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Ⅲ、二人の皇子

31、皇帝一家、誰を味方に引き入れる?

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「そのような上位存在たちが動いていたとは――」

 腕組みする師匠にレモが、

「今度はこちらから質問させて」

 師匠の向かいに座った。

「第一皇子はどれくらい魔石救世アカデミーに関わっているの? 皇帝一家は代々魔力量が多くて、魔術の才能もあると聞くわ。私が心配しているのは――」

「皇帝一家を敵に回すのは避けたい」

 師匠が先回りした。

「その通りよ。手紙には、もし検閲が入ったらと思って書けなかったけど、師匠の魔術顧問時代の人脈を使って、皇帝陛下や第二皇子を味方に引き入れられないかと思って」

「はぁ。先帝陛下が生きていらっしゃればなあ……」

 セラフィーニ師匠はひざの上に両ひじをつき、頭をかかえた。

「立派な人だったのか?」

 俺の問いに、

「帝国民の生活を第一に考え、小さな問題も見逃さず、表面化する前に対処するような方でした。先帝陛下がご存命だったら、私は上位存在たちの動きを報告しています」

 師匠は組んだ両手の上にあごを乗せ、どこか遠くを見つめながら、

「魔石救世アカデミーを率いるアッズーリ教授が、魔神復活をもくろむような人物なら、皇帝陛下の命令で騎士団が調査に入るのが望ましい」

「今の皇帝陛下は動いてくれないんですか?」

 また質問すると、今度はレモが、

「アントン帝だもんね……」

 あきらめにも似た表情。

「ジュキ、帝都民がアントン帝をなんて呼んでるか知ってる?」

 首を振る俺に、

安穏あんのん帝。もっとひどいのは、昼行灯あんどん帝」

「ぼんやりしてるってこと?」

 答えたのは師匠だった。

「改革を好まない事なかれ主義者ですね。とはいえ、先帝陛下の敷いた仕組みの上に乗っていれば特に問題もないですから」

 確かに政治が安定している今の帝国では、悪くない皇帝だったのだろう。俺も腕を組んで、

「まだ起きてもいない問題に先回りで対処して、ラピースラ・アッズーリをつかまえたりしてはくれないってことか」

「面倒くさがるでしょうね」

 職務怠慢かよ!

「じゃあ第二皇子は? 師匠の弟子だったわよね?」

 レモの言葉に師匠はうなずいた。

「私と彼はよく会っていますよ。今でも何かと、私に相談してくれるんです」

 良き相談相手ってことか。

「だから最近、第一皇子の様子がおかしいことも聞いていました」

「そうか……。第二皇子が味方なら心強いよな」

 俺の言葉に師匠が眉根を寄せた。

「そうでもないんです。というより、第二皇子が私を含め元騎士団の人間や現騎士団の有力師団長、さらに法衣ほうえ貴族や教会、帝都の各ギルドなどと交流を持っていること自体が、第一皇子を追い詰めているんです」

 俺は口をつぐんだ。第二皇子ばかり人望が厚いってことなのか? レモが少し同情するような表情で、

「第一皇子は耳が不自由だったから、社交に消極的だったのよね……」

「ええ。それで後ろ盾がないところに、魔石救世アカデミーが近付いたのでしょう」

 うわぁ…… 確実に人の心のすきまに入り込んでくる作戦、怖すぎる。

 俺は頭のうしろで腕を組んで、高い天井を見上げた。描かれた青空の中では、女神や天使が飛び回っている。

「皇帝陛下は昼行灯で頼りにならねえ、第二皇子とこれ以上親密になったら、余計に第一皇子を刺激しちまうってぇと、打つ手なしか?」

「いいえ、方法はあります」

 師匠はきっぱりと言いきった。

「皇后陛下に、こちら側へついていただくのです」

「師匠さんあんた、皇后様ともつながりがあるのか」

 さすが現代の賢者と呼ばれるだけあると感心していると、

「ありませんよ。これから作るんです」

 またきっぱり。

「え、どうやって――」

 小さくつぶやきつつレモを見ると、彼女も師匠の次の言葉を待っている。

「皇后陛下は口さがない帝都民から、『男嫌いのオペラ狂い』って呼ばれてるんですよ」

「へえ。で?」

「私に考えがあります」

 にっこりと笑って俺を見る師匠。なんか既視感デジャヴュ! 嫌な予感がする!


 ─ * ─


師匠のアイディアとは? 次話に続く!
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