その心理学者、事件を追う/恨む人

山乃山子

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(14)教授、被害者遺族と対面する①

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「酷い、酷い……何でしょうちゃんがあんなことに……!」
「母さん、落ち着いて」
「こんな時に落ち着いていられるわけがないじゃない!
 ああ……尚ちゃん、尚ちゃん……」
「母さん、ここは家の中じゃないのよ。人の目もあるんだから」
「人の目が何よ! 尚ちゃんがあんな目にあったっていうのに、
 何であんたは平気な顔をしてられるのよ!」
「私だって平気なわけじゃないけど。でもね……」
「あんたは尚ちゃんのことなんかどうでもいいって思ってるんでしょ!」
「……どうでもいいわけないでしょ」
「嘘よ! あんたは昔から尚ちゃんに冷たかったじゃない!
 あの子のことが嫌いだったんでしょ? だから今だって平気で居られるのよ!」
「……」

 愛する息子の遺体を目の当たりにしたショックからか、母親は半狂乱になって娘に当たり散らしているようだった。娘は困り顔で母親の背中をさすっている。
 周囲の人間たちが好奇の視線を向ける中、おもむろに神里がその母娘のもとに近付いた。


「失礼、ちょっと良いかな?」
「あ、すみません。ご迷惑でしたよね」

 泣き続ける母親に代わり、娘の方が申し訳なさそうに頭を下げる。
 煩くしていることで注意されると思っているようだった。

「いや、気にしなくて良い」

 小さくかぶりを振って、神里は母娘のすぐ近くに腰を下ろした。

「それより、あんた方に話を聞きたい」
「話?」
「ああ、失礼。俺はこういう者なんだが」

 言いながら神里は懐から名刺を取り出して、母娘それぞれに手渡す。

「慶田大学心理学部の教授、神里先生?」

 名刺に書かれている肩書きを読み、母も娘も訝しい顔で首を傾げる。

(やはり覚えてないか)

 神里は密かに落胆した。が、その思いを顔には出さなかった。

「犯罪心理学の研究をしている学者だ。こいつは助手の藤本」
「どうも」

 神里の後ろにいた藤本が、立ったままお辞儀をする。
 つられるようにして母娘も軽く頭を下げた。

「その……大学教授の方が私達に何の用ですか?」
「殺害された比橋尚真ひばししょうま氏のことで話を聞きたい」
「っ……!」

 神里がその名を口にした途端、母も娘も顔を酷く強張らせる。
 そして、母親の方が思い出したように号泣を再開した。

「あああ……尚ちゃん、尚ちゃん……」
「この度はお気の毒でしたな」
「うっ……うう……」
「知り合いの刑事から聞いたんだが、あんた方は被害者の遺族だそうで」
「私は尚真の姉・瑠衣るいです。こちらは母の峰子みねこ
「なるほど」

 泣きっぱなしの母親とは対照的に冷静に対応する瑠衣の方を見て、神里は頷いた。


「あの、神里先生。弟について話を聞きたいとのことですが、なぜですか?」
「君の弟を殺した犯人を見つける為……まあ、警察への捜査協力ってところかな」
「捜査協力?」
「犯罪心理学の研究者という立場上、警察とは常に協力関係にあるもんでな」
「でも、弟を殺した犯人は既に捕まってるんでしょう?
 これ以上、何の捜査がいるんですか?」
「ふむ」

 瑠衣の疑問は尤もだ。神里は顎に手を当てて小さく唸る。

「こっちとしては、今回逮捕された蒲生温人がもうはるとは犯人ではないと考えている」
「えっ?」

 神里の言葉に瑠衣も峰子も目を丸くする。
 峰子に至っては、一瞬だけ泣くことを忘れていた。
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