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(16)教授と助手、話し合う[2回目]③
しおりを挟む「先生、やけに詳しいですね。瑠衣さんのこと」
「まあな。加害者家族の情報として話には聞いていたからな。
本人に直接会うのはさっきが初めてだったが」
「7年前の事件、先生も関わりがあったんですか?」
「ああ」
頷いて、手元のコーヒーを飲む。
それから神里は真っ直ぐに藤本の目を見た。
「7年前に戸分尚真が殺害に関わった事件──その被害者の名前は立永大悟」
「えっ?」
「そう。あの立永さんの息子だ」
「あの事件……だったんですか」
これは想定外だったのか、藤本は彼にしては珍しく目を見開いて驚いている。
「捕まった3人の少年の内の1人が、戸分尚真だったんだ」
「……」
「その戸分尚真が今度は殺される側になるんだから、因果なもんだよな」
そう言って、神里は残りのコーヒーを一気に飲み干す。
複雑な感情と一緒に飲み込んでいるようだった。
「ええと、母親の峰子さんとも今日が初対面だったんですか?」
「いや、そっちとは何度か会った。“息子は何も悪くない、悪い友人に唆されただけなんだ、助けてくれ”って何度も泣きつかれたよ。断ったけどな」
「先ほどの峰子さん、先生に対して初対面のような素振りでしたけど」
「記憶から消してたんだろう。あの人に取ってみれば、
7年前の事件はさっさと忘れてしまいたい過去だろうからな」
「なるほど」
頷いて、藤本はずっと放置していたコーヒーカップを手に取った。
口を付けると冷めたコーヒーが喉を通り過ぎてゆく。
後には、強い苦味が口の中に残るばかりだった。
俄かに顔を顰めつつ、藤本はチラリと神里の方を見る。
腕を組み、難しい顔で眉間に皺を寄せて、何か考え込んでいるようだった。
「先生、もう一つ質問して良いですか?」
「ん? ああ、良いぞ」
神里が目だけを藤本の方に向ける。
重い空気を纏っているようだった。
そんな彼を真っ直ぐに見据えて、藤本は問うた。
「先生はさっきから何をそんなに思い悩んでいるのですか?」
「……」
「何となく、辛そうに見受けられますが」
「……ふふ、分かるか」
藤本の指摘を受けると、神里は軽く笑った。
組んでいた腕を解き、大きく息をつく。
「むしろ分かりやすいですよ、先生は」
「そうだなあ。俺は表情豊かな人間だからな。お前さんと違って」
「そうですね。僕は表情筋が死んでますから」
「なに納得してんだ。否定して反論しろ。
ついでに表情豊かな人間になれ。馬鹿野郎が」
「すみません」
ほんの少しだけ口元に笑みを乗せて藤本は平謝りする。
気の抜けた会話を交わしたことで、2人の間に流れる空気が少し軽いものになった。
小さく咳払いをして、神里が改めて口を開く。
「まあ良い。話を戻そう」
「はい」
「警察署で千波と話した内容を覚えているか?」
「はい。比橋尚真を殺害した犯人は蒲生さんではない可能性が高い、
という話でしたよね」
「そうだ。蒲生は真犯人を知っていて、そいつを庇っていると思われる。
これまでの状況を踏まえて、真犯人の人物像として挙げられた条件が
大きく二つあったよな? 覚えているか?」
「ええと……蒲生さんと親しい間柄の人間。
それでいて、比橋尚真を殺害する動機がある人間。でしたか」
「その通りだ」
大きく頷いて、神里は目を伏せた。
「この条件にピタリと当て嵌まるのがなあ……」
「立永さんですか?」
辛そうに顔を顰める神里に対し、藤本は表情を変えずにあっさりと答えた。
「そうだ。恐らく警察も既に勘付いてる。と言うより、千波が気付いてる」
「蒲生のことで聞き込みにきた警察が、立永さんに対して事件の情報を殆ど伏せているという話があったが……あれも、立永さんを疑ってのことだったんだろうな。今にして思えば」
「なるほど。泳がせてボロが出るのを待つ作戦ですか」
「そんなところだろう」
神里が頷く。それから小さなため息をついた。
やりきれない思いが彼の目を曇らせる。
そんな中、藤本が口を開いた。
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