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Ⅱ、道中ザコが襲い来る

26、サムエレ、瘴気の森のゴミとなる

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「フハハハハハ!」

 馬車の窓枠に引っ付いたままのサムエレが、突然高笑いを上げ始めた。大丈夫かこいつ。ショックで気でも違ったか? 惚れた女が、大嫌いな男友達の女装姿だったって、確かに嫌すぎるけどな。

 だが俺の同情は一瞬でくつがえされた。

「ジュキはとうとうふられたか!」

 ん? どういう意味だ?

「だから一緒にいないのですね、レモネッラ様! やったー!」

 涙を流して喜ぶ。俺、こいつのこんな心からの笑顔、初めて見たよ…… ガキの頃から知っているつもりだったが、改めて性格悪いな。びっくりだよ。

「まあ当然ですね! ジュキエーレくんが貴族令嬢と付き合うなんて、おかしいと思っていたんだ!」

 めずらしく大声を出すサムエレに、俺もレモも、ユリアたち三人もあっけにとられる。

「先祖返りだって? ふん! そんなの有難ありがたがられるのは竜人族の村の中だけですよっ! 一歩外へ出たらあの青白い顔と、うろこの生えた手足なんて化け物扱いだろうな!」

 そのバケモンに夢中になってんのは、どこのどいつだよ?

「そのへんにしてもらいましょうか?」

 レモがずいっと顔を近づけた。

「ああレモネッラ様、まだジュキに義理立てしていらっしゃるのですか? それとも同情かな? そうそう、あいつは子供の頃から友だちもいなくて、チビで虚弱で歌うしか能のないかわいそうな奴でしたからね!」

暴風殴ヴァンストライク

 ごすっ!

 風魔法の肉体強化術をかけて放ったレモの拳が、サムエレの顔面をとらえた。

「ぎゃああぁぁぁああぁぁ……」

 あっという間にぶっ飛ばされて、その姿は瘴気の森に消えた。

「レ、レモネッラ嬢、お強いんですね……!」

 イタチ男が震えあがっている。聖女の力を持つ公爵令嬢なんて字面じづらだけ見たら、聖魔法しか使えないおしとやかな令嬢が出てくると思うもんなーっ!

「ユリア様、それでアルジェント卿はどこへ?」

 狐女のほうはなかなか気丈なようで、落ち着いた声でユリアに尋ねた。ちらっと俺を見るユリア。口をひらいたのはレモだった。

「なぜあなたたちはジュキエーレ様を探しているの?」

「レモネッラ様、実はあなたとアルジェント卿を帝都にお連れすると、ミスリル貨三十枚という高額な報酬を受け取れるのです」

 イタチ男が素直に吐いた。そのために、俺たちの顔が確実に分かるサムエレを連れていたのか。

「お金なら毎月お父様が渡してるじゃん」

 ユリアは心底、不思議そうな顔。

「額がずいぶん違うんじゃね?」

 小声で突っ込む俺に、レモも続いて、

「毎月受け取れる額なんて、せいぜい金貨で十枚とか十五枚とかでしょうね」

 狐女とイタチ男がブンブンと首を縦に振っている。

 ユリアはぽんっと手を打って、

「金貨じゃなくてミスリル貨がよかったのね?」

 そういう意味じゃないような……。

「そんなら、わたしがあげるのに……」

 ポシェットの中をまさぐりだす。

「ほ、本当ですか!?」

 目をかっぴらく二人に、

「ミスリル貨ってこれかな?」

「そ、それはオリハルコン貨――」

 ミスリル貨十枚でオリハルコン貨一枚である。

「やっぱミスリル貨がいいよね?」

 こてんと首をかしげるユリアの手から、狐女がオリハルコン貨をさらった。

「構いませぬ! ありがたく頂戴いたします!!」

「ちょっ、お前、おいらの分――」

「だめさ! こいつはアタイがいただいたんだから!」

 狐女がひらりとロック鳥から舞い上がった。風魔法なのか、空を飛べる一族なのかはよく分からねえ。

「ここに来て裏切るか、女狐めぎつねめ!」

 ロック鳥をあやつって追いかけるイタチ男。

女狐めぎつねって…… そのまんまだし」

 レモがぼそっとつぶやく横で、

「オリハルコン貨、まだまだあるのになあ」

 ユリアが心配そうに見上げる。

「なんでそんな大金持ち歩いてるんだよ」

 若干じゃっかん引き気味な俺。

「じいじが旅にはお金がかかるだろって、くれたのー」

 あの爺さん、金銭感覚ボケてるんじゃね?

「帝都に着いたら両替しておいたほうがいいわね」

 レモもやや呆れ顔だ。

「オリハルコン貨なんかで払われたら、店によってはお釣り出せなくて困っちゃうから」

 確かに。金貨九十九枚とか返さなきゃならないもんな。

 馬車の上をロック鳥の羽音が通過すると同時に、

「こうなったら正々堂々、魔法バトルだ!」

「おう!」

 威勢のいい声が頭上から降ってくる。

「ちょっと、やめなさい! あんたたち!」

 レモが驚いて窓から顔を出す。

「ここは瘴気の森の入り口なの! ここで暴れたり魔法を使ったりしたら、モンスターたちを刺激してしまうわ!」

 だが彼らは聞いていない。

 ドカーン!

 派手な音を立てて、魔法弾が森に着弾した。

「あいつら……!」

 やきもきするレモに、

「獣人族って好戦的なひとが多いのぉ」

 のろのろとしゃべるユリア。

「竜人族も何かってぇと力で決着とか好きだぜ」

 俺は嫌いだけど。

「じゃあジュキくんは竜人族の中の変わりもんだぁ」

「まあな。俺は芸術家アーティストだから」

 種族ごとに性質の傾向はあっても、結局は一人一人の個性ってことだ。

「グオォォォォ……」

「なんだこの声?」

 森にこだまする咆哮に、俺が眉をひそめたとき、

 ガタン!

 馬がおびえて馬車が止まった。

 ドシン、ドシン……

 遠くから地響きのような足音が近づいてくる。

「何かが森の奥で目覚めちゃったみたいね……」

 レモが不吉な言葉を口にした。


 ─ * ─


森の奥から現れたモンスター、今度こそ強敵か!?
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