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エピローグ──吟遊詩人の奏でる物語
しおりを挟むとある街のとある酒場。
数多くの「影」の中でも比較的平和で温暖な気候に恵まれたこの港町には陽気な人々が溢れていた。旅の船員、商人、遊び人や女たち。店にはトルティーニャの焼ける香ばしい香りがたなびき、様々な野菜のピクルスが香りを添える。
高級ではないけれどそこそこに美味いハウスワイン、濁ったビールも乙なものだ。
冗談を交わし合い、男はタップダンスを披露し女はそれに合わせてスカートを翻す。
その店の隅にある小さなステージに灰褐色のマントを羽織り、同じ色の帽子を目深に被った少年が「バンドューラ」というハープの一種を持って椅子に座る。
「待ってました」と言うようにまばらな拍手が起こる。
右目を隠し、端正な横顔の少年は「バンドューラ」を爪弾いて音を合わせた。
軽いエチュードは「アランフェス交響曲」の第一楽章から。
その陽気な旋律は客の心を弾ませ、注目を集めた。
そしてその女性のような桜色の唇からハニーボイスの歌声が。
それは物語であり「吟遊詩人の詩」だった。
とある国があったとさ 誰も覚えていないけれど
とある国があったとさ 誰も覚えていないけれど
お姫様は欲しがった 何でもかんでも
お姫様は欲しがった 誰でもかれでも
欲しいものは手にいれる
手に入らなきゃ 穢してしまう
手に入らなきゃ 壊してしまう
間奏。いくつかの美しいパッセージが観客の心をくすぐる。
とある国があったとさ 忘れられた哀れな国が
とある国があったとさ 忘れられた哀れな国が
お姫様は嫌だった 覚えていて欲しかった
お姫様は嫌だった 忘れるものに手をかけた
12人の賢者たち 12人の賢者たち
鳴かないのなら 鳴かせてやろう
鳴かないならば 殺してしまえ
今一度この国がかつての笑顔を取り戻すために
今一度この国がかつての笑顔を取り戻すために
嗚呼全ての民は お姫様に忠誠を誓った
お姫様に忠誠を誓ったともさ
「バンドューラ」がヒステリックな音を奏でる。
優れたる者だけでこの国を王道楽土に導くと
優れたる者だけでこの国を王道楽土に導くと
愚かなる者に 鉄槌を
愚かなる者に 罪と罰を
二度とこの世に帰れぬように
二度とこの世に帰れぬように
未来を薔薇と黄金に変える魔術を望んだ女王よ
その愚かしさよ
未来を薔薇と黄金に変える魔術を望んだ女王よ
その愚かしさよ
未来を繁栄と悦楽に満たす魔術
マブラホーリング 聖なる道を開け カードに記された 人々よ
マブラホーリング 聖なる道を開け カードに記された 人々よ
バンドューラが溢れる透明な音色は酒場に響き
その指は華麗な舞いを踊り人々を魅了して止まなかった。
ナプキンに包まれた貨幣が吟遊詩人の足下に落ちた。
その国は穏やかな風の吹く何処とも知れぬ国になったとさ
その国は穏やかな風の吹く何処とも知れぬ国になったとさ
国は敗れて 城は朽ち果てても
明日には花が咲くだろう
明日には花が咲くだろう
明日には花が咲くだろう
明日はきっと
ブレイク。吟遊詩人の左目が光った。
きっと明日は素晴らしい
最後の和音が響いた後、万来の白書喝采が吟遊詩人を祝福し、その足下には多くの銅貨が包まれていた。
灰褐色の装いの吟遊詩人は孔雀の羽根飾りに付いた鍔の広い帽子を取り、立ち上がってバレリーナのように優雅に感謝を示した。
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