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「住んでいるアパートの隣の部屋で、男の子が監禁されていて、売春させられていた。自分も断り切れずに買ってしまった。」
そう言って怯えた様子で若い男が交番にやってきたのは、夏の暑さがピークに達した昼下がりの事だった。顔色が悪く、終始怯えた様子で落ち着きのない視点をキョロキョロと彷徨わせていたその痩せた男の話は、交番勤務6年目で、大した経験もないのに、退職率の高い女性警官としては中堅のポジションになってしまっている松部ゆかりには、俄かに信じられないものだった。
街中と言っても少し車を走らせただけで田畑も見える長閑な住宅地になる小さな地方都市で、誘拐や監禁といった重大犯罪は多くはなかった。
「ヤクザがいた時の方がまだ治安が良かった。」
とおおよそ警察官の言葉とは思えないセリフを吐く交番所長は、昨今はこんな地方都市でも治安が悪くなったと言うが、そんな所長も子供が監禁されて売春させられていると言うのは信じられないようだった。しかし、男の話は細部にわたって具体的で、嘘を言っている様子も理由もなさそうだった。
「僕は3年住んでましたが、途中まではそんな事はなかったんです。普通に若い男が一人暮らしをしてる感じでした。友達の溜まり場になってるようなとこはありましたし、時々夜中まで騒いでるような時もありました。でもまあ、僕だって友達を呼ぶ事もあったし、まあそんな時はちょっと飲み過ぎて羽目を外すような事もありましたから、お互い様だと気にしていませんでした。
それが、3ヶ月くらい前から、様子がおかしくなりました。常に入れ替わり立ち替わり男達が出入りして、それも若い男からどう見ても隣の住人の友達とは思えない歳の中年の男達まで。昼の3時くらいから朝方までひっきりなしに出入りし始めました。なんか変だなと思いはじめてから、余計に物音も気になり始めました。僕は大学とバイトがけっこう忙しかったから、基本的には寝る時しか部屋にいないんですが、夜中に人がたくさんいるような感じの時もあって。時々午前中に部屋にいると、泣き声が聞こえてきました。啜り泣くような声が。
それから時々、怒鳴り声とか、誰かを殴ってるみたいな音もして、え?と思ってると、ごめんなさいとか許してくださいとか聞こえてきて。笑い声や煽るような卑猥な言葉を叫ぶ声なんかも聞こえてきました。聞こえるのは全部男の声でした。
それから、夜中に目が覚めると、ヤッてるんです。そんなに壁の薄い部屋じゃないんでよーく聞かないと分からないんですが、男達が複数いたりすると声が大きくなって分かるんです。オラ!とかケツ上げろ!とか。女の声は全くしなくて、呻き声とか、ヤられてるのは若い男の声で。夏休みに時々一日中部屋にいると、気になっちゃって聞き耳を立ててしまうんです。もう本当に昼過ぎから入れ替わり立ち替わり男達が来てヤッてって、売り部屋になってんだなって僕にも分かりました。人が部屋を出る音がすると、しばらくしてシャワーの音が聞こえる。そして人がやってきて、またギシギシやり始める。ずっと殴ってる音と泣き声とか悲鳴みたいな声が聞こえて来る時もありました。ヤバいなと思いました。」
「その時はずっと住人は部屋にいるのですか?」
「それは分かりません。住人の男を見かけることは前より少なくなりました。知らない人間ばかり出入りしてて。住人は僕と同じ歳くらいの若い男で、前はたまに会うと会釈くらいはしたんですが、エントランスとかエレベーターで顔を合わせてもなんか避ける感じで。」
「それで、あなたも買ったというのはなぜですか?」
「そんなつもりはなかったんです。ある時、夜、住人の男ともう1人の若い男と、エレベーターで乗り合わせました。僕はちょっと酔っ払ってて、気が大きくなっちゃって、言ってしまったんです。最近、ちょっとうるさくないですか?って。実際、なんか気になって眠れない時とかもあって。迷惑してるって言いたくなっちゃって。そしたら、住人は無言だったんですけど、連れの若い男がすげぇ嫌な感じでニヤニヤ笑い出して。僕もちょっと腹が立ってきて、知ってるんすよ、何やってるかって言ってみたら、おいでよ、今から部屋に。君もヤらせてあげるよって言ってきて。安くしとくよって言われました。やっぱり売り部屋になってんだって思いました。」
佐竹透、21歳。
県内の国立大学に通う大学生で、裕福な家庭で大切に育てられてきたという、家庭環境そのままの雰囲気だった。
父親に連れて来られ、怯えきった悲壮な顔で語るその話を、松部は驚きを隠して聞いた。
そう言って怯えた様子で若い男が交番にやってきたのは、夏の暑さがピークに達した昼下がりの事だった。顔色が悪く、終始怯えた様子で落ち着きのない視点をキョロキョロと彷徨わせていたその痩せた男の話は、交番勤務6年目で、大した経験もないのに、退職率の高い女性警官としては中堅のポジションになってしまっている松部ゆかりには、俄かに信じられないものだった。
街中と言っても少し車を走らせただけで田畑も見える長閑な住宅地になる小さな地方都市で、誘拐や監禁といった重大犯罪は多くはなかった。
「ヤクザがいた時の方がまだ治安が良かった。」
とおおよそ警察官の言葉とは思えないセリフを吐く交番所長は、昨今はこんな地方都市でも治安が悪くなったと言うが、そんな所長も子供が監禁されて売春させられていると言うのは信じられないようだった。しかし、男の話は細部にわたって具体的で、嘘を言っている様子も理由もなさそうだった。
「僕は3年住んでましたが、途中まではそんな事はなかったんです。普通に若い男が一人暮らしをしてる感じでした。友達の溜まり場になってるようなとこはありましたし、時々夜中まで騒いでるような時もありました。でもまあ、僕だって友達を呼ぶ事もあったし、まあそんな時はちょっと飲み過ぎて羽目を外すような事もありましたから、お互い様だと気にしていませんでした。
それが、3ヶ月くらい前から、様子がおかしくなりました。常に入れ替わり立ち替わり男達が出入りして、それも若い男からどう見ても隣の住人の友達とは思えない歳の中年の男達まで。昼の3時くらいから朝方までひっきりなしに出入りし始めました。なんか変だなと思いはじめてから、余計に物音も気になり始めました。僕は大学とバイトがけっこう忙しかったから、基本的には寝る時しか部屋にいないんですが、夜中に人がたくさんいるような感じの時もあって。時々午前中に部屋にいると、泣き声が聞こえてきました。啜り泣くような声が。
それから時々、怒鳴り声とか、誰かを殴ってるみたいな音もして、え?と思ってると、ごめんなさいとか許してくださいとか聞こえてきて。笑い声や煽るような卑猥な言葉を叫ぶ声なんかも聞こえてきました。聞こえるのは全部男の声でした。
それから、夜中に目が覚めると、ヤッてるんです。そんなに壁の薄い部屋じゃないんでよーく聞かないと分からないんですが、男達が複数いたりすると声が大きくなって分かるんです。オラ!とかケツ上げろ!とか。女の声は全くしなくて、呻き声とか、ヤられてるのは若い男の声で。夏休みに時々一日中部屋にいると、気になっちゃって聞き耳を立ててしまうんです。もう本当に昼過ぎから入れ替わり立ち替わり男達が来てヤッてって、売り部屋になってんだなって僕にも分かりました。人が部屋を出る音がすると、しばらくしてシャワーの音が聞こえる。そして人がやってきて、またギシギシやり始める。ずっと殴ってる音と泣き声とか悲鳴みたいな声が聞こえて来る時もありました。ヤバいなと思いました。」
「その時はずっと住人は部屋にいるのですか?」
「それは分かりません。住人の男を見かけることは前より少なくなりました。知らない人間ばかり出入りしてて。住人は僕と同じ歳くらいの若い男で、前はたまに会うと会釈くらいはしたんですが、エントランスとかエレベーターで顔を合わせてもなんか避ける感じで。」
「それで、あなたも買ったというのはなぜですか?」
「そんなつもりはなかったんです。ある時、夜、住人の男ともう1人の若い男と、エレベーターで乗り合わせました。僕はちょっと酔っ払ってて、気が大きくなっちゃって、言ってしまったんです。最近、ちょっとうるさくないですか?って。実際、なんか気になって眠れない時とかもあって。迷惑してるって言いたくなっちゃって。そしたら、住人は無言だったんですけど、連れの若い男がすげぇ嫌な感じでニヤニヤ笑い出して。僕もちょっと腹が立ってきて、知ってるんすよ、何やってるかって言ってみたら、おいでよ、今から部屋に。君もヤらせてあげるよって言ってきて。安くしとくよって言われました。やっぱり売り部屋になってんだって思いました。」
佐竹透、21歳。
県内の国立大学に通う大学生で、裕福な家庭で大切に育てられてきたという、家庭環境そのままの雰囲気だった。
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