その心理学者、事件を追う/恨む人

山乃山子

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(18)教授と助手、話し合う[3回目]②

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「あ……」

 道の途中、不意に藤本がその足を止めた。

「どうした?」

 訝しい顔で神里が問う。

「すごく今更なことなんですが」
「何だ?」
「立永さんは、いつ比橋尚真のことを知ったのでしょうか?」
「どういうことだ?」
「戸分尚真が比橋尚真に名前を変えていたことを、
 いつから知っていたのかと思いまして」
「ん?」

 質問の意図が分からず神里は首を傾げる。
 藤本は更に続けた。

「比橋尚真の遺体を見て、蒲生さんは立永さんの犯行だと思った。
 それって、彼が立永さんの息子の仇であることを知っていたからですよね?」
「そうだな。だから、立永さんを庇おうと蒲生は自分が犯人であるかのように装った」
「つまり、蒲生さんは比橋尚真=戸分尚真であることを以前から知っていた」
「ああ。そういうことになるな」
「ということは、立永さんも当然そのことを知っていたわけですよね」
「そりゃあ……そうだろう」
「立永さんは、いつどういう経緯でそのことを知ったのでしょうか?」

 難しい顔をして藤本が考え込む。
 神里も顎に手を当てて思考を巡らす。
 そして、すぐに結論を出した。

「案外、ただの偶然かもな」
「偶然?」

 神里の言葉に、今度は藤本が首を傾げた。

「比橋尚真は1ヶ月ほど前に埼玉からこっちに引っ越してきたらしい。
 よりにもよって、立永さんが住んでいる練馬区にな。
 同じ区域に住んでりゃあ、どこかで出くわしても不思議じゃねえだろ」
「うーん、そうですかね」
「ああ、そうだ。立永さんは配送業をやってるわけだから、
 その関係で比橋尚真のことを知り得た可能性だってあるな」
「ああ、なるほど。確かに」
「とにかく、これに関してはそんなに難しく考えなくても良いだろう」
「そうですか。分かりました」

 藤本が頷くと、神里は体を駅の方向へ向けた。

「よし。じゃあ、とっとと行くぞ」

 神里が大股で勢いよく歩き出す。
 それは、心の奥に僅かに残った澱みを振り払いたい思いの表れだった。
 そんな彼の後ろを藤本が小走りで付いていく。

 再び動き出した二つの人影。
 やがてそれらは、緩やかな風と共に夜の中へと消えていった。
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