歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

文字の大きさ
176 / 191
Ⅲ、クリスティーナ皇后の決定は電光石火

31★ケーキ作りと誕生日パーティー【レモ視点】

しおりを挟む
(レモネッラ視点)

「さて尻軽皇子も消えましたし、レモさん、ジュキエーレくん、トッピングの木苺を洗ってもらっていいですか?」

 師匠はすっきりとした笑顔で私たちに指示を出した。

「おししょーさまーっ、ユリアは何したらいい?」

「そうですねぇ、では生クリームを味見してもらいましょうか」

「はーい!」

 ユリア、いい返事。師匠ったら、役立たずなユリアに仕事を与える振りするなんて優しいわね。

 小さなルビーを寄せ集めたみたいな木苺に、ジュキの手のひらからあふれ出した清水がそそがれる。

「こんなもんでいいかな」

「よさそうね。一個味見しちゃおうかしら」

 一粒指先でつまんで、私は口の中に放り込んだ。

「すっぱ!」

 奥歯で噛んだ途端、酸味の強い果汁が口いっぱいに広がった。

「わぁ、いい香り。俺んとこまでベリー系の匂いが漂ってくるよ」

 ジュキは顔をしかめる私を見ながら、おっとりとほほ笑んでいる。

「でも味は酸味が強いの。こんな可愛い見た目なのに」

 涙目になる私に、ジュキは錫合金ピューターのマグカップに水をそそいで差し出しながら、

「見た目は可愛いのに攻撃性が高いなんて、レモみたいじゃん」

「えぇ?」

「俺、木苺って好きかも」

 何言ってるの、この人は!

「レモ、顔赤いけど大丈夫? そんなにすっぱかった?」

 ジュキが変なこと言うからでしょーっ! とは言えずに、私は無言で水を飲んだ。彼の指先からこぼれおちる水は、精霊王の力によるものだって分かってはいるけれど、彼の純粋さが身体中に染み渡ってゆくようだ。

「木苺は、砂糖をたくさん使ってジャムにするとおいしいんですよ」

 師匠がケーキに生クリームを塗りながら教えてくれる。パレットナイフが優雅に舞い、またたにスポンジが白雪で包まれるかのよう。

「職人さんがレンガに漆喰しっくい塗ってるみたーい」

 ユリアはテーブルにあごを乗せて、師匠の手元を観察している。

「次はデコレーションですよ」

 さまざまな口金を使い分けながら、ケーキの表面を飾ってゆく。画家が絵筆を扱うように見事な手つきで、可憐な模様を白一色で描き出す。

「食っちまうのが勿体ねぇな」

 ジュキがまた繊細なことを言うと、

「じゃあお兄ちゃんの分もわたしが食べるね?」

 甘えるときだけジュキをお兄ちゃん呼びするユリア。

「なんでだよ」

 ふくれっつらするジュキは本当に兄弟みたいで、ほほ笑ましい。

「最後に木苺を飾って――」

「私が置くわよ」

 張りきって手を伸ばしたら、

「結構です!」

 師匠に強く拒絶され、固まる私。

「ガサツで有名なレモせんぱいは、さわらないほうがいいよ?」

「なっ!?」

 ユリアの失礼な物言いに、ジュキがなぐさめてくれるかと思いきや、あさってのほうを向いてしまった。

「私のことガサツだと思ってる?」

 彼のマントをそっと引っ張る。

「俺、レモの元気いっぱいなところが好きなんだ」

 深いエメラルド色の瞳が、優しく細められる。う、かっこいい…… なんかはぐらかされたような気がするけど、まあいいわ。

「よし、完成です!」

 エプロン姿の師匠が嬉しそうに宣言した。

「わーい、食べよ食べよ!」

 尻尾をぱたぱたと振りながら、ユリアは広いキッチンを跳ねまわる。

 四人でテーブルの上に、チェック柄のテーブルクロスをかけた。私たち貴族令嬢と違ってよく気の付くジュキが、お皿やフォークを並べてくれる。

 師匠は戸棚の高い位置から蓋の付いた陶器の筒を取り出し、

「薬草の入った特別なお茶ですよ」

 ティーポットやマグカップを並べた。

「ジュキくん、お湯を沸かしてもらえますか」

「おうよ」

 返事ひとつ、コポコポと音がして、ティーポットの中に熱湯が湧き上がる。

 お茶の準備もできて、私たちはテーブルを囲んだ。

「レモ、誕生日おめでとう!」

「レモさん、おめでとうございます」

「レモせんぱい、おめでとーっ! 何歳になったんだっけ? 五歳? 二十五歳?」

「十五歳よっ! ユリアの一歳上なんだから分かるでしょ」

「あれぇ? わたし今何歳だっけ?」

 こてんと首をかしげるユリアを無視して、

「さあ切り分けますよ」

 師匠がお皿にケーキを取り分けてくれた。

 ジュキが目を伏せて食前の祈りを唱えるのを、まつ毛長いな~なんて憧れのまなざしで眺めていたら、さっそくユリアが無言でかぶりついていた。この子、おいしいとしゃべらなくなるタイプだっけ。

「ふわっふわだよ!」

 ジュキはフォークでもたもたとケーキを切りながら、無邪気にはしゃいでいる。師匠の焼くスポンジケーキはどんな魔法がかかっているのか、ふんわりしっとりして、生クリームがなくても止まらなくなるくらいおいしいのよね。

「うんまっ!」

 笑顔いっぱいのジュキを見て幸せな気持ちになりながら、私も上品に口へ運ぶ。

 生クリームの幸せな甘さが舌の上に広がり、中からしっかり卵の風味がするスポンジが現れる。ミルクのコクと卵の香りのマリアージュを楽しんでいるうちに、スポンジは生クリームと同じようにすぅっと溶けてゆく。間に挟まれた木苺の酸味がアクセントになって意外とさっぱりしているから、いくらでも食べられそうだ。

 ふとジュキを見ると、満足げにもぐもぐする口の横に、やんちゃな子供みたいにクリームを付けている。まったくはかなげな美少年のくせに、ちっとも自覚がないんだから。

「生クリームついてるわよ」

 私は自分の頬を指さして教えてあげた。

「えっ」

 恥ずかしそうに手の甲で拭うけど、そっち側じゃないのよね。

「反対よ」

 私は手を伸ばして人差し指の先でぬぐうと、ぺろりとなめた。

「ちょっ、レモ……」

 ジュキの頬がぽっと染まるのと、

「レモさん、はしたないです」

 師匠が小言を言ったのは同時だった。

 ホールケーキを四人で平らげたあとで薬草茶を味わっていると、ジュキと師匠が目配せしあっているのに気が付いた。

「どうしたの?」

「あのな、レモ。俺からプレゼントっていうか、きみにラブソングを送りたいんだ」

「わぁ、素敵!」

 さっきユリアからフライングしてバラされちゃったけど、聞かなかったことにして感動して見せる。だって本心だもん。

「前に一度、未完成のときに聴いてもらったんだけど、あのときはまだ詩を推敲しきってなくて、語りみたいな感じだったじゃん」

「ラピースラとの最初の戦いのとき?」

 私が悪霊に乗り移られたのを、ジュキは愛の詩を歌って救ってくれたのだ。

「そうだよ。覚えていてくれて嬉しいよ」

「忘れるわけないじゃない」

 二人のまなざしが絡み合い、愛の炎が燃え上がる。

「ぜひ聴かせて!」

 期待と喜びに私の胸は高鳴った。


 ─ * ─


次回『プレゼントはオリジナルソング』
久し振りのジュキくんオンステージです!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

処理中です...