【完結】あやかし無双伝~水龍王の精霊力をその身に宿す少年は白蛇の妖と言われ化け物扱いされるが、魔道学院ではなぜか美少女たちに追いかけられる~

綾森れん

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第13話、後輩ちゃんはド天然

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 そっと身を起こして、蒼白だった彼女の頬に赤みが戻っていることに気付く。瞳の輝きにもいつもの強さが垣間かいま見える。

 俺はほっとして、玲萌レモの桃色の髪に手のひらをすべらせた。

「気分よくなったか?」

「もう、すっかり!」

 玲萌レモは大きく伸びをすると起き上がった。なんだかすき焼き鍋でも食ったあとみてぇに満足そうな笑みを浮かべている。

「魔力ってうまいのかな?」

 俺の正直な疑問に玲萌レモは吹き出して、それから恥じらうようにうつむいた。「ばか。ためらいがちに口づけをくれた樹葵ジュキがかわいかったのよっ」

 真っ赤になって両手で顔をおおう。いやいや、お前のその反応がかわいいよ、と思いつつ相好をくずして眺めていると、廊下をドタバタと走る足音が近づいてくる。

 救護之間きゅうごのまの前に立っていた惠簾エレンがなにか言って止めている様子だ。

 俺と玲萌レモは顔を見合わせて、それから慌てて離れた。俺がなにくわぬ顔で寝台の足元に腰かけたとき、

 ばんっ!!

 と勢いよく引き戸が開けはなたれた。

玲萌レモせんぱい、だいじょぶですか!?」

 短く切った黄色い巻き毛を振り乱して、小柄な少女が転がるようにで来た。あどけない顔立ちに不安が影を落としている。

「授業中に突然、旧校舎の方から爆発音が聞こえて、なんだなんだとみんなで庭に出たら旧校舎が崩れ出すのが見えて驚いて――」

 舌足らずのくせに早口でまくし立てる。

夕露ユーロ、あたしは無事だから落ち着いて」

 むしろ玲萌レモに心配されてるぞ。

「いろんな人になにが起こったのか訊いたら、玲萌レモせんぱいが土蜘蛛の丸焼き食べて、お尻から蜘蛛の糸が出るようになっちゃったって!!」

 どこ情報だそれは。

「わたし、もう衝撃ショックで!」

 うん、それは驚愕の事実だな。ただし事実ならな。

玲萌レモせんぱいと樹葵ジュキくん、ついにお似合い妖怪合組 カップル爆誕じゃん!」

 などと言って泣き出した。

 ほんとにしょーもねーなぁこのガキは。夕露ユーロはなぜだか玲萌レモのことを大変気に入っていて、服についた猫の毛か歯につまったニラのごとく玲萌レモから離れたがらない天然娘なのだ。

夕露ユーロ、だいじなことを言うわ」

 玲萌レモはこめかみを押さえながらゆっくりと言った。「まずあたしは、土蜘蛛の丸焼きなんて食べてないから」

「うえぇぇ!? じゃあなんのために旧校舎を爆発して丸焼き作ったんですか!?」

「土蜘蛛があたしたちを攻撃してきて、身を守るために樹葵ジュキが最強魔術を使ったのよ」

 玲萌レモが疲れた声で説明する。

「じゃあお尻から糸が出るようになったのは樹葵ジュキくん!?」

 どーゆー理論だ。

 夕露ユーロはうんうんとうなずきながら、

「あれはもとから妖怪だから安心ですね」

 謎に納得しやがる。まあ、こんなチビに本気で怒ってもしょうがねぇしなあ。いや背が低いだけで歳は玲萌レモと一個くらいしか変わんねえのか。

たちばなさまは妖怪ではありません!」

 部屋に響きわたる凛とした声は惠簾エレンのものだ。

 なにか言いかけた夕露ユーロをさえぎり、

「いま旧校舎の様子を確認してまいりました」

 と、てきぱき報告をはじめた。

「いや、崩れかけてるし危ねえだろ…… 言ってくれりゃあ今から俺が一緒に行ったのに」

「うふっ、おやさしい龍神さま」

 惠簾エレンの頬にぽっと朱がさす。それから慌てて、

「ええっと、わたくしが強化した玲萌レモさんの結界のなかで、土蜘蛛は灰になっていました。さすが龍神さまの魔術です……」

 両手をあごの下で組み、きらきらとした瞳で俺をみつめた。

「そいつぁひと安心だな」

 それから俺は気になっていたことを惠簾エレンに尋ねる。「あのさ、俺が土蜘蛛の封印解いちまったこと、瀬良師匠に報告したんだよな?」

「そんな不安そうなお顔をなさらないでくださいまし」

 惠簾エレンは俺の足元にひざまずくと、寝台のふちをにぎる俺の手の上に小さな手のひらを重ねた。俺を安心させるように、

「お師匠様はむしろ、よくぞ倒してくれたと喜んでおいででしたよ」

「まじ? 旧校舎壊しちまったのに?」

「建て替え予定だとかおっしゃっていましたっけ……」

 と首をかしげてから、

「もうすぐいらっしゃるはずです。魔力切れの玲萌レモさんのことを心配されていましたから」

 惠簾エレンの言葉が終わらぬうちに、瀬良師匠が部屋に入ってきた。いつもののんびりした様子とは違って、足早に近づいてくる。

玲萌レモさん! ――あれ? 元気そうですね…… 惠簾エレンさんから魔力を使い果たしたと聞いたのですが――」

「そうだったんだけど、樹葵ジュキが魔力を分けてくれたの」

「こんな短時間で?」

 目を見開く師匠に、

「そうよ」

 と勢いよく返事をしてから、玲萌レモは「しまった」という顔をした。

「それはよかったですね」

 意味ありげに目を細める師匠に、玲萌レモは真っ赤になる。口移しで魔力を受けわたす方法は、意外と知られていたんだな。

樹葵ジュキくん、耳が赤くなってるぅ~」

 寝台にのぼった夕露ユーロが俺の耳の先を指ではじく。

「やめろって」

 俺は夕露ユーロの手を振り切って、両手で耳を隠す。くそー、人間の耳みてぇに小さくねーから髪で隠せねえんだよな。

「あれ? 玲萌レモせんぱいも窓のほう向いてるし。ふたりとも、どしたの?」

 夕露ユーロだけがきょとんとするなか、惠簾エレンも師匠もすいーっと目をそらす。

樹葵ジュキが強大な魔力持ちだから、それであたしを助けてくれたって話よ」

 玲萌レモが、嘘はついていないが真実にもれない、うまい言い回しで説明する。

 夕露ユーロは納得したらしい。「樹葵ジュキくん、つよーい妖怪だからなんでもできるもんね!」

「俺、妖怪じゃないんだってば……」

「よく分かんないけど、樹葵ジュキくんのおかげで玲萌レモせんぱいが元気になったんならよかった!」

 夕露ユーロははしゃいで玲萌レモの首に腕をまわす。

「きゃっ」

 と叫んで玲萌レモが倒れながら笑いだす。「夕露ユーロ、重いわよっ! 食べてばっかりいるから」

 夕露ユーロはチビなのだが、魔術が苦手な彼女の唯一の武器である金棒をかついでいるため重いんだろう。

「わたし玲萌レモせんぱいと違って出るとこ出てるからだもーん」

 あ、それでなのか。

「なによ夕露ユーロ! あたしは食べた栄養のーみそにまわしてんの!」

 言い合うふたりをほほ笑ましく眺めていた瀬良師匠が、

「そういえばたちばなくん、私が三年前から学院長に押し付けられ続けていた土蜘蛛退治、かわりに片付けてくれて感謝していますよ」

 と俺に向きなおった。

「三年前?」

「いや五年前かも?」

 あごに人差し指を当てて、師匠は天井を見上げる。

「よく覚えてないんですけど、私はめんどーなことをとことん後回しにしたくなる性質でして。てへっ」

 あ。分かる。俺もだわ。

「何年も前から旧校舎を魔術道場に建て替える計画が持ち上がってるんですが、地下に魔物が封印されていたせいで、職人がみつからなくて」

 それはそうだろう。わざわざいわくつきの土地の仕事を引き受ける大工もいるまい。

「それで学院長から土蜘蛛退治を頼まれていたんです。この学校で私がもっとも魔術にけた教員だからって、ひどい。しくしく」

 めそめそする師匠。気弱そうだが、学院長の頼みを数年にわたってすっぽかしてたんだから、根は図太いおっさんである。

「めんどくちゃくて放置してたらたちばなくんが倒してくれたって聞いて、運がいいな~って思ってます♥」

 師匠はニコッとほほ笑んだ。おっさんの愛心印ハートマーク付き笑顔ってぇなあ、なかなか厳しいもんがある。が、俺は平静を装って、

「いや、お役に立てたんならよかったっす。俺も不注意からとんでもねぇもん起こしちまって、まずったと思っていやしたから」

「不注意だなんて」

 と師匠は手のひらをふりおろす。「封印されてる魔物が見たかったくせに」

 ちっ、お見通しってやつか。

「次の授業は魔術史ですから、この機会に土蜘蛛の話でも復習しましょうか」

 師匠の言葉に夕露ユーロは、

「わたしも聞きたぁい!」

 と寝台から飛び降りた。

玲萌レモさんも授業に出られそうですね」

 振り返った師匠に向かって玲萌レモは親指を立て、

「まったく問題ないわ!」

 はつらつと答えた。
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