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Ⅳ、着実に進む決戦への準備
37、エドモン皇子のナンパ力が試される!?
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「どっちも簡単だわ」
レモがよく通る声で答えた。
「一つ目は、エドモン殿下が姉に愛していると言えばよいだけ。君のおかげでラピースラを退治できた暁には結婚しようって言えば、言うこと聞くわよ。二つ目は結界を張った頑丈な牢屋に閉じ込めておけば問題ないじゃない」
相変わらずブレねえな、レモのやつ。ユリアも師匠も驚かないが、皇子だけはまじまじとレモを見つめた。
「ずいぶんな言いようだが、レモネッラ嬢とクロリンダ嬢は血のつながらない姉妹なのか?」
「だったらよかったんだけどね」
レモは盛大なため息をついた。
実の姉妹であることを悟ったエドモンの片頬が一瞬、引きつった。が、すぐに真剣な表情に戻り、
「レモネッラ嬢の案だが―― まず一つ目、僕ちゃんには実は、婚約者がいるんだ」
いたんだ……! まあ皇子だし当然か。反応したのはレモ一人。
「じゃあなんでジュキに手ぇ出すのよ!」
「出していないが? まだ」
「まだとか言わないで!」
「だって婚約者に負けたくないからな。あっちは帝都一モテる侯爵令嬢。会うたびにもらったプレゼントの数を自慢してくるんだ」
ずいぶんフリーダムな関係だな……
「早く自由になりたいから、僕と結婚して夫人という立場になりたいって、いつも言ってるよ」
そうか、貴族の貞操観念では、未婚女性は純潔を保たねばならないからか。夫人になったら自由って、謎だよな。
「殿下、姉に真実を話す必要なんてありませんわ。婚約者がいらっしゃっても気持ちが変わったとか、なんでもおっしゃったら良いのよ」
ずる賢いアドバイスをするレモに、
「だがラピースラを倒したあとはどうなる? 聖魔法や聖剣で倒す以上、クロリンダ嬢は生き残るのであろう?」
「残念ながら」
レモは面白くもなさそうに答えてから、
「その後は宮殿の地下牢に入れておくか、あなたが自分を愛していないと知って取り乱したところを不敬罪で処刑するか」
「僕ちゃんは女性に対してそんなひどいことはできないっ!」
「なら臣下に老侯爵でもいらっしゃらない? 後妻として与えたら良いわ。姉は殿方ならどなたでもいいんだから」
クロリンダ嬢を押し付けられた臣下のほうが被害者だろ、その案は。そうか、レモは実家や、自分の領地から姉を追い出したいんだな。
女性に甘いエドモン殿下に、師匠が助け舟を出した。
「殿下、婚約者にするなどと嘘をつく必要はありません。ただ優しくするだけで、クロリンダさんはあなたの言うことを聞きますよ。魔法学園にいた短期間で、彼女はほぼ毎日恋に落ちていましたから」
レモがあざけりの笑みを張り付けた顔でうなずいている。
「それからラピースラ対策ですが、皇城の敷地全体に一応結界が張ってある以上、悪霊状態のラピースラが入ってくる可能性は低いでしょうが――」
クロリンダに乗り移った状態だったから、入って来ちまったってわけか。
「――悪霊を察知できるジュキエーレくんやユリアさんに、宮殿内に泊まってもらってはどうでしょう?」
えっ!? 俺が口を開く前に、師匠は言葉を続けた。
「ただジュキエーレくんにはオペラのリハーサルもありますから、早急に別の者を雇わねばなりませんがね。聖魔法教会の聖職者か、魔力感知のできる魔法騎士団員か、適任の者が見つかればよいのですが」
言いよどんだ師匠に、エドモン殿下が人差し指を立てて見せた。
「そういうときに活用するのが冒険者ギルドさ」
うしろに立っている従者の一人を振り仰ぎ、
「ギルマスに使いの者を出すよう手配してくれ」
今までの会話をすべて聞いていた従者は、すぐに理解して部屋を出て行った。
「師匠、私もジュキの張った水の結界を通して見れば、ラピースラの存在を認識できるのよ」
なぜかレモが張り合っている。
「もちろんレモさんも、ジュキエーレくんと一緒に宮殿に泊まらせてもらいなさい」
師匠が鷹揚な笑みを浮かべた。レモのやつ、俺と離れ離れになるかもって心配してやがったのか。かわいいな、相変わらず。
目を輝かせているレモに、師匠は釘を刺した。
「一緒と言っても部屋は別々ですよ?」
「くっ……」
そんなわけで、とりあえず今日のところは俺たちがクロリンダ嬢を見張ることとなったのだが――
「美しいお嬢さん、僕のキスでお目覚めなさい」
ピンクのカーテンが派手派手しい天蓋付きベッドの中で、エドモン殿下が甘くささやくのが、ガラスを貼り合わせた透明な壁越しに聞こえる。
この特殊な壁は、ガラスに微細な銀を吹き付けたもので、鏡とガラスの中間のようなはたらきをする魔道具だそうだ。明るい部屋からは鏡に見えるのに、鏡のうしろにある暗い部屋からは、ガラス窓のように室内をのぞけるのだ。
エドモン殿下とクロリンダがいる部屋は、ピンクのカーテンが揺れる窓から陽光が差し込む上、ピンクの色ガラスがたくさんあしらわれたシャンデリアに何十本ものロウソクが立っている。
一方こちら側は鎧戸を半分閉めており薄暗い。そこに俺とレモとユリア、それから師匠、さらにエドモン殿下の侍従や護衛までが集結して、殿下がどのようにクロリンダをお口説きになるのか見守ってるってぇわけだ。
「チュッ。睡魔解除」
エドモン殿下は口づけと同時に、術を解いた。
「ハッ、あなたは――」
「僕の美しきプリンセス、お目覚めかい?」
エドモン殿下、ノリノリだな。婚約者がいるとか言ってたくせに。
「もしかしてあなたが、アタクシの運命の相手ですの?」
起きたばかりのクロリンダは、か細い声で尋ねた。
─ * ─
帝国一めんどくさい女クロリンダに愛をささやいてしまったエドモン皇子の運命や如何に!?
次回『クロリンダ嬢、エドモン殿下を束縛する』お楽しみに!
レモがよく通る声で答えた。
「一つ目は、エドモン殿下が姉に愛していると言えばよいだけ。君のおかげでラピースラを退治できた暁には結婚しようって言えば、言うこと聞くわよ。二つ目は結界を張った頑丈な牢屋に閉じ込めておけば問題ないじゃない」
相変わらずブレねえな、レモのやつ。ユリアも師匠も驚かないが、皇子だけはまじまじとレモを見つめた。
「ずいぶんな言いようだが、レモネッラ嬢とクロリンダ嬢は血のつながらない姉妹なのか?」
「だったらよかったんだけどね」
レモは盛大なため息をついた。
実の姉妹であることを悟ったエドモンの片頬が一瞬、引きつった。が、すぐに真剣な表情に戻り、
「レモネッラ嬢の案だが―― まず一つ目、僕ちゃんには実は、婚約者がいるんだ」
いたんだ……! まあ皇子だし当然か。反応したのはレモ一人。
「じゃあなんでジュキに手ぇ出すのよ!」
「出していないが? まだ」
「まだとか言わないで!」
「だって婚約者に負けたくないからな。あっちは帝都一モテる侯爵令嬢。会うたびにもらったプレゼントの数を自慢してくるんだ」
ずいぶんフリーダムな関係だな……
「早く自由になりたいから、僕と結婚して夫人という立場になりたいって、いつも言ってるよ」
そうか、貴族の貞操観念では、未婚女性は純潔を保たねばならないからか。夫人になったら自由って、謎だよな。
「殿下、姉に真実を話す必要なんてありませんわ。婚約者がいらっしゃっても気持ちが変わったとか、なんでもおっしゃったら良いのよ」
ずる賢いアドバイスをするレモに、
「だがラピースラを倒したあとはどうなる? 聖魔法や聖剣で倒す以上、クロリンダ嬢は生き残るのであろう?」
「残念ながら」
レモは面白くもなさそうに答えてから、
「その後は宮殿の地下牢に入れておくか、あなたが自分を愛していないと知って取り乱したところを不敬罪で処刑するか」
「僕ちゃんは女性に対してそんなひどいことはできないっ!」
「なら臣下に老侯爵でもいらっしゃらない? 後妻として与えたら良いわ。姉は殿方ならどなたでもいいんだから」
クロリンダ嬢を押し付けられた臣下のほうが被害者だろ、その案は。そうか、レモは実家や、自分の領地から姉を追い出したいんだな。
女性に甘いエドモン殿下に、師匠が助け舟を出した。
「殿下、婚約者にするなどと嘘をつく必要はありません。ただ優しくするだけで、クロリンダさんはあなたの言うことを聞きますよ。魔法学園にいた短期間で、彼女はほぼ毎日恋に落ちていましたから」
レモがあざけりの笑みを張り付けた顔でうなずいている。
「それからラピースラ対策ですが、皇城の敷地全体に一応結界が張ってある以上、悪霊状態のラピースラが入ってくる可能性は低いでしょうが――」
クロリンダに乗り移った状態だったから、入って来ちまったってわけか。
「――悪霊を察知できるジュキエーレくんやユリアさんに、宮殿内に泊まってもらってはどうでしょう?」
えっ!? 俺が口を開く前に、師匠は言葉を続けた。
「ただジュキエーレくんにはオペラのリハーサルもありますから、早急に別の者を雇わねばなりませんがね。聖魔法教会の聖職者か、魔力感知のできる魔法騎士団員か、適任の者が見つかればよいのですが」
言いよどんだ師匠に、エドモン殿下が人差し指を立てて見せた。
「そういうときに活用するのが冒険者ギルドさ」
うしろに立っている従者の一人を振り仰ぎ、
「ギルマスに使いの者を出すよう手配してくれ」
今までの会話をすべて聞いていた従者は、すぐに理解して部屋を出て行った。
「師匠、私もジュキの張った水の結界を通して見れば、ラピースラの存在を認識できるのよ」
なぜかレモが張り合っている。
「もちろんレモさんも、ジュキエーレくんと一緒に宮殿に泊まらせてもらいなさい」
師匠が鷹揚な笑みを浮かべた。レモのやつ、俺と離れ離れになるかもって心配してやがったのか。かわいいな、相変わらず。
目を輝かせているレモに、師匠は釘を刺した。
「一緒と言っても部屋は別々ですよ?」
「くっ……」
そんなわけで、とりあえず今日のところは俺たちがクロリンダ嬢を見張ることとなったのだが――
「美しいお嬢さん、僕のキスでお目覚めなさい」
ピンクのカーテンが派手派手しい天蓋付きベッドの中で、エドモン殿下が甘くささやくのが、ガラスを貼り合わせた透明な壁越しに聞こえる。
この特殊な壁は、ガラスに微細な銀を吹き付けたもので、鏡とガラスの中間のようなはたらきをする魔道具だそうだ。明るい部屋からは鏡に見えるのに、鏡のうしろにある暗い部屋からは、ガラス窓のように室内をのぞけるのだ。
エドモン殿下とクロリンダがいる部屋は、ピンクのカーテンが揺れる窓から陽光が差し込む上、ピンクの色ガラスがたくさんあしらわれたシャンデリアに何十本ものロウソクが立っている。
一方こちら側は鎧戸を半分閉めており薄暗い。そこに俺とレモとユリア、それから師匠、さらにエドモン殿下の侍従や護衛までが集結して、殿下がどのようにクロリンダをお口説きになるのか見守ってるってぇわけだ。
「チュッ。睡魔解除」
エドモン殿下は口づけと同時に、術を解いた。
「ハッ、あなたは――」
「僕の美しきプリンセス、お目覚めかい?」
エドモン殿下、ノリノリだな。婚約者がいるとか言ってたくせに。
「もしかしてあなたが、アタクシの運命の相手ですの?」
起きたばかりのクロリンダは、か細い声で尋ねた。
─ * ─
帝国一めんどくさい女クロリンダに愛をささやいてしまったエドモン皇子の運命や如何に!?
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