歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

文字の大きさ
185 / 191
Ⅳ、着実に進む決戦への準備

40、やっぱり最後は俺の出番なのか

しおりを挟む
「あの難しい女性はなんなのだ? 僕の顔を見た途端、恋に落ちたかと思ったら、今会ったばかりなのに激しい束縛! 一人で勝手に話を進めるし感情は不安定だし」

「それが姉よ」

 短く答えたレモに、エドモンは芝居がかった沈痛な面持ちで、

「クロリンダ嬢には、悪霊の魂を縛るという決意をしてもらわなくちゃならないのに、これでは僕の方が彼女にコントロールされているようだ」

「それが姉のギフトのひとつ<支配コントロール>の力だから」

 レモは、何を今さら、と言いたげな顔だ。

 師匠がそのあとを引き取って、

「<支配コントロール><固執オスティナート><我儘エゴイズム>の三つ持ちですからね、クロリンダ嬢は。普通、二つ持ちでも珍しいというのに、さすが聖女の家系といったところでしょう」

「すげぇな」

 ぽつりともらした俺をレモが突っつく。

「ジュキがそれ言う?」

 吹き出しそうになるのをこらえているようだ。

 そういえば俺も、<歌声魅了シンギングチャーム><水魔法アクア><竜眼ドラゴンアイ>の三つ持ちだった。

 護衛が用意した椅子に腰を下ろして、皇子が口をひらいた。

「正直、楽勝だと思っていたんだ。なぜなら僕もギフト三つ持ち。そのうち二つが精神操作系だからな」

「殿下」

 侍従がとがめるように小声で制した。

「構わない。この者たちは共に帝国を救う仲間だ」

 エドモンは瞳に力強い信頼の光を宿して俺とレモ、それからユリアを見た。

「俺たちを信頼してくれてありがとう、エドモン殿下」

 ニッと笑いかけると、

「ぐはぁっ! 魅了される! <魅了チャーム>持ちの僕ちゃんが!」

 冗談とも本気ともつかない反応をして、肘掛け椅子の上でのけぞった。

 師匠が一歩進み出て、

「ねらった女性は全て虜にしてきた殿下の魅了チャームが、なぜジュキエーレくんに効かなかったか分かりますか?」

「そりゃ俺が女性じゃないからだろ」

「レモさんはどう思います?」

 魔法学園の授業さながらに質問されたレモは、ぱっとソファから立ち上がり、

「殿下が持つ魅了チャームのレベルが、ジュキの歌声魅了シンギングチャームと比べると、かなり低いのでは?」

 なるほど。<竜眼ドラゴンアイ>にも魅了の効果があるし、俺には効かないってことか。

「ジュキエーレちゃん、僕の魅了チャームはレベル55なんだけど、きみの歌声魅了シンギングチャームはいくつだ?」

 バラしたくねえなあ。でも皇子ともあろう方が先に言っちまったし――

「俺のは99だよ」

 小声で答えると場の空気が固まった。

 だが師匠は鷹揚にうなずいて、

「分かりましたか? おそらくクロリンダ嬢の支配コントロール高レベルなんでしょう」

「アンドレア、そんな曖昧あいまいな言い方しなくていいよ」

 エドモン殿下は俺たちに向きなおり、

「多くの高位貴族の例にもれず、僕も支配コントロールは持っているんだ。だけどどうやらクロリンダ嬢にはレベルで負けているらしいね」

「ねーねー」

 真面目な空気をぶち壊したのはユリア。師匠のローブを引っ張って、

魅了チャームがあるからジュキくんも皇子様も人気者なの?」

 別に俺は人気者じゃないだろ。

 だが師匠は柔和な笑みを浮かべてうなずいた。

「おそらくそうでしょう。ギフトに関する研究はまだ発展途上ですが、精神操作系ギフトは本人の意思に関わらず発動し続ける――専門用語では『常時発動パッシブ』と呼ばれるものですから」

 ユリアは理解しているのかしていないのか、こくんとうなずいた。それよりぶんぶんと首を縦に振っているのはレモ。

「分かる分かる! ジュキと話しているとなぜか心地よくて、心の深いところまでひらいて何でも打ち明けちゃうの!」

 それはありがたいんだけど……

「でも師匠、俺ガキの頃いじめられてたんですよ?」

 人気者とはほど遠かったぜ。

「やっかみでしょう」

 師匠はスパッと答えた。

「身分や能力の高い者が魅了チャームを持って生まれれば嫉妬もされませんが、明確な理由もないのに周囲を魅了していると、その輪の外にいる者は面白くないでしょうから」

「あー俺むしろ能力低かったわ……」

 身体も弱いし魔法も使えない上、手習い師匠の所へ通うこともできなかった。ガキの頃の情けねぇ自分を思い出すと、手足がすぅっと冷えて行くようだ。

「ジュキエーレくん、苦労しましたね」

 いたわる声に見上げると、いつくしむように俺を見下ろす師匠と目が合った。

「苦労ってほどじゃ――」

「いじめられても真っすぐ育ったのは、君自身が持つ強さのおかげです」

 わしゃわしゃと頭をなでてくれた。

「いい子いい子」

「ちょっ、ジュキの髪さわらないでよ、師匠!」

 引きはがそうとするレモ。

 エドモン殿下がコホンと咳払いして、

「で、アンドレア。結局レベルで負けている僕ちゃんが、クロリンダ嬢を誘惑するのは不可能ってことか?」

「そんなことありません。高レベルの精神操作系ギフトを持つ者の力を借りれば」

 師匠の言葉に、

「あ!」

 レモがポンっと手を打った。

「ジュキの歌声を聞かせながら、殿下が姉を誘惑すればいいのね!?」

「ご名答です、レモさん」

 師匠はにっこりとほほ笑んだ。


 ─ * ─


次回『その頃サムエレは』
なんでこいついるの? という密かな疑問に答える回です。
いつの間にかラピースラ側についたのか、それとも利用されているだけなのか?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

処理中です...