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電脳のゴシップとその事情──カードの復刻
しおりを挟む「おい、今日も休みだけど、由子のこと聞いてる?」
「そういや、ネットでみかけたような…………ちょっと見てみる」
伊集院はタブレットををスタンバイモードからブラウザで「廻天百眼」をキーワードにググった。
──────頭髪、諦めていませんか? 奇跡の感謝の声殺到!──────
【特報・音楽】
活動休止状態だった「廻天百眼」が始動!
圧倒的なパフォーマンスと空前のサウンドに観客が騒然
「廻天百眼」が渋谷カストロ、新宿ロストでライブチケットが全て発売10分でソールド・アウトという異常な状態が続いている。これはオムニバスで行われたのサマーギグ#4で出演した廻天百眼のサウンドのインパクトが引き金となって評判を呼び、ソロライブが急遽カストロで開かれたところ、熱狂した観客が暴動状態になりライブが中止されるという前代未聞の事件となった。
すでにレコーディングされていた"Nothing But The Trues/Song of Sio"は限定版がタウンレコードで入荷と同時に5分で売り切れ、現在Yahhooで10万円を超えるプレミアが付いた。早くもメジャーレーベルの引き抜き合戦が始まっているが、廻天百眼HPのリーダー/Yuquoのブログの発言を読む限りではベーシストの国籍取得などの問題をクリアする契約であれば考えても良いと明言している。またファーストアルバムは名称は不明だがレコーディングは今月中に終了するとのこと。問題のベーシストの演奏についてはすべての音楽雑誌で「世界歴代ランキングレベル」との絶賛の声が贈られている。
来月にも渋谷公会堂でソロライブという情報まで流れていて、関係者によるとCDが発売されるとウィークデイでも関係なくソールドアウトが可能という話だ。また一部のBLマニアの間でキーボードのAmaneに熱い視線が集まっているという話題も。
「廻天百眼」メンバー ───────
Yuquo/Vocal
Akira/Gutter
Isotope Rain/Bass
Tomoki/Drums
Amane/Keyboard
──────痩せた娘と服がかぶった時の対処法/特報Queens──────
「おいおい、すっげえことになってんじゃんよ」
「ま、由子はいつかやると思ってたけど、そうか、あの「フィヨルド」のベーシスト、捕まえたんだ……と言うことは、俺ってチケット全部タダじゃんか! やりい!」
「え?「フィヨルド」関係してんなら俺にも資格はあるだろ!」
「お前みたいのが来たら確実に女喰うからダメ」
「俺、仕事してんじゃん! 俺の努力は誰に褒められるのよ。褒められるどころか責められてんじゃん。評価しろよ! 認めろって言って居るんだよ! チケット寄こせ!」
「だからね、伊集院。それはそれ、これはこれなんだな。殺人者が人助けをしたからって罪は消えないんだな、これが」
伊集院はいきり立って唾を飛ばす。
「どういう比喩だよそれは。俺にだってプライベートってもんがあるんだよ!放課後、部活やって帰る途中で遊んだら責められるのかよ! 少なくとも誰かさんみたいに伊勢屋で酒喰らって帰ったりしねえぞ俺は!」
照井はふんふんとまるで気のない頷きを返す。
「評判って言葉を知っているか? 俺は一応この学園の創立者の後継者だ。学園の評判をだな、少なくとも自分のクラスからだけは避けたいの。コンサートなんて公の場でわいせつ物を陳列されたら困るの」
「じゃあ! もうばれなきゃいいんだろ! 人殺したってばれなきゃ犯罪じゃねえんだからな! わあかった。わかったよ。もう健全にはやらねえ! 影でこそこそやってやろうじゃん。それならいいだろ」
照井は意地の悪い笑みを浮かべ、大声で言った。
「伊集院は最近実の妹にも「ひどいこと」したって中等部じゃ有名な話だぞ。家族を手込めにするようなやつは人間じゃないよ。ケダモノってんだよ! どうだ、申し開きが出来るのか?」
「あ~あのガキ~!!」伊集院は泣きそうな顔をして顔を覆い、身体を傾がせて絶望した。実際ちょっと泣いていた。
「いいよ俺、ネットで暮らすもん。ネットでバーチャルにエッチするもん」
伊集院はべそを掻きながらMarc-Areのパームレストに顎を乗せてベソをかいた。ディスプレイにはブラウザがリロードされて、新着のニュースを流していた。
──────誰でもラノベ作家になれる!有名変態作家の脱税法──────
【ニュース・社会】
野党の反対に追い風 「遺伝子保護法案」破棄か
臨床実験が破綻───審議会の解散も
──────信じられない!ラノベ出版社の黒い編集者、ロリコン?──────
執事には名前がない。必要なときに必要な事だけすればいい。それは充分に解っている。しかしこのままでは涼子様だけでなく、お舘様まで健康の危機に晒されると判断したからには、やるべき事をやらなくてはならない。
三浦家の孫娘、涼子の部屋の襖の前で、執事は静かなバリトンを響かせた。
「お嬢様、いらっしゃいますか」
当然のことながら答えはない。それは解っている。
「今日で三日もお部屋からでておりませんので、当家使用人代表としてまいりました」
ここで少し間を置くこと。必須である。
10分ほど経ってから、もう一度静かに声を出す。
「お舘様もお嬢様がふさぎ込んでいらっしゃいますので、お酒のみお召しになっておりまして、このままでは大変遺憾な事態になりかねません」
ひととき待つ。ここからは命を賭ける事になる。
「お嬢様にお手紙が届いております。しかしながら襖の隙間に差し込むような真似は出来ませんので、お嬢様の机に置かせて頂きます」
充分覚悟した時間が経った。かすかな、かすかな声がくぐもって聞こえた。
「襖を開けたりしたら許しませんよ」
「当然でございます。そんなことをしたら万死に値します」
執事は正確に涼子の机がある廊下の壁に回り込み、封筒を持ったまま「滲んだ」。
「それではお嬢様、失礼致します」
執事は階段を登ってきたときと同じように静かに降りて行った。
涼子は布団に身体を起こしていた。だから、執事の手が壁の中を浸透して封筒を置いていったのを「目撃」していた。
それは、まるで実は父親と母親が生きていたというニュースに匹敵する戦慄にも似た大事件だ。本当なら執事を問い詰めて聞き出さなくてはならない。しかし、涼子は執事を「呼ぶ」事さえ出来ないのだ。自分で築き上げてしまった壁がどれだけ厚くなってしまったのか思い知ることになった。
聞きたい。その秘密を。三浦家で忘れられてしまったその事実を。いや、「真実」を。
その耐え難い焦燥と葛藤に挟み込まれた涼子は身震いする、駄目だ、身震いするなんて三浦のすることではない。誰よりも堅牢な意志と自制心に満ちていなくてはならない。
涼子は起こったことを整理して考える。ひとつ。執事は『影』を歩くことが出来る。ひとつ。執事は「カード」の一人である。ひとつ。執事は涼子が「カード」の一人であることを知っている。以上のことを認めれば、答えは自ずと知れて行く。
「執事は自分が知らないことを何か知っている」という事実だ。自分の目で見た以上、それは認めなくてはならない真実だ。
涼子はついに意を決する。部屋着から普段着に着替え、執事に逢いに行くのだ。いや、多分執事は待っているはずだ。それが執事の仕事なのだから。必要なときに必要な場所にいる。それが執事の存在意義なのであるから。
涼子はもはや制服のようになってしまった絹のブラウスに袖を通し、紺のプリーツスカートを身につけた。靴下はいらない。そもそも野蛮な物だ。
部屋を出て、階段を降りた所に執事は立っていた。いつものタキシード姿で、何事もなかったかのように。
「お許しを頂ければご案内申し上げます」執事は腰を曲げ視線を合わさずに慇懃に言った。涼子は、ただ頷いた。それだけだ。
執事は先に立って、時折涼子との距離を確認しながら歩いて行く。
そこは涼子が一度も訪れたことのない古い倉だった。そもそも広すぎる家だ。むしろ知らない所の方が多いだろう。執事はポケットから鍵束を取り出すと、重い錠前を古い鍵で開けた。手入れはなされているようで、特に気になる軋む音は聞こえない。倉の上部には明かり取りがあり、想像していたよりは倉の中は明るかった。
倉の突き当たりに、奇妙な扉があった。アール・デコ調の装飾が施され、手入れはなされているが、恐ろしく古い。しかし、考えてみれば嘘か誠か知らないが、三浦という性になる前に「古事記」に出てくるほどの旧家であるらしい。こんな物は「新しい」のだろう。
ただ、扉には鍵のような物は見当たらず、四面体の窪みが付いている。よく見ると、何やら細かい文様のような物が刻まれていた。執事はポケットから鎖の付いた八面体の金属を取り出した。それにもまた、文様が刻まれている。それの向きを確かめるようにして、執事は扉の窪みに合わせた。まるで自動ドアのようにゆっくりと扉が開き、淡い午後の光に薄ぼんやりと照らされた部屋が現れる。
隠し部屋だ。涼子は確信した。その部屋の中に、促されて涼子は入っていった。
そこに見た物は信じられない机の上の様々な道具だった。筆や顔料、羽根ペンや彫刻刀、それに大小様々な鋏。
そして涼子の目を疑わせる物がその作業机の上に乗っていた。
それは粉砕されたかのように千切れた古いカードと、その隣に並んだ新しいカードだった。それは千切れたカードの複製が作られた現場だったのだ。
黒髪の、白い衣を纏い、鉛色の瞳をした少女の像。カードの下の帯に書かれた文字の名は「皇姫」。
「………………………」
「お嬢様。お嬢様にはまだまだお役目がございます。お嬢様がお元気であれば、親方様も。
三浦家の名にかけて、私の生命果てるまでお遣い致します。
涼子はその新しいカードを見つめ、静かに微笑んだ。
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