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第四章:歌劇編Ⅰ/Ⅰ、交錯する思惑
05、ラピースラの魂をその身に縛れる人物
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「いやいやちょっと待ってください!」
俺はぶんぶんと両手を振った。
「宰相ですら説得できない皇帝陛下が、皇后様のお話なら耳を傾けるのですか!?」
「まあ――母上のバックにはノルディア大公国がついてるからなあ」
エドモン殿下が腕組みする。
「皇后様は、現ノルディア大公の三番目のお嬢様なのよ」
レモが解説してくれる。
ノルディア大公国――帝国内の最北に位置する豊かな領土だ。といっても数百年前までは、むしろ貧しい地域だったという。大公国の北に広がる瘴気の山脈からは、たびたび魔物が下りてくる上、冬が長く作物も育ちにくいからだ。
だが魔物討伐のために魔術が進歩し、農業に代わって牧羊が盛んになると、貧困地域ではなくなっていく――という話をドーロ神父がしていたはずだ。
百年ほど前、一人の修道士が魔石を動力に用いる魔導機械を発明したことから、伝統的な羊毛生産から毛織物製造業への転換をはかったそうだ。
現代では帝国一と言われるノルディア魔法騎士団を持ち、経済的にも豊かな地域となって、帝国内の発言力も随一となった。
ちなみに俺の出身地である多種族連合自治領だって、人族に比べると魔力量の多い亜人族が暮らすのだから、強い騎士団がいてもよいはずだが―― いかんせん南東部の温暖な気候の中、海の幸にも恵まれた亜人族はものぐさで、戒律を守って一糸乱れぬ騎士団を結成するのは難しい。各種族ごとに生活スタイルも違うしな。
「――っていうようなことがあって、ジュキはすでに劇場支配人のアーロンさんから、出演を嘱望されているのよ」
レモが得意げに事情を説明していた。
「それは実に素晴らしい!」
エドモン殿下は目を輝かせた。
「ジュキエーレちゃんがプリマドンナとして舞台に立つところ、僕ちゃんもぜひ観たいね!!」
大変なことになった! 師匠の話では、俺は女装してオーディションに出て、皇后と知り合えばよかったはずだ。だがこのままでは帝都の舞台に立って、大勢の人に女装した姿をさらすことになる。そんなの―― 恥ずかしすぎる!
帝国中から女の子扱いを受ける未来を想像して、俺はぞっとした。
「ま、待ってください、殿下! 俺が帝都に来た理由はラピースラ・アッズーリを倒すためです。あの大聖女の悪霊が魔人アビーゾを復活させたら、次期皇帝が誰であろうと俺たちに未来はありません!」
「ふーむ」
エドモン殿下は腕組みして、椅子の背にもたれかかった。天井を見上げながら思考を巡らせているようだ。
ああ……、おそらく俺に勝ち目はない。だってこの皇子、絶対俺より知恵が回るもん! しかも、レモも師匠も俺を女装させたい派閥だ。頭のいい人たちが三人も集まって、俺を女の子にしようとするなんて、八方ふさがりだよっ!
「ラピースラ・アッズーリの悪霊というのは、どうすれば倒せるんだ?」
皇子が尋ねた相手は師匠だった。うん、正しい選択だ。俺は頭脳担当じゃねーからな。
「ラピースラの魂を滅する手段は、レモさんの聖魔法なりジュキくんの聖剣なり、複数あります。が、問題は霊魂の状態である彼女が、どこにでも現れ、また瞬時に姿を消すことです」
「どぉにかなんねーのか? 賢者さんよ」
師匠にぶん投げる俺。だって今俺、機嫌悪いんだもん。
「霊魂に精霊魔法は効きません」
「精霊魔法?」
きょとんとする俺に、レモが説明してくれる。
「ジュキがいつも使ってる水魔法や、私が使う風魔法なんかを精霊魔法って言うのよ」
ああ、地水火風の四大精霊から力を借りて発動させるからか。
「師匠が言っているのは、ジュキの氷の術や私の風の術で、ラピースラの霊魂を縛ったりとどめたりはできないってこと」
「なるほど……」
確かに悪霊を凍らせて動けなくするなんて、ナンセンスだよな。
「霊魂に影響を及ぼすには――」
師匠が解説を再開する。
「人もしくは魔物の精神で縛るしかありません」
「精神?」
オウム返しに問う俺に、レモがうなずいた。
「そうよ。ジュキの歌声魅了なら、悪霊にも影響を及ぼせたでしょ」
「でも縛れなかったよ?」
「そうなんです」
今度は師匠がうなずいた。
「悪霊を縛れる精神を持つ人間など、めったにいません。<支配>や<固執>といった精神操作系の強力なギフトを持っていない限り――」
「――あ」
レモが小さく声をあげた。
「一人、該当する人物がいるわ」
─ * ─
ラピースラ・アッズーリの魂をその身に縛れる人物とは!?
俺はぶんぶんと両手を振った。
「宰相ですら説得できない皇帝陛下が、皇后様のお話なら耳を傾けるのですか!?」
「まあ――母上のバックにはノルディア大公国がついてるからなあ」
エドモン殿下が腕組みする。
「皇后様は、現ノルディア大公の三番目のお嬢様なのよ」
レモが解説してくれる。
ノルディア大公国――帝国内の最北に位置する豊かな領土だ。といっても数百年前までは、むしろ貧しい地域だったという。大公国の北に広がる瘴気の山脈からは、たびたび魔物が下りてくる上、冬が長く作物も育ちにくいからだ。
だが魔物討伐のために魔術が進歩し、農業に代わって牧羊が盛んになると、貧困地域ではなくなっていく――という話をドーロ神父がしていたはずだ。
百年ほど前、一人の修道士が魔石を動力に用いる魔導機械を発明したことから、伝統的な羊毛生産から毛織物製造業への転換をはかったそうだ。
現代では帝国一と言われるノルディア魔法騎士団を持ち、経済的にも豊かな地域となって、帝国内の発言力も随一となった。
ちなみに俺の出身地である多種族連合自治領だって、人族に比べると魔力量の多い亜人族が暮らすのだから、強い騎士団がいてもよいはずだが―― いかんせん南東部の温暖な気候の中、海の幸にも恵まれた亜人族はものぐさで、戒律を守って一糸乱れぬ騎士団を結成するのは難しい。各種族ごとに生活スタイルも違うしな。
「――っていうようなことがあって、ジュキはすでに劇場支配人のアーロンさんから、出演を嘱望されているのよ」
レモが得意げに事情を説明していた。
「それは実に素晴らしい!」
エドモン殿下は目を輝かせた。
「ジュキエーレちゃんがプリマドンナとして舞台に立つところ、僕ちゃんもぜひ観たいね!!」
大変なことになった! 師匠の話では、俺は女装してオーディションに出て、皇后と知り合えばよかったはずだ。だがこのままでは帝都の舞台に立って、大勢の人に女装した姿をさらすことになる。そんなの―― 恥ずかしすぎる!
帝国中から女の子扱いを受ける未来を想像して、俺はぞっとした。
「ま、待ってください、殿下! 俺が帝都に来た理由はラピースラ・アッズーリを倒すためです。あの大聖女の悪霊が魔人アビーゾを復活させたら、次期皇帝が誰であろうと俺たちに未来はありません!」
「ふーむ」
エドモン殿下は腕組みして、椅子の背にもたれかかった。天井を見上げながら思考を巡らせているようだ。
ああ……、おそらく俺に勝ち目はない。だってこの皇子、絶対俺より知恵が回るもん! しかも、レモも師匠も俺を女装させたい派閥だ。頭のいい人たちが三人も集まって、俺を女の子にしようとするなんて、八方ふさがりだよっ!
「ラピースラ・アッズーリの悪霊というのは、どうすれば倒せるんだ?」
皇子が尋ねた相手は師匠だった。うん、正しい選択だ。俺は頭脳担当じゃねーからな。
「ラピースラの魂を滅する手段は、レモさんの聖魔法なりジュキくんの聖剣なり、複数あります。が、問題は霊魂の状態である彼女が、どこにでも現れ、また瞬時に姿を消すことです」
「どぉにかなんねーのか? 賢者さんよ」
師匠にぶん投げる俺。だって今俺、機嫌悪いんだもん。
「霊魂に精霊魔法は効きません」
「精霊魔法?」
きょとんとする俺に、レモが説明してくれる。
「ジュキがいつも使ってる水魔法や、私が使う風魔法なんかを精霊魔法って言うのよ」
ああ、地水火風の四大精霊から力を借りて発動させるからか。
「師匠が言っているのは、ジュキの氷の術や私の風の術で、ラピースラの霊魂を縛ったりとどめたりはできないってこと」
「なるほど……」
確かに悪霊を凍らせて動けなくするなんて、ナンセンスだよな。
「霊魂に影響を及ぼすには――」
師匠が解説を再開する。
「人もしくは魔物の精神で縛るしかありません」
「精神?」
オウム返しに問う俺に、レモがうなずいた。
「そうよ。ジュキの歌声魅了なら、悪霊にも影響を及ぼせたでしょ」
「でも縛れなかったよ?」
「そうなんです」
今度は師匠がうなずいた。
「悪霊を縛れる精神を持つ人間など、めったにいません。<支配>や<固執>といった精神操作系の強力なギフトを持っていない限り――」
「――あ」
レモが小さく声をあげた。
「一人、該当する人物がいるわ」
─ * ─
ラピースラ・アッズーリの魂をその身に縛れる人物とは!?
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