間である魔物使いがどうなったのか、は考えないでおこう。

 軽くハミングしながら、声に合わせて竪琴を調弦していると、御者が振り返った。

「天使のお嬢さん、音楽で馬を操れるのですか?」

「操るってぇのとはちょっと違うけど―― まあ聴いててよ」

 ウインク一つ、特製グローブをはずしてかぎ爪で優しく弦をなでる。初夏の風にあえかなる音色が乗って、街道の先へとすべってゆく。

「――耳を傾けなさい、心をひらきなさい、我が子供たちよ――」

 俺は静かに歌い始めた。精霊教会の聖歌だが、言葉が伝わらなくても、癒しの旋律がおびえた馬の心を溶かすように……

「――風の音を聞き、水の流れに身をゆだね、
 大地の鼓動にふれ、炎の中に真実を見よ――」

 前の馬車の窓が開いて、男二人が顔を出した。かなり真剣に聴き入ってくれているみたいで、ありがたい。

「――私たちの敬愛する精霊王、私たちはいつも『はい』と答えます――」

 驚いたことに、静寂に支配されていた林に、鳥たちの歌声が戻ってきた。彼らも凍りつかせてしまったんじゃなかったのか?

「――あなたの声を聞き、あなたの言葉に身をゆだね、
 あなたの美しさにふれ、共に真実に生きます――」

 歌声魅了シンギングチャームは、まるで聖魔法のように、瀕死の者をよみがえらせる力まであるのだろうか? いまや鳥たちの美しい合唱が、俺の歌う主旋律にオブリガートをつけてくれる。

「――私たちをお守りください精霊王、
 私たちはあなたのために歌います――」

 雨がやんで虹のかかる青空へ向かって、俺は歌った。俺が一番好きな高音部分だ。凛とした音色が、空の青にとけ一体となってゆく。

「――あなたのために祈ります。
 あなたのために生きて――」

 それから一気にオクターブ下がって、最後のフレーズを付け加える。細心の注意を払って、大切にいつくしむように――

「――眠ります。最後の瞬間ときまで――」

 林の鳥や虫たちまで静かになって、俺の歌を聴いてくれているようだ。

 竪琴で最後の和音をゆっくり、アルペジオで奏でる。

 曲が終わると一瞬の間があって、前の馬車に乗った二人の男が大きな拍手を響かせた。

「素晴らしい! 君の歌声は私の心に染みわたったぞ!」

 小太りの男が馬車の扉を開けて降りてきた。続いて片眼鏡の紳士も、俺たちの馬車の下にやってくる。

「美しき歌姫よ――」

 即興詩でも詠むかのような気取った口調で、

「ぜひ僕の旋律を歌って欲しいものだ」

「え? ということはあなたは――」

「申し遅れました、若き歌姫よ。僕の名はフレデリック。新進気鋭の作曲家です」

 自分で新進気鋭とか言いやがった。それはそうと、レモが芸術家だって予想したのは、あながちはずれてなかったな。

「そして私は帝都にある皇后劇場の支配人、アーロンと申します」

 赤毛の男が横から口を出した。



 ─ * ─



次話『劇場支配人の馬車が襲われた理由』。
「そういえば襲われたのは前の馬車だけだった・・・!?」
その謎をレモが解き明かします。
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