6 / 8
エピソード1:デッド・ハイツの日常
3
しおりを挟む
そして、時間は真夏へと戻る。大学に行く前、和茶は既に大汗をかきながら、上の階の生首青年──咲田 山本の元を訪ねた。和茶の手には、大学の文芸部が出している、同人誌の類があった。咲田は文学を愛している。しかし、なかなか、図書館の本以外を読む機会が無いことを嘆いている。大学の同人誌はそんな咲田への差し入れだった。
和茶はすっかり、生首である咲田に慣れていた。その適応能力には、和茶自身も驚いてしまった。慣れるしかなかった、とも言えるのだが。デッド・ハイツとの契約解除料は100万円。嶺想寺は良心的な大家だが、そこだけは負けてくれなかった。そんな和茶を憐れんでくれる、デッド・ハイツの住人の1人。それが、咲田だった。
「咲田さーん、一階の飯山でーす」
「あぁ、和茶君か。ちょっと待ってね」
重たい金属音、咲田が心霊パワーで扉を開ける。この現象の不思議さには慣れない和茶だったが、そんな時は心の中で唱える。100万円。100万円。100万円。大抵のことはこの「100万円」で乗り切れる自信がある和茶だったが、今日は違った。扉向こうから現れた咲田の口元が、赤く染まっていたのだ。和茶は目眩を起こした。
血、血は駄目だ。反則だ。それに気付いた咲田が、玄関の暖簾で慌てて口元を拭いた。このままでは、和茶はいつかのように嶺想寺の膝の世話になってしまう。
「和茶君!落ち着いてくれ、僕のこの赤いものは苺シロップだ!かき氷を食べていたんだよ!」
「……咲田さん、お酒しか受け付けないんじゃなかったでしたっけ」
「苺シロップにアルコールを足したんだ、頭がいいだろう?」
まだクラクラする頭を振って、和茶は咲田の部屋の玄関先に同人誌の類を置いて、言った。ガチな真夏のホラーはやめてください、と。咲田は、今後は気を付けるから許してくれないか、と苦笑いをしている。と、そんなやり取りをしているうちに大学に遅れそうだ、ということに気付いた和茶は、ダッシュでアパートの階段を駆け降りた。
汗が吹き出す。大学までこのままダッシュだ。今日は大学から帰ったら、嶺想寺とある「約束」をしているので、寄り道が出来ない日だった。アイスでも食べて涼んで帰りたいところだったのだが、それは嶺想寺が叶えてくれそうなので、よしとする。こんな「非日常」が、デッド・ハイツの「日常」だった。
和茶はすっかり、生首である咲田に慣れていた。その適応能力には、和茶自身も驚いてしまった。慣れるしかなかった、とも言えるのだが。デッド・ハイツとの契約解除料は100万円。嶺想寺は良心的な大家だが、そこだけは負けてくれなかった。そんな和茶を憐れんでくれる、デッド・ハイツの住人の1人。それが、咲田だった。
「咲田さーん、一階の飯山でーす」
「あぁ、和茶君か。ちょっと待ってね」
重たい金属音、咲田が心霊パワーで扉を開ける。この現象の不思議さには慣れない和茶だったが、そんな時は心の中で唱える。100万円。100万円。100万円。大抵のことはこの「100万円」で乗り切れる自信がある和茶だったが、今日は違った。扉向こうから現れた咲田の口元が、赤く染まっていたのだ。和茶は目眩を起こした。
血、血は駄目だ。反則だ。それに気付いた咲田が、玄関の暖簾で慌てて口元を拭いた。このままでは、和茶はいつかのように嶺想寺の膝の世話になってしまう。
「和茶君!落ち着いてくれ、僕のこの赤いものは苺シロップだ!かき氷を食べていたんだよ!」
「……咲田さん、お酒しか受け付けないんじゃなかったでしたっけ」
「苺シロップにアルコールを足したんだ、頭がいいだろう?」
まだクラクラする頭を振って、和茶は咲田の部屋の玄関先に同人誌の類を置いて、言った。ガチな真夏のホラーはやめてください、と。咲田は、今後は気を付けるから許してくれないか、と苦笑いをしている。と、そんなやり取りをしているうちに大学に遅れそうだ、ということに気付いた和茶は、ダッシュでアパートの階段を駆け降りた。
汗が吹き出す。大学までこのままダッシュだ。今日は大学から帰ったら、嶺想寺とある「約束」をしているので、寄り道が出来ない日だった。アイスでも食べて涼んで帰りたいところだったのだが、それは嶺想寺が叶えてくれそうなので、よしとする。こんな「非日常」が、デッド・ハイツの「日常」だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜
咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。
笑えて、心温かくなるダンジョン物語。
※この小説はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。
日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。
悪役令嬢と入れ替えられた村娘の崖っぷち領地再生記
逢神天景
ファンタジー
とある村の平凡な娘に転生した主人公。
「あれ、これって『ダンシング・プリンス』の世界じゃない」
ある意味好きだった乙女ゲームの世界に転生していたと悟るが、特に重要人物でも無かったため平凡にのんびりと過ごしていた。
しかしそんなある日、とある小娘チート魔法使いのせいで日常が一変する。なんと全てのルートで破滅し、死亡する運命にある中ボス悪役令嬢と魂を入れ替えられてしまった!
そして小娘チート魔法使いから手渡されたのはでかでかと真っ赤な字で、八桁の数字が並んでいるこの領地収支報告書……!
「さあ、一緒にこの崖っぷちの領地をどうにかしましょう!」
「ふざっけんなぁあああああああ!!!!」
これは豊富とはいえない金融知識と、とんでもチートな能力を活かし、ゲーム本編を成立させれる程度には領地を再生させる、ドSで百合な少女の物語である!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる