その心理学者、事件を追う/恨む人

山乃山子

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(13)教授、気付いてしまう②

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「元々、供述に曖昧なところがあったので、
 ちょっと詰めて聞いてみたら黙ってしまったんです」
「供述が曖昧ってのはどういうことだ?」
「最初、動機につい質問した時は
“仕事で荷物を届けに行った際に態度が悪いと文句を言われてカッとなって殺した”、
 と言ったんです」
「まあ、なくはない話だな」
「続いて凶器について質問したら、“とにかく殴った”と言うんです」
「何を使って殴ったのかは言ってないのか」
「はい。聞いても教えてくれず、“とにかく殴った”と言うばかりで」
「そうなのか。因みに、凶器の特定は出来ているのか?」
「いえ、それがまだ。
 それなりの重さがある何かで何度も殴っているのは確かなんですが、
 その正体についてはまだ分かってないんです」
「ふむ、そうか」
「そして極めつけは犯行時刻なんですよね」
「犯行時刻?」
「はい。検死の結果、比橋尚真の死亡推定時刻は
 4月23日の午後7時から10時の間と判明したんです」
「……犯行が行われたのは23日の夜だったのか?」
「はい」
「蒲生が比橋尚真のアパートに荷物を届けに行ったのは
 24日の午前中のことだったよな?」
「はい。正確には午前10時30分ですね」
「その時に、比橋尚真から態度のことで文句を言われてカッとなって殺してしまった……と、蒲生はそう供述したんだったよな?」

 あからさまな矛盾に神里は眉根を寄せる。
 心得たように千波は頷いた。

「そうなんです。おかしな話でしょう?」
「ああ、おかしいな」
「当然、私も取調べの中でその矛盾を指摘しました。
 そしたら黙ってしまって……それ以降は何も教えてくれなくなったんです」
「比橋尚真の殺害だけは認めて、他のことは何も話さなくなったのか」
「はい」

 深いため息とともに千波は頷いた。
 どうやら彼女も、取調べに行き詰まりを感じているらしい。
 そんな中、神里が口を開いた。


「なあ、千波刑事」
「はい」
「蒲生温人は本当に比橋尚真殺しの犯人なのか?」
「……」
「違うんじゃねえかって、俺はそう踏んでるんだが」

 神里の言葉を受けて、千波は硬かった表情を少しばかり緩めた。

「ええ、実は私もそう思ってました」
「だよなあ」
「とは言え、本人が殺害を認めているし上の方針もあるので、
 一応はこのまま捜査は進めますが」
「当然、真犯人が別にいる可能性も視野に入れてるんだな」
「ええ、まあ」

 千波が曖昧に頷いたところで、神里は藤本の方に向き直った。

「なあ藤本。ここまでの話を聞いて、お前さんはどう思った?」
「え?」
「お前さんの意見も聞いておきたいんだが」
「うーん、確証が無いことはあまり言いたくないのですが」
「直感で構わん。思ったことを言ってみろ」
「藤本君、私も是非聞きたいわ」

 神里と千波の二人から促されて、藤本はおずおずと口を開いた。
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